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21.初めての魔物と初めての飛行

 起きて階下に行くと、すでにミユキが研究室に来ていた。

「おはようございます」

「あ、おはようございます」

 元気に話しかけてくれる。

「よし、じゃあ、今日はお外にピクニックだ」

 昨晩話した魔物狩りのことだろう。

「え? もう行くんですか?」

「問題ない。ミユキにも話しといたぞ。お主の必殺の魔法のことも」

「はい。お聞きしました。すごいですね。これなら私でも魔物が狩れそうです」

 いや、魔法の問題というより、生き物を殺すという倫理観の問題で苦労しそうなんだけど、現に私は少し怖い。

「お? お主、ビビっとるの?」

「そりゃ、そうですよ。今まで殺したことなんてないんですから」

「かー! 甘い甘い、甘ちゃんだわぁ。ミユキよ。どう思う?」

「え? マキトくんにそういう一面があるってなんか……可愛いです」

 いつの間にか君付けになっている。ま、いいんだけど、実年齢だと40歳以上も上なんだよなぁ。

「なあ、マキトくん。ビビっとるのはお主だけのようじゃぞ?」

「ミユキさんは平気なんですか?」

「魔法は使えませんでしたが、学校の授業で狩りには出てますから」

 おぉ。なんというスパルタ。いや、この世界はこういうものなのか?

「よいよい。やれば慣れる。どのみち、この世界で行きていくなら魔物は避けて通れんからの」

「わかりました! 行きましょう」

 意を決しる。たしかにそうだ。この世界にはこの世界の理がある。まずは、それを覚えなければ、生きていくことはできない。

「で、準備は?」

「すぐ近くだから要らんよ」


 街を出た。初めて見る外の世界。

 まず、目に入ってきたのは草原。まっすぐに続く道はあるものの、視界の8割は草原が続いている。

「街の外に人は住んでないんですね」

「そりゃ、いつ魔物に襲われるかわからんからな」

 そういや、ギルドはお金がないから街の外に作ったたと言っていたな。

 ギルドなら冒険者あたりに見張りを頼めばいい。そして、魔物に襲われるくらいだから、当然土地代はかからない。か。なるほどね。

「ほれ、こっちじゃ」

 我々は、街を出て右手にある森に向かった。距離にして400メートルほど。どうやらここが目的地なのだろう。たしかに近い。


 森に入る。鬱蒼と……してない。

 木々の茶色も薄めで葉も黄緑。それほど木の量も多くない。そのため、木漏れ日が差し込み、葉の光が余計に淡く輝く。また、朝ということもあり、葉や幹に着いた夜露が太陽の光を反射して、森全体がキラキラ輝き、神々しささえ感じられる。

「ここにいる多くの魔物は小型の狼です。クリープウルフと呼ばれています」

 クリープ。雑魚とかそんな意味じゃなかったっけな? 

 そんな異名を付けられるくらいなら、この二人が入れば大丈夫かもしれない。

 5分ほど歩いても魔物の姿は見えない。

 あまりにも森がきれいなので、緊張の糸が緩んでいく。

 中学生二人について行く小学生。仲の良い姉弟+姉の友人。と言った感じか。この3人が野草詰みついでにピクニック。


「!」

 突然、服を引っ張られた。その拍子に転んでしまったが、見ると、二人は同じ方向を見ている。どうやら魔物を見つけたようだ。

「お主、ここに来い」

 小声でアリシアが私を呼ぶ。しゃがんで草むらの中に入る。なるべく音を出さないようにゆっくり慎重に。

 アリシアとミユキが草むらから顔を出しているので、私も真似をして顔だけ出してみる。前方に狼がいる。魔物かどうかは判別が付かない。

「マキ、いやミユキよ。できるか」

「はい」

「顔全体、いや、お主なら体全体をマナで覆うことも可能じゃろう。なるべく広い範囲を覆って、ウルフが移動しても対応できるようにしておくんじゃ」

「はい」

「よし、やってみろ」

 ミユキから集中力の高まりを感じられる。

 と、思った瞬間、突然狼がピクッと動きを止めた。

 そして、しばらくすると暴れ始めた。その場でくるくる回ったり、小さく飛び跳ねたりしている。

 徐々にその動きは小さくなり、2分もするとうずくまって動かなくなった。

「やりました?」

「いや、気絶しているだけじゃ。どうする? とどめを刺すか? それともこのまま行くか?」

「このまま行きます」

 2人は狼に近づく。私も後から追いかける。

 狼を観察する。お腹はまだ動いている。しかし、その目は大きく見開かれている。

「赤い目」

 その目はルビーのような深い赤、まるで血の色のような赤。

「うむ。魔物の特徴じゃな。マナによる身体の活性化により、目の毛細血管が破れ、眼球全体を赤く染め上げる。それを何年も繰り返すうちにこれほど深い色になるんじゃ」

 しばらくすると、お腹の動きもなくなった。狼は舌を出して絶命していた。

「ふむ。成功じゃな」

「これ……すごいです」

「そうじゃな。まだ、確定ではないが、突然空気が吸えなくなると、動き回るよりも体が硬直するようじゃ。これは、剣士との相性も良い魔法じゃな」

 昨晩、アリシアに語った魔法は、対象にマナの膜を作り、その膜内の酸素を抜いてしまうというもの。

 アリシアは実験の中で「空気を抜く」という発想に至ったことはあったのだが、うまくいかなかったようだ。

 マナは小さな物質を運ぶことができる。しかし、空気という物体はこの世にはない。あるのは複数の気体の集合体。ゆえに、真空を作ることはできなかったのだろう。

 しかし、酸素と指示を出せばアッと言う間にゼロにできる。

 そして、その結果がこれだ。

「どうします?」

「ま、今は毛皮も魔石もいいじゃろ。次じゃ」

「わかりました」

 そう言うと、狼は燃え始めた。パチパチと音を立てて燃え上がる狼。

「な!」

「ほれ、隠れるぞ」

 草むらに再び隠れる。最初は毛を焼いたときのあのイヤな臭いが立ち込めていたが、だんだんと食欲をそそる匂いが漂ってきた。肉が焼け始めたのだ。

「来るぞ」

 匂いに釣られたのだろうか、また狼がやってきた。

 今度は2匹。しかし、匂いの元は燃えているので手出しができない。

「ミユキ、もう一度、いや、お主の魔力がみたい。二匹同時にやれ」

「はい」

 二匹の距離が近づいた瞬間。同時に苦しみだす。

 そして、同じように動かない、少し、暴れる、気絶とさっきと同じ流れを繰り返した。

「おそらく、もう少し集まるじゃろ。次はマキトな」

「はい」

 いよいよ私の番か。と思った瞬間にやってきた。これまでより少し大柄、倒した3匹は体長1.5メートルくらいだが、今度は2メートルを超える。明らかに狼としては異常な大きさだ。

「動きを止めたら殺れ」

 匂いに釣られたが、炎にたじろぐ。その瞬間を狙い、狼の頭を中心に半径50cmくらいの透明なカプセルをイメージする。そして、その中の酸素を抜く。

 同じように狼は動きを止める。しかし、先ほどの3匹よりも早い時間で硬直が解ける。そして同じように暴れる。が、やはり、暴れる範囲が大きい。私は、その動きに合わせて透明なカプセルを動かすが、狼が激しく頭を振った時、カプセルの外に頭が出てしまった。

 しかし、そこでまた狼の動きが止まる。

 どうやら、急に呼吸が出来るようになったせいで、状況が一変し困惑し止まってしまったようだ。私は再びカプセルを移動させる。

 また、息を吸えなくなったが、学習した狼は激しく暴れまわる。今度こそ外さない。私は狼の頭の動きに集中し、カプセルを移動させる。巨大な狼と言えど、頭の大きさは人間の頭より少し大きいくらいだ。対して、こちらが動かしているのは直径1メートルのカプセル。集中さえしていれば外すことはない。

 狼は倒れた。私はカプセルを解かずに近づいていく。ほどなくして狼は力尽きた。

「よし、実験は成功。ということで良いじゃろう? ミユキ」

「はい」

 ザシュという音がする。そして、ググッと目の前の土がどかされ、アッと言う前に1メートル四方の穴があいた。

「少し小さいな。ほれ」

 そういうと、縦にも横にも穴はが広がっていく。

「どうやったんですか?」

「マナで細い板を2枚作るんです。それを勢いよく地中に埋めてから、板を広げるようにマナを移動させました」

 昨日、魔法を覚えたばかりなのに、なぜ、そんなに応用ができるのだろう?

 私が不思議に思っているとエスパーが発動する。

「此奴は、魔法が使えなかった分、勉強はしっかりしておったからな。じゃから、学校で習うことは全部知っておる」

「でも、慣れていないので、小さい穴になっちゃいましたけど」

 少し照れながら笑うミユキ。この子はなんというか小動物的な可愛さがあるな。

 学校生活は地獄だったに違いないが、それでも学校に通えていたのは、この可愛さのせいなのかもしれない。というか、学校は魔物退治の処理方法まで教えるのか。

「そんなことまで習うんですね」

「我々魔法使いは戦闘だとサポートがメインです。なので、他にもキャンプの設営方法とか、罠の張り方、料理の授業なんかもあるんですよ」

「それより、ほれ、とっとと狼を埋めんかい!」

 足を持って、運ぶ。が動かない。今の私の体では、巨大狼を運べるほどの力がない。

「情けないのぉ」

「いや、筋力の問題なんで、どうしようもないで……」

 と、言うや否や急に力が上がったように狼が動き出した。それでもかなりツライが、なんとか穴に落とすことができた。

「今のは?」

「これが、補助魔法じゃ。力が上がったじゃろ?」

「ええ」

 それから穴を埋める。細かいマナの粒を地中に下ろし、マナを暴れさせて土を柔らかくする。その後、二人がかりで巨大な風魔法を作り、一気に土を運んで穴を埋める。

 説明を聞き、私もやってみた。土を柔らかくするところまではできたが、大きな風を起こすことはできず、パラパラと土が穴の中に転がっていくだけだった。

 私の魔力が弱いのか? いや、たぶん、二人が常識を超えているのだろう。

 私の魔法を見て、アリシアが言った。

「お主の魔力は、魔法学校の生徒で言えば、4年生の平均。というところじゃな。冒険者として働いている魔法使いのレベルから見たら半分程度じゃ」

 それは、喜んでいいのか、悲しんでいいのか。

 この学校はたしか8歳からの入学。つまり、私の見た目年齢からの入学なので、平均からしたら高い方なのだろう。

 ただ、異世界から転生してきた人間。という観点で見ると、なんだか物凄い低い気がする。もっとボーナス的なものがあっても良いのではないだろうか?

「お主の魔力だとだいたい、3メートルくらい先までが、マナの制御範囲じゃな。となると、冒険者なら6メートル。じゅうぶん使えるの!」

 アリシアは物凄い満足しているようだ。

「ミユキ! お主のマナカプセルはどれくらいまで広げられる?」

 狼を倒すために透明なカプセルを想像していたが、一般的にもマナカプセルというのか。

「えっと、やってみます」

 ミユキは両腕を大きく広げながら前に出し、少しだけ縮めた。

「えっと、あの木からあそこの木くらいです」

「ほう。60メートルくらいか。これはやばいな」

「アリシア様は?」

「わしは100メートルちょっとじゃな。……うーむ。この魔法使い方を謝るととんでもないことになるな」

「……そうですね」

「こりゃ、軍事的国家機密どころか、我々だけの秘密。ということにしたほうが良さそうじゃなぁ」

「はい」

 アリシアなら周囲100メートルの酸素を無くせるということだ。範囲で言えば、学校にいる生徒を一網打尽にできるくらいじゃないか。

「わかりました」

「じゃあ、いったん戻るとするか、で、せっかく魔法使い3人で来ておるんじゃから、飛んで帰るぞ!」

「え?」

「いや、学校でも4年生くらいから空を飛ぶ魔法を教えるのでな。ちょうどよい機会じゃお主も覚えるがよい」

 アリシアが言うとミユキがハッとした顔をした。

「あ、そっか。私も飛べるんだ」

「飛び方はわかるか?」

「はい」

「では、マキトに説明してやれ」

「えっと、自分の身長よりちょっと高いくらいの場所に、マナさんが物凄いスピードでやってくるんです。もう、一瞬で近づくくらいですよ? それを繰り返すんです。それで、上の方にすごい風を感じたら、走ってジャンプして空中で体を水平にしてください。まずは、ここまでをやってみてください」

 なるほど。ベルヌーイの定理か。流体は速く流れるほど気圧が下がる。そして、物体は気圧が低いほうに引き寄せられる。この定理が、飛行機が揚力、すなわち浮く力を得る要因となっている。

 わかりやすい例で言えば、スプレーは噴射口の空気を素早く送りだすことで、下にある液体などを噴霧する。という仕組みだ。

「わかりました」

 自分の頭の上30cmくらいのところに遠くから大量のマナがビュンビュン飛んでくるところをイメージしてみる。マナの移動により風が生まれる。風が強くなると周囲からも空気が集まるので、より多くのマナがビュンビュン自分の頭の上を通っていく。そんなイメージが描け、実際に自分の頭上には強い風が吹いていることを感じられる。

 このイメージを保ちながら、少し駆け足でジャンプ。そのまま体を水平にする。グワッとなにかに引っ張られるような感覚があり、私はそのまま宙に浮いていた。

 と、思った瞬間、風の流れが緩やかになり、地面に落下した。

「いたっ!」

「抜いたの」

「抜きましたね」

「すいません。体が浮いたことに驚いてしまって」

「ま、みんな最初はそうなるものじゃ」

「でも、すごいですよ。私はずっと見学してましたが、最初からすぐに体を浮かせられる人なんていませんでした!」

「あ、いえ」

 そりゃそうだ。この世界の子どもがベルヌーイの定理なんて知るわけない。

「で、次は、腰の当たりからマナさんを後ろ向きに素早く動かしてください。上のマナさんと下のマナさん。2つを同時に動かせれば飛べるはずです」

 なるほど。

「ちょっと私もやってみますね」

 と言ったと思ったらあっさりできてしまった。しかも、器用に高度を上げたり下げたりもしている。そして、こちらに戻ってきて、着地をしたが、このときちょっとフラついた。

「あ、着地をするときは、下のマナさんを切って、体を立てながら上のマナさんも切れば大丈夫みたいです。でも、タイミングが難しいですね。私もコケそうになりました」

 そう言ってミユキは「へへへ」と笑った。

 やばい。この子のこういう可愛さはヤバい。前世で子どもを作らなかった私だが、年齢に応じた父性は多少なりともある。ちょっと、今のは、親心をくすぐる。

「わかりました。やってみます」

 おそらく、優しい目をしてしまっただろうが、それを誤魔化すようにもう一度、飛んでみる。気持ちを切り替えて、マナを移動させて飛ぶ!

 体を水平にしながら、腰辺りのマナをどんどん後方に移動させる。あ、ちょっと推進力がついた。でも、飛んでいると少しずつ足が落ちてくる。少し踏ん張って上に持ち上げるようにしないと。

 少しずつ下のマナの速度を上げる。徐々にスピードが出る。地上からそれほど離れていない距離を飛んでいるので、下を見ると、物凄い勢いで地面が後方に飛んでいく。

 風に煽られてはためく服の音がうるさい。

 手を翼のように広げて、足も少し開く。ああ、このほうが体は遥かに安定するな。

 そして、先ほどミユキがやったように高度も変えてみる。多分マナの移動を少し上にするのだろう。でも、風の方向を変えると、下の風とぶつかったりして乱気流がおきそうで怖い。だから、風は水平方向のままゆっくりと、上へ上へと持ち上げていく。

 おぉ、おぉ! 体がどんどん吸い上げられるように上に持ち上がる。

 広げた手を少し傾けてみる。おぉ曲がった! すごい、すごい。これは、気持ち良すぎる!


 3分ほど楽しんだ後、二人のところに戻ってくる。

「うわっとっと」

 やはり着地は難しい。でも、今度はギリギリで転ばずに着地できた。

「できました!」

「うむ。それだけ飛べれば十分じゃろ。よし、帰るぞ」

ゆっくり歩いて森まで6分。森の中を歩いた時間は15分。合計21分。

しかし、帰りは、わずか3分で街の入口に戻ることができた。


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