17.街の探索と平和の道標
街を歩く。
噴水にあるベンチに腰掛けて、街を見渡す。
石造りの家が多い。切り出したり、加工したりも大変だろう。
でも、マナや魔石が行ってるのかな?
あ、マナを移動させればチェーンソウは作れるんじゃないか?
以前アリシアにモーターの話をしたが、そもそも魔法や魔石で移動はできる。
屋台か。目の前にある屋台に目が留まる。昨日、買った串焼きの屋台だ。移動ができるように車輪が付いている。この頃は天然ゴムがないので木製の車輪だ。
木製? 屋台に近づく。私のことを覚えていたようで「今度はどうした?」と声をかけてきた。
「ちょっと屋台に興味があってよく見たいんだ」
「お? センスのいい坊主だな。やっぱ物を売るなら屋台がいちばんよ!」
「へぇ」
「いいぜ、好きなだけ見ていきな」
許可をもらったので、じっくり見させてもらう。
車輪は木製でシャフトも木製。どうやら釘は使わず、はめ込み式になっている。軸だけは鉄だ。他の部分も見る。木材と木材のつなぎ目もはめ込み式。
「釘は使ってないのか」
私の独り言に店主が答える。
「高ぇからな。釘は。あんまり使ってねぇけど、ほれこことかに使ってるぜ」
釘が高い? それに見せてもらった釘の質も良くない。手作り?
「本当だ。そういえば、木ってどうやって切るの?」
「は? そんなことも知らねぇのか。ったく。んとな? 斧って武器があってよ。こんな形してるんだけどよ。これを木に向かって、スコンって叩きつけるんだよ。こっちからも、こっちからもな。それで、ある程度切り込みが入ったら、最後は、こう……軽く助走を付けて……キック! だ」
やたらとうまい形態模写だった。そのせいでキックをした瞬間周りから拍手が起こった。この機を逃すまいと宣伝を始める
「どうもどうも。さ、木を切り倒したら休憩だ! どうだい串焼き一本200ベイ!」
そういうと、拍手をしてくれた数人が屋台に集まってきた。
「悪いな坊主、おじさんは仕事だ」
私は「ありがとう」と言って屋台を離れた。
収穫あり。アリシアもチェーンソウに興味を示していたが、やはり、このような機械はないようだ。おそらく同様に手持ちのグラインダーもないと思っていいだろう。
それと釘。
……硬貨の鋳造技術を使えば、良質な釘の量産もできるはずなのに。
金物屋を探す。おそらく冒険者ギルドの近くにあるだろうと、向かってみると、案の定冒険者ギルドの近くには武器防具を扱うお店が並び、近くに金物屋もあった。
お店に入り、この時代の金属を使った日用品を見る。
鉄を叩いて伸ばして形を整えて。そんな感じで作られたのだろう。そのため、触ってみると、凹凸を感じられるし、鉄の厚みも均一ではない。これでは、熱の伝導率が均一になりづらく、壊れやすいし、味も落ちる。
包丁などの刃物はさすがに質が良さそうだ。でも、鎌や鋤、鍬などの農業用具は形が少し歪。釘もあった。やはり高いし、これも歪。
うーん。どうしてこんなに差が出るのだろう?
「どうした? 真剣な顔して」
店主が話しかけてきた。
「あ、えっと、なるべく良い物を買いたいんだけど」
「そうか。ならおじさんが一緒に見てやろう」
買うといったが、児戯に思われたようだ。
でも、他に客もいないため、付き合ってくれるようだ。
「なんか、鍋が少し歪んでいる気がするんだけど」
「まあ、そうだな。でも、これなんかは良さそうだぞ?」
いくつかの鍋から1つを見せてくれる。たしかに並んでいる鍋の中ではいちばん良さげだ。
「どうして、1つ1つ違いがあるの?」
「そりゃ、職人が違うし、その職人も日によって出来が違うからな」
「そっか。じゃあ、なんで包丁はみんなスゴイの?」
「お、良い見方だな。いいか鍛冶師の修行は、まず鉄と熱に慣れながら鉄を平らにする。そして、そこから鍋を作る。そして、細かな技を磨くために釘や金具などの道具を作る。そして、少しだけ刃が必要になる農具を作り、本格的に刃が必要な包丁、小刀なんかを打つ。これがまともに作れるようになってようやく武器だ」
そういう順番で修行を積むのか。なかなか理にかなっている。
ってことは、鍋の品質が揃ってないのは、新米の修行でできるからか。
「えっとじゃあ、この鍋とこの鍋をください」
私は、店主のオススメと私の見立てでいちばん良くないものを選んだ。
「こりゃ、極端なのを選んだな。それでいいのか?」
「うん。実験したいから」
「……よくわからんが、ま、買ってくれるならありがたい」
「あと、釘といくつかの金具もいただきます」
私は2つの鍋と金具を買い、研究室に戻ることにした。
「ただいま戻りました」
「おう。って何を買って来たんじゃ?」
「鍋です」
そう言いながら、買ってきた鍋2つをアリシアに見せた。
「ふむ。ただの鍋じゃな。これがどうした?」
「ふと、思ったんです」
そう言いながらアリシアに硬貨を見せる。
「ベイ硬貨は、この時代の技術とは思えないくらいに鋳造レベルが高い」
「そうじゃろう。そうじゃろう」
「この技術を使って作れそうな物をいくつか見つけました。1つが、その鍋です」
「うーむ。そりゃ作れるじゃろうが、それで何になる?」
「安くて質が良く料理が美味しくなります」
「なら、みんな買うな! でも、鍋じゃろう? もっとみんなが買うような物はないのか?」
「そうですね。これなんかはどうでしょう?」
釘と金具を見せる。
「釘となんじゃこれ?」
「L字型の金具ですね。木と木を90度に繋ぐときに使います」
「これも鋳造でできるのか?」
「は大量生産できます。釘は製鉄技術と加工が必要ですが、できそうな気がします」
「あと、以前、お話したチェーンソウって覚えてますか?」
「なんじゃそれは?」
そっか。モーターの話からチェーンソウの話になったが、チェーンソウという名前は出してなかった。
「以前話したモーターを使った少ない力で木を切る道具です」
「あーあれか! 少し考えてみたがまったくできんかったわ」
「ですよね。でも、考えてみればモーターを使わなくてもマナでできるかな? って思ったんです」
私は丸鋸の形を紙に書いた。円形の鉄の板にノコギリよりも細かいギザギザの歯。
「この円盤をマナで回そうと思うのですが、どうしたら良いでしょうか?」
アリシアは研究室のゴミみたいな山から、やや小さめの丸い鉄の板を取り出した。
「ちょうど丸い鉄板があったぞ。これを魔法で回すのじゃな?」
円の外側に点を2つ書き、その点を定規で結ぶ。そして、その線の中心から直角に線を引く。これを2回繰り返し、中心点を見つけると、そこに錐で穴を空け、細い金属棒を差し込んだ。
「よし、行くぞ?」
鉄の棒部分を持ち、鉄の板をゆっくり回転させる。そして、徐々に速度を上げて、最終的には「ブオーン」と音を立てるほどの速度になった。
「これで良いか?」
「ええ。この速さなら問題ありませんが、でも、木を切ろうとしたら回転止まっちゃいますよね?」
「いや、大丈夫じゃ」
そういうとアリシアは一度回転を止め、大きくて太いハサミを使って、外側をバチン、バチンと等間隔に切れ目を入れた。そして、上下上下と歯を少し曲げていく。
「よし、切れ味は悪いじゃろうが、これで試してみるか」
そう言って外へ出るように促した。
研究室を出て手頃な木を見つけた。
「よし、これでいいじゃろ。行くぞ」
円盤を高速回転させる。
そして、木に当てる。「ブイーン」という物凄い音を立てながら、木に歯が刺さって行く。
「ほうほう。これはなかなかのものじゃ……あ」
手に持っていた鉄の棒が折れてしまった。
「やはりこうなってしまうよな」
見ると鉄の棒が焼き切れたようになっている。
「いや、あとはこの軸を完成させればいいだけじゃないですか。成功ですよ」
「ほう。どうするのじゃ?」
「そんな難しいことではありません。油でも差して軸の回転を滑らかにし、冷却の魔法で冷やせばいいんです」
「なるほど。それで行けそうじゃな」
研究室に戻り、アリシアが入れてくれたお茶を飲む。
「見ろ。たったあれだけの時間で、もう歯がボロボロじゃよ」
円盤を見せられる。鉄の歯は、負荷に耐えられず曲がったり欠けたりしている。
「そうですね。でもこれは、歯の形の問題です。木を削るような感じの歯の形がいいと思います」
使った経験がそれほどないので、なんとか形を思い出しながら、絵にする。
「さっき私の作った歯は何がいけなかったんじゃ?」
「あの上下にある形はノコギリに近いですね。押す、引くの両方で切るならいいんですが、この歯は一方向にしか回らないので」
「なるほど。そういうことか」
なんとなく、今までの話のようなノリがない。どういうことなんだろう?
「あの、すいません。なんか、あまりノッてなくないですか?」
「うむぅ。いや、これも売れそうではあるが、これは、お主の言う戦争の入口にならんか?」
「え? 何を言ってるんですか? これはドラゴニアで作って売る予定ですよ?」
「お? おぉ! そうか! そうじゃったな! ということは、これがお主の言っていた」
「ええ。製鉄の学校のネタです」
「そうじゃよ!」
さっきから、アリシアとは思えないほど頭の精彩が欠いている。もしかして、私の話が思ったよりショックだったのか?
「ちなみに、円盤を回す技術を使えば、手持ち式のグラインダーも作れます」
「なるほど。グラインダーとチェーンソウで製鉄技術を見せつけるのじゃな?」
「ええ。鉄と言っても硬貨に使うくらい不純物の少ない状態にしないと良い鉄はできませんからね」
「……しかし、これでうまくいくのかのぉ? 鍋とかチェーンソウとか、後は金具とか釘? ベイランドの硬貨で得た利益を考えると、そらに対抗できる柱になるとは思えないんじゃが」
「ええ。だから、その柱が私の最終目標です」
「ほう。教えてくれ!」
「ですから、柱です」
「へ?」
「ドラゴニアに製鉄、鍛造、鋳造の技術を持ち込めば、良い鉄をドラゴニア国内で作ることができます。では、鉄って何でいちばん使うと思いますか?」
「ふむ。剣とか矢じりとか戦いの道具で結構使いそうじゃが……あ、柱か?」
「ええ。鉄柱です。製鉄技術が高まれば、間違いなく、建物に鉄も数多く使われるようになります。そのとき、もっとも売れるのは、建物の基礎となる鉄柱です。そうなる前に、ドラゴニアが鉄柱の国際規格を決めて売り出せば、鉄を輸入するしかないベイランドでは価格で負けるので絶対に作れません」
「なるほど! もっとも簡単でもっとも売れる物を作るのか。で、お主、さらにその先も考えておるじゃろ?」
「あ、たぶんアリシアさんと同じ答えです。ベイランドの技術をドラゴニアに持ち込めば……」
「ドラゴが新しい硬貨に生まれ変わる!」
ほぼ二人同時に叫んだ。
「こうなればベイランドとドラゴニアは正当な経済競争の土俵に上がれます」
「それで、お主が起こす戦争も回避できるというわけか!」
「ええ。戦争を起こすのは私ではありませんけど」
アリシアが私の手をとり、振り回している。
「よくやったぞ! お主! これで私も自由に動かえるのじゃな!」
「ええ」
というと、コンコンとノックの音が聞こえた。トビラの外から声が聞こえる。
「盛り上がっているところすいません」




