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11.スカした教師と見世物という名の拷問

 1階の研究室に降りる。

 ちなみに、1階はすべて研究室。30畳ほどのスペースがあるはずなのに、あまりに物が多いせいでそれほどの広さは感じない。ただ、入口の前にはポールダンスで使うような鉄の棒がある。今朝はなかったはずだが……。

 アリシアはソファーに座っている。

 その対面にはクルドが座っている。

「こんにちは」

 クルドに挨拶をする。

「やあ、昨日はよく眠れたかい?」

「ええ、おかげさまで」

「それはよかった」

 続いてアリシアが声を掛けてくる。

「それで、魔法はどうじゃ?」

「あ、はい。この本に書いてある竜巻の魔法と火の魔法はできたと思います」

 お茶を口にしていたノルドが厳しい目を私に向ける。

 そして、カップを置いた後、静かな、しかし、問い詰める口調で話す。

「君は魔法を知らない。私は、そう認識しているのだが?」

 アリシアがそこで口を挟む。

「うむ。そのとおり! 此奴は正真正銘。何も魔法を知らん。ほれ、此奴が手に持っている本を見よ。わしの本じゃぞ?」

「ほう、ならば君は、昨日の夜から魔法を習い始めて、今日の昼には火の魔法まで使えるようになったと。……そうですか。それはスゴイですね」

 フッと笑いながら話すノルド。あ、これは、嘘をついた子どもを問い詰めようとするパターンのやつだ。

「ノルド、違うぞ。夜じゃなく今朝! 此奴は今日の朝から私の本だけで火の魔法まで覚えたということじゃな」

 アリシアのフォローになってないフォローで、より信憑性は減ってしまった。

 ノルドは「ふぅ」と小さくため息をついて同じ言葉を繰り返した。

「へぇ。それは、スゴイですね」

「ムキー! 何じゃその子どもの嘘に付き合っている大人みたいな態度は、許せん! おいマキト! こいつに目にもの見せてやれ」

「え?」

「こいつだって、一応魔法学校の教師じゃぞ。対処くらいできるじゃろ。何しても大丈夫じゃ!」

「いいですよ。受けて立ちます。では、マキトくん。その炎の魔法とやらを見せてください」

 ノルドはお茶を飲みながら、挑発を軽く受け流す。態度はちょっと癪に触るが、たしかに人に教えているくらいだから、不測の事態にも対処ができるのかもしれない。

「では、すいません。やらせていただきます」

 私は研究室の中央に立ち、ザッと周囲を見渡し、構想を練った。

「じゃあ行きます!」

 まず、風の魔法をセット。部屋の中央から少し離れたところでマナを回転させる。物質によって風を生み出すので、竜巻を作るまでには時間がかかる。

 そして、部屋全体にマナの膜を張り、凝縮させながら塵を集めていく。

 ある程度集まってきたら、塵の中央部にもう1つ膜を張って、この膜で中央に集まった塵を強く凝縮する。これで炎の核を作る。そこに緩やかに凝縮させた塵を周りにまとわせる。

 これで炎の玉ができ、風に乗せやすくなるはずだ。

 振動させて着火。同時に竜巻で作った風を誘導し、炎にぶつける。

 よし、ぶっつけ本番だけどうまくできた!

 一陣の風とともに炎がノルドへ向かう。

「!」

 私が魔法を発動している間、ノルドはものすごい驚いた顔を見せていたが、炎が現れた刹那、立ち上がってバク宙でソファーを飛び越える。同時に何かの呪文を詠唱している。

着地と同時にノルドの前に水の壁が現れ、私の火の玉は水の壁に阻まれ消えてしまった。

「おぉ!」

 その素早い動きと冷静な対処に思わず感嘆の声が出た。

「……ふぅ」

 大きく息を吐き、呼吸を整え、ノルドは再びソファーに腰掛けた。

「お主、すっごいのぉ! たった3時間でそこまでマナを使いこなせるようになったのか! それにお主……いや、この件は後で聞くことにする」

 なんだろう? なんか変なことしたのか? それより、アリシアの言葉の途中でノルドは声を裏返しながら驚きの声を上げている。

「さ、3時間?」

「だから、言ったじゃろ。此奴が魔法を覚えたのは今朝からだって」

「……いや、でも」

 ノルドは理解が追いつかない様子でブツブツと何か言っている。

「いえいえ。アリシアさんの本がわかりやすかったからです」

「まったく、うまいこと言いおって。そんなこと言っても何も出んぞ? うん?」

 と言いながら、アリシアは嬉しそうだ。

「おかしい……。どれだけ勘の良い生徒でも一ヶ月はかかる。私でさえ3週間。それも、この鬼校長の人権無視指導で3週間だ……。それを一日どころか数時間? ありえん。絶対にありえん」

「さーて、マキトくん」

 アリシアが口調を変えて話す。

「これから、鬼校長と言ったノルドくんを使った楽しいショーを始めます! はくしゅー」

「!」

 声にならない驚きを見せるノルド。

「いや、そんなことは……」

「ん? なにせ私は鬼だからの。人間の言葉はようわからん」

 言うやいなや、アリシアは片手を上げてノルドに向けて腕を振り下ろす。

 それと同時に猛烈な風が起こり、ノルドはまっすぐ入口へと飛ばされ、入口前にあった鉄の棒に激突する。同時にアリシアもノルドに向かって動き出す。

「ぐえっ!」

 さっきまでクールな対応をしていたとは思えない間抜けな叫び声を上げたノルドの両腕と両足を素早く縛り上げる。

「はい、できあがりー」

 拍手をしながらアリシアは私の居るソファーに向かい、一礼をする。

「それではこれより、ノルドくんによるマジックショーを開催しまーす。はくしゅー」

 何となくイヤな予感はするが、その矛先が私に向かうのも怖いので、言われた通り拍手をする。

「これからノルドくんのところには、四方八方から魔法が飛び交います。でも、ノルドくんは大丈夫。じつは彼、どんな魔法を打ち消してしまうスーパーマジシャンなのです。さぁ、この奇跡ぜひごらんあれー」

 パチパチパチ。もう私も彼女の悪ノリに乗っかることにする。

「いや、ちょっと、私が何かしましたか。何もしてないですよ! こんな横暴が許されると思ってるですか! だいたい、あんたは……」

 ノルドの叫びの途中で、ノルドの正面に炎の玉がやってくる。ノルドは手足が縛られたまま、素早く呪文を唱え、先程と同じように水の壁を作って炎を消す。

 続いて、風に乗って運ばれた小型のナイフがノルドの脇腹めがけて飛んでいく。刺さった! と思ったがキン! という音とともにナイフが弾かれた。魔法の壁かなにかか?

 それからも四方八方から、火、ナイフ、槍、お皿、コップなど、あらゆるものが間を空けずに飛んでくる。

 ノルドは、物が当たる瞬間に素早く魔法の壁を発動し、そのことごとくを撃ち落としていく。

「ラストじゃ!」

 そう言ってアリシアは両手を上げてノルドに向かって振り下ろす。ノルドの目の前に巨大な炎の壁が現れた。ノルドが炎に包まれる。が、ジューという音ともに炎が消え、その後にはずぶ濡れになったノルドの姿があった。

「終了〜! 素晴らしい芸を見せてくれたノルドくんに大きな拍手をお送り下さい」

 パチパチパチ。すごい。魔法の壁の仕組みはわからないけど、一瞬で水や魔法の壁を生成する能力は凄まじい。しかも、呪文を唱えながらだ。

 でも、彼女は何のためにこんなことをしたのだろう?

「校長! なんで私がこんな仕打ちを受けなきゃいけないんですか!」

 ずぶ濡れになった体に風を当てながらノルドが糾弾する。

 私は思う。魔法って便利。

 アリシアは、身を乗り出して糾弾するノルドの顔に一枚の紙をベチャっと押し付けた。

「なんですかこれ……契約書?」

「うむ。お主も良いか?」

 たぶん、昨日アリシアと結んだ契約と同じものだろう。私も今朝、三人には伝えたほうがいいかも。と思ったが、相談する前から手筈を整えるとは……。

「はい」

「この研究室で聞いたマキト・ハザマの秘密を口外しないこと。本契約に違反した場合、四肢のいずれかを切断することにする……?」

 ノルドが契約書の内容を復唱する。アリシアとの契約時と内容が違う。罰則の記載はなかったはずだ。てか、四肢の切断って。重すぎないか?

「ちょっと、これ、重すぎませんか?」

 ノルドも同じことを思ったようだ。

「ふふふ。たぶん、この契約を交わし此奴の秘密を聞けば、決して重すぎはしないと思うはずじゃぞ。それに、お前はさっきマキトの魔法を見て、驚いたじゃろ? その秘密を知りたくなったじゃろ? ん?」

「まぁ、知りたいですよ。でも、さっきの拷問みたいな仕打ちはなんなんですか?」

「だって、マキトの秘密を知ったら、おまえ、絶対に壮絶なうざ絡みしてきそうだもん。じゃから、前払い拷問じゃ!」

「なんですか、前払い拷問って……いや」

 そこでノルドの口調が急にマジメになった。

「もしかして、そこまでするほど、彼の秘密は私にとって興味深いと?」

「うむ」

「わかりましたいいでしょう!」

 そういって、サラサラと自分の名前をサインした。

「お主もそれで良いな」

「はい」

 そういえば、アリシアはサインもしなかったな。と思ったことは言わずにおこう。

「では契約するが良い」

 ノルドは紙に強く指を押し当ててから、その指を舐めた。

「よし、では契約終了じゃ!」

「ありがとうございます」

 とりあえず、感謝の念を口にする。

「いや、かまわない。私も君がこれだけ早く魔法を習得できたことに興味があるしね。教師として」

「なーにが、教師としてじゃ。そんなずぶ濡れになりながら言っても何の威厳もないぞ?」

「あんたがやったんでしょ!」

 うん。きっとこの人たちは仲が良いのだろう。……きっと。


「さてさて、お主の魔法で気になることがあったんじゃが、聞かせてくれい!」

 アリシアが好奇心で目を輝かせながら聞いてきた。


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