10.火の魔法と思ったよりも多い1%
そらにただようおもきもの。
ちるな、にげるな、つどい、とどまれ。
こまかくきざみ、ふるえよ。
これが火のじゅもんだよ。
なに言ってるかよくわからないよね。
だから、火が出るしくみを知るところからはじめよう。
1.火になるものをあつめる
木とか紙ってもえるよね。そして、空気にはたくさんのほこりがあって、それももえるんだ。だから、これをあつめてもらおう。
2.火をつけるものをよういする
でも、ふつうにしてたら木も紙ももえない。だから、もえるくらいあついものもよういしないと。
3.ちかづける
あついものをもえるものにちかづけよう。そうするとボッて火が出るよ。
火のまほうはけっこうむずかしいから、なかなかできなくてもおちこまないでね。
でも、マナのことと、火のことを、たくさんかんがえたり、じっさいに自分で火をつけてみれば、火の出し方もわかってくるよ。
あと、じゅもんもわすれないでね。
これが火の魔法の説明だ。解説にはそれぞれイラストが付いている。
枯れ木を集めてまとめている。
すりこぎ棒を弓こぎ式で摩擦させて、火種を作っている。
火種を枯れ木に入れている。
そして、枯れ木が燃える。
これら4つのイラストが書かれている。たしかに、火が燃える流れだ。
昔、会社の慰安旅行でキャンプに行ったことを思い出す。
キャンプ場で火おこし体験をやっていて参加してみた。すりこぎ棒を手で回す方法ではうまく火はつかなかった。すりこぎ棒を紐で巻いた弓こぎ式にして、ようやく火口を燃やすことができたのを覚えている。それでも、30分くらいかかってしまったが……。
でも、経験があるなら想像もしやすいだろう。
あと、呪文か。
本当に必要かどうかわからないけど、とりあえず頭の中で、ひらがなで書かれた呪文を漢字に変換してみる。
空に漂う重き物よ。散るな、逃げるな、集い、留まれ。
細かく刻み、震えよ。
……。なんか違わないか? イラストと呪文があってない。
「刻み震えよ」ってなんだ?
まぁいい。まずは解説とイラストのイメージでやってみよう。
まずは空気中の塵を集める。ここだけやってみるか。
「空に漂う重き物よ。散るな、逃げるな、ここに留まれ」
何度か復唱し、口が慣れてきたので、空気中の塵が手のひらの上に集まるようなイメージを持つ。
……難しい。塵を集めるってなんだ? 竜巻のようにマナが動くというのならわかる。でも、塵は勝手に移動しない。ということはマナが運んでくれるのか?
でも、マナが原子くらいの大きさだとすると、塵ってとんでもなく巨大な大きさになるけど、本当に運べるのか?
あ、だから、重き物なのか。なるほど。
マナのイメージを明確にする。塵と原子の対比を考えると、高層ビルを人間の力で運ぶようなもの? いや、もっともっと巨大か? 新宿の高層ビル群、いやもっとだ。池袋、新宿、渋谷。都心の高層ビルを全部集めたくらい大きさに差があるはずだ。
だいたいのスケールをイメージするもビルだとバラバラになってわかりづらい。
黒くて巨大な鉄球をイメージする。直径5kmくらい。これを人が運ぶ。
ただ、塵は空中を漂っているので、運ぶときの抵抗は少ない。
なので、鉄球に対して、人を縦に並べてみんなで同じ方向に押す。こんなイメージかな?
手のひらを上に向ける。
巨大な物を多くの人が運んでいる。というイメージで塵を集めていく。
しばらくは何も変化がない。でも、マナにとっても重労働なので簡単には集められないと考え、しばらくイメージを継続させてみる。
おっ! おっ!?
3分くらい経って、手のひらの上に靄がかかり始めた。たぶん、これ塵だ。塵が集まって靄になってる。
でも、そこから何も変わらない。5分、10分経っても靄のまま。多少、靄の範囲が大きくなった気がするけど、大きな変化と呼べるものではない。
……少し考え方を変えたほうが良さそうだ。
ベッドに寝転んで考える。
塵を運ぶのに10万個くらいのマナが必要。みたいなイメージだったけど、実際、この部屋にマナってどれくらいいるんだ?
空気の1%がマナ。
部屋を見渡す。1%ってどれくらいだ?
天井まで2.5メートルとして、その1%は、2.5cm。ってことは、床下2.5cmまで水を流すということか。
……ん? すごい量必要だぞ? バスタブ一杯くらいじゃないか?
このバスタブ一杯の量が、そのまま、この部屋にいるマナの量ということになる。
めちゃくちゃ多いじゃないか。
こんなに多いなら話は別だ。
部屋の中央に椅子を置き座る。
部屋の壁にピンッとマナの膜を作る。バスタブくらいの量があるなら、薄い膜で部屋全体で覆うことも簡単だろう。
その膜を縮めながら、塵があったら絡め取っていく。
そして、部屋の中央に位置する手のひらに凝縮していく……。
うわ、うわ、集まってきた、集まってきた。
さきほどは靄がかかる程度だったが、今は灰色のピンポン玉みたいになってる。
これに火種を近づければいいんだな。
マナが塵の玉を抑えているイメージを保ちつつ、この玉に摩擦を加えているイメージを加えてみる。ものすごい勢いでヤスリをかけるイメージだ。
5分ほど続ける。ほんの少しだけ焦げ臭い気がするけど、燃えはしない。
あ、呪文唱えてなかったな。と、呪文って何だっけ?
「細かく刻み、震えよ」
そうだそうだ。イラストと言葉が合ってなかったんだ。
えっと、燃えるってのは、物体の温度が発火点に達すること。で、熱をあげるには、物質の運動量を上げればいいから……。
あ! 刻み震えるって、そういうことか。物質を振動させて運動量を上げろってことか。はいはい。
もう一度、やってみる。
マナを部屋全体にピンッと張って、凝縮。ピンポン玉ができた。
次は一部のマナを使って、塵や空気を振動させる。
細かく激しく。あ、少し焦げ……。
ボッ! 臭いがしたと思った瞬間にピンポン玉が燃え上がった。
炎は激しく燃え上がる。
熱っ! 反射的に手をどけた。火種が落ちて行くが、床に着くまでに炎は燃え尽きた。
危なっ。
でも、なんとか成功したな。って……呪文唱えてないな。
本当に呪文って必要なのか?
あ、この本に書かれているイメージと炎を出す機序が違うから呪文で修正しているのかも。だから、最後の念押しに呪文について触れているのか?
とりあえず、もう一度、炎の魔法を試してみるか。
今度はビー玉くらいの大きさにしか塵が集まらない。
理由は明白だ。燃やしちゃったから、この部屋の塵の絶対数が減ってしまったのだろう。
窓を開ける。生まれて始めて塵を部屋に入れるための換気。
冷たい風が部屋に入り込んでくる。そのとき、ふと空腹を感じた。
顔を出して太陽の位置を見ると、かなり高く昇っている。
お昼かな?
そういえば、アリシアが昼に見世物があるから降りてくるようにって言ってたな。
ついでに、火の魔法のイメージ違いについても聞きたい。
アリシアの本を含め、昨日買った魔法書数冊を持って部屋を出た。




