召喚魔法
「でも魔法とかは使えないのねー、みんな」
吉田がつまらなそうにため息と共に言う。
「ですねー。でもほら、レベルが上がれば使えるようになるかもですし」
「そうだといいわねー」
「はいー」
美容室の前の道路は、時折モンスターが徘徊する程度だ。
だが大通りのほうからは衝突音や爆発音、獣の唸り声や叫び声が聞こえてきて、美羽は家族の事が心配で外へ出ようとしたところを何度も周りに止められている。
「美羽ちゃん、心配なのは分かるけど、ここは信じて待たなきゃダメよ。美羽ちゃんが外に出て何かあったらそっちの方がお母さんは悲しいんだから」
「はい……」
涙目の美羽に、吉田は考え込む。
「うーーん、じゃあね、おばちゃんちょっと試してみるわ」
「試す?」
「多分、この中で1番戦闘に向いてるアイテム持ってるのってあたしじゃない?」
戦闘に向いているアイテムというより、戦闘向きなのは多分あなたです、吉田さん。
透はそう思ったが口にはしない。
「えーーっと、じゃあまずこれ」
言って吉田が手にしたのは、槍。燃え盛る炎をまとった槍だった。
「銃とかは人に当たるといけないじゃない? だからまずはこれ。そこの駐車場から1匹試しに仕留めてみるわ」
「あ、じゃあ俺も。剣とかでいいなら試してみます」
「あの、あたしも洋服ばっかりかと思ってたら日本刀がアイテムにあったので……」
「ナナちゃんはやめといたら?」
「そうだよ、生き物殺せないだろ?」
「う、うう……」
「あー、じゃあ俺が代わりにモンスターをテイムする実験を……」
「何ができるかの実験とかは後にしてちょうだい」
「はい、すみません……」
結論。
吉田の槍は強かった。
レベルアップした2人がハイタッチで互いを称え合っていたその時、吉田の足元に魔法陣が浮かび上がる。
「何これ」
「吉田さん!」
「おばちゃん!」
「あら、なんかうちの店長が呼んでるみたい。ちょっと行ってくるわね。すぐ戻るから」
そう言うと吉田は手を振って消えた。
あまりにあっさりした出来事に、店内でハラハラしていた美羽は言葉を失い、透は力なく笑ってため息をついたのだった。