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スーパー小池は囲まれた! 逃げられない!

 その日のスーパー小池はお盆のタイムセールで大盤振る舞い、大量に仕入れた米も、暑さにやられて高くなりがちな野菜も、子どももママも大好き冷凍食品、子どもにウケないがパパとジジイに大ウケお刺身盛り合わせ、値段によってはママの愛を独り占めの焼くだけですむ焼肉用精肉コーナーも、「全て持ってけ泥棒!」とばかりに30分限定の大安売りタイムセールである。


 店長は暑さで脳をやられたと巷の噂だが、単に在庫を一掃して決算を楽にしたいという坊ちゃん店長の苦肉の策である。


 今日のスーパー小池のタイムセールは、運がいいのか悪いのか『アーシアン』告知開始とかなりガッツリ被さっていた。

 かなりガッツリ、というのは意味不明だろうが、要するに丸っと被さっていた、というわけではない。

 そこには10分のズレがあった。

 その10分がスーパー小池の面々には致命的な10分であったわけだが、幸い全員がYESを選択しており、かつお客は冷静になったセール終了後10分の間に情報交換してYESを選択している。


 レジに並んでざわざわと、



「ねえちょっとこれなんのイタズラ?」


「新手の詐欺かしら」


「でもね、吉田さんにLINEで訊いたら『とりあえずYES選んで』って言うのよ」


「あらじゃあYES押さなきゃ」


「あの人ビックリするくらいカンいいものね」


「YES、YES、っと」



 ここでも吉田さん最強説は健在である。



「でも平気かしら。急いで帰らなきゃ」


「そうね、うちおばあちゃんだけだから」


「うちも夏休みで子どもだけよ」


「うち市民プールに出かけてるの。まだLINEが既読にならないんだけど」


「プールだものねえ……」



 そんな会話があちこちで交わされる中、店の外で車が衝突したような大きな音が響く。

 店長の小池がお客様をなだめつつ外へ出ると、空は赤黒くうねるようで、道路では大きな犬のような生き物が吠え、車があちこちで衝突していて無事なものも動けず、逃げ惑う人々が獣や人型のモンスターに襲われている。



「なんだこれ……」



 小池がつぶやく。



「助けてえ!」



 緑のモンスターに襲われた女性が小池の方へ走ってくる。



「こっちだ、早く!」



 中へ女性を入れて、ドアを閉めて、ああ、どこか開いてるドアや窓がないか確認しないと、警察はどうしてるんだ!


 そんな事を一度に脳内で考えて混乱していると、逃げてきた女性の後を追いかけてくるはずのモンスターが駐車場の手前で立ち止まった。

 そしてそこでそのまま、何か見えない壁でもあるかのように手に持った棍棒を叩きつけるような動作をしている。

 不思議なことに、他のモンスターも駐車場の中には入って来られないようだ。


 ひとまず女性を店内へ入れると、そこにいたお客の奥さんたちに拍手で迎えられる。



「偉かったわねえ!」


「頑張ったわ、よくやったわよ店長!」


「すごいね、小池くん! カッコよかったよ!」



 ははは、と愛想笑いをすると、お客の1人が見えない画面を操作しているような動作で言った。



「土地や建物の名義人が信仰心が篤いと、結界が張ってもらえるってあるんだけど、宗教とかやってたの?」


「いえ、宗教っていうか、毎年決算が終わると、お礼と商売繁盛のお参りでご祈祷はしてもらってますけど……」


「それね!」


「じゃあここにいれば安全なのね!」


「だけど心配だからうちに帰らなきゃ……」


「おばあちゃんだけじゃこっちには来れないわよね……」


「子どもだけでも無理よ」



 小池は勇気を振り絞って声を上げる。



「と、とりあえず、落ち着きましょう。ここが安全なら、スーパー小池は避難所になります。ご家族のことは心配でしょうが、いったん落ち着いて、その、警察か自衛隊が来るまで……」



 言っていて情けなくなった。

 あんな訳の分からないものがいて、警察や自衛隊が助けになるのか?

 大体彼らだって人間だ、赤の他人より家族を優先して守りたいだろう。それを言えば僕だって、こんなちっぽけな店が避難所とかどうかしてる。

 そんなのはもっと大きな企業や役所がやる事だ。

 それになんだよ、結界とか信仰心とか。毎年行けって言われるから行ってるだけで、そんな信仰心とか全然ねえよ。

 なんだよ、なのに人に落ち着けとか、何様だよ自分。最悪だよ……。

 ていうかいやほんとなんだ結界って。まず自分が落ち着け、有り得んだろなんだそれ。



「畠中さん、その今のなんですか、結界って」


「あらやだたっちゃん、まだ見てないの? これよこれ」



 いやそのこれが分からない。



「なんかうっすら透明な画面みたいなのが出てるでしょうー? てっきりたっちゃんの新しい何かだと思ったんだけどー?」


「あたし達も店長がまた新しくシステム導入したんだって思ってましたよ。今よく見たら面白い事いっぱい書いてて、とりあえず店長の仕込みでない事だけは分かりましたけどね」



 すいませんね、いつも面白くない事ばっかり導入して。



 頬をひくひく引き攣らせながら、たっちゃんこと小池達広はパートの佐々木さんに訊ねる。



「それで、それってどうやって見るんですか」


「なんかね、視界の端っこを探すと、スマホのアイコンみたいなものがうっすら見えてくるのよ。それでそれをもっとよく見ようってすると、目の前にパソコン画面みたいなのが出てくるの」


「はあ……ああ、なるほど……うん、うん、分かりました」



 分かりたくないし理解もできないけど分かりました。



「とりあえずここは安全って事で。それで、誰かあれと戦えて倒せそうな人、この中にいますか?」



 あれ、と言われて全員が互いの顔を見合わせて、そしてスーパーの外を見た。

 正確には、スーパーの駐車場の外、道路を占拠して暴れ回っているモンスターの群れを。


 それは駐車場の周囲を囲んで、中の人間が出てくるのを待っている。



 スーパー小池は包囲されてしまった。












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