スーパーパートリーダー吉田さん
「あらー、大丈夫かしらねえ、みんな」
吉田は美容室にいたメンバーから説明を受けて、特に困った様子でもなくそんな事を言った。
彼女にとって「みんな」とは、家にいる家族であり、ペットであり、遠くにいる親族全員であり、パート先の関係者であり、知人友人全てを網羅した全員である。
なので、みんな頑張って自己責任で元気に生き残ってくれるものと信じている。
「うちのお母さんたち平気かな……」
今さらながらに怖くなってきたのか、美羽がぼそりとつぶやくと、透が元気づけるように明るい声を上げた。
「大丈夫だよ、美羽ちゃん。まだ時間あるし送ってくから」
「そうそう、それにただのイタズラかもしれないでしょ?」
いやこんな手の込んだイタズラ……するかな? するかもしれないな? どうだろう。
透と店員たちが苦笑いを浮かべる中、美羽のスマホに着信があった。
美羽の母親からだ。
「お母さん!」
『美羽? 今どこにいるの!?』
「今、より子おばちゃんのお店。吉田さんも一緒!」
『そう。お母さん今、スーパーにいるの。帰りにそっちに寄るから待っててちょうだい』
「分かった。お母さん大丈夫?」
『大丈夫よ。それより絶対外に出ちゃダメよ!』
「うん。気をつけてね、お母さん」
スマホを切った美羽がここで待たせてもらう事になったと説明しようと透を見ると、透は店員2人と吉田と4人、顔を突き合わせて何やら話し込んでいる。
美羽が近づくと、吉田が気がついて笑った。
「美羽ちゃん、お母さんどうだった?」
「今スーパーにいて、迎えにくるから待っててって」
「そう。良かったわね」
「うん。おばちゃん、マキお兄ちゃんやミサお姉ちゃんたちは?」
「なんだか色々連絡が来てるけど、今のところみんな大丈夫みたいね。ところでね、美羽ちゃん、美羽ちゃんはゲームとかしてる?」
「あんまり。お父さんとお兄ちゃんは好きみたいだけど」
「まあそうよねえ。美羽ちゃん吹奏楽の部活が忙しいって聞いてるし。しないわよねえ」
「じゃあ、スキルポイントとか加護とか、何かあるか?」
「まだ見てないけど……ちょっと待って……あ、加護だって。弁天様って書いてある」
「弁天様……美羽ちゃん小さい頃からピアノ習って合唱団にも入って、音楽大好きだからかしらねえ?」
「何ができるの?」
「なんか……楽器を弾くと色んな効果があるみたい」
「楽しそうだな、それ」
店員のナナと太一は興味津々だが、美羽にはどうもピンとこないようだ。
そもそもゲームをしないので分からないのも仕方がないと言えば仕方ない。
「あたしよりもみんなは?」
「俺は先月からずっとやってる狩ゲームのアイテム」
「あたしもスマホのゲームアイテム。でもあんまり役に立たなそう。基本洋服とか小物中心だし」
「店長はどうでした?」
「俺は甥っ子とやったモンスターを捕まえるやつだな……使えるのか? これ」
「モンスター出せるとかあるといいですよね。でなきゃテイムできるとか」
「世界中のあちこちでこのゲームやった子供が旅に出そうだな」
「いやいくらなんでもそれは……止めるでしょ、親が」
「うちの妹は一緒に旅に出そうだな。あいつバカだから」
「ああ、いや、そこは期待しましょうよ、親としての責任感に……」
「何言ってんのあんた達。ほんとに世界がこの通りになるなら常識だのルールだの言う前に生き延びなきゃでしょ!」
言い切った吉田に透と店員たちは顔を引き攣らせる。
おばちゃん、強し。
おばちゃんにはサバイバルのための現実しか見えていないのだ。
「吉田さんはなんでした?」
「あたしはねえ」
ふふん、と吉田は胸を張った。
「うちの息子とやったゾンビゲーム、娘とやったオンラインRPG、甥っ子に付き合ってやったブロックでものづくりするゲーム、これまた姪っ子の付き合いでやったほのぼのゲーム、外で暇な時にやってた無料のスマホゲーム、旦那がやってて面白そうだった街づくりゲーム……が終わって次にやった惑星のゲーム、その全部のアイテムよ!」
溢れるパワーでパートをやってあちこち遊びに出かけて子どもたちの面倒を見て、アグレッシブに活動し続ける、動いてないと死ぬんじゃないかと噂される生き物、スーパーパートリーダー吉田さん。
まさかゲームもイケる口だったとは。
彼女はどうやらありとあらゆる面でスーパーな生き物であったようだ。