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2-1 新生活の光

 4年間務めた山田工業株式会社を4月末で退職し、【株式会社針山加工】の社長に就任する準備をしている俺は、モテるために脱サラした男。


 金切かなきりゴウ 26歳 モテない独身。


 有休を消化することなく、引継ぎのために最後まで出勤した俺。西川からはもったいないと言われたが、俺はむやみに休むのは性に合わない。働く事こそ生きてる実感。


 今日はゴールデンウィーク中の日曜日。午前中に会社の独身寮の管理人室で退居手続きを済ませて、午後一で【株式会社針山加工】にやってきた。

 今日から俺が暮らす場所だ。


「こんにちわー」

「いらっしゃい。【株式会社針山加工】へようこそ」


 玄関から事務所に入ったら、作業服姿のキナさんが迎えてくれた。


 先代社長、針山ギンジ氏の急逝に伴い、廃業前の残務処理のために【株式会社針山加工】を暫定的に引き継いだ、黄泉門よみかどキナさん。

 身長160cmぐらいの華奢なオバサン。40代後半にしては若く見える。


「今日からお世話になります。えーと、黄泉門よみかどさん」

「私の事はキナでいいわ。姓が通算5回も変わってるから、そう呼ばれてもピンとこないの」


 バツ2とは聞いていたけど、それで姓が5回も変わるのか?

 いや、気にするまい。


 事務所内を見渡すと、キナさんしかいないようだ。


「あの3人は?」

「外出中よ。住居になってる2階を案内するわ。最低限の片付けを済ませたら買い物行くわよ」


「買い物?」

「そう。今夜はアンタの歓迎会するから、食材の買い出しよ」


…………


 最小限の片付けを終えた後、徒歩で近所のスーパーに来てキナさんと二人で食材を物色する。

 なんか、地元で子供の頃に母と一緒に買い物したことを思い出してしまう。

 お菓子を買ってもらおうと、こっそりと買い物カゴに入れたりとかしたなぁ。


「アンタ何入れてるの?」


 それがバレてこうやって怒られたりしたなぁ。

 いやでも、今は怒られるようなモノは入れてないぞ。


「いや、メニューが焼肉っぽかったから、タレを」

「何でもそうだけど、【減塩】は美味しくない割に危険な添加物多いから避けたほうがいいわ」


「俺、血圧気にしてるんですよ」

「塩だけで血圧が上がるわけじゃないの。精製塩の取りすぎは危ないけど、味噌や醤油とかの成分なら影響は少ないわ」


 そうなのか?


「それに、今調子が悪くないなら気にするものでもないのよ。まだ若いんだし」


 それもそうか。

 それに、キナさんの選んだタレのほうが確かに美味しそうだ。ちょっと高いけど。


 次は精肉コーナーで肉を選ぶ。

 キナさんはラベル見て中身見て慎重にカゴに入れていくけど、そのチョイスが少し気になる。


「なんか、割高な物選んでませんか?」

「食べ物は値段で選んじゃダメよ。銘柄とか産地とか加工業者をよく見て、安全な物を見極めるのが大事なの」


「スーパーで売ってるなら、危ない物なんて無いと思うけど」

「まぁ、法令に定められた各種基準に合格している物であることは確かだけど、その基準が安全かどうかなんて誰も保証しないわ。特に輸入物はね。信じて食べて何かあっても【自己責任】なんだから、自分の身体は自分で守るしかないのよ」


 よくわからないけど、食を通じて身体と健康を大事にしてることはよくわかった。


「それに、私達は気楽に病院なんて行けないんだから」


 焼肉5人前相当の肉と、調味料と、少々のお酒を選んでレジに向かう。

 割高な肉を選んでいる割には、総額は案外安かった。

 キナさんは【やりくり上手】だ。


…………


 買い物から帰った後、俺は引っ越し荷物の開梱。

 俺に割り当てられた部屋は、先代社長が使っていた部屋。【遺品】として、本棚には機械加工関連の専門書がたくさんあった。全部貰っていいらしい。ありがたい。

 

 部屋に設置されていた仏壇には、壊れたツールホルダが本当に供えてあった。

 もちろんすぐに撤去した。


 先代社長、針山ギンジ様。 

 あの機材は俺がちゃんと使いますから。もう壊しませんから。

 どうか安らかにお眠りください。


…………


 片付けが終わったので台所でキナさんを手伝おうとしたら、邪魔だと追い出された。

 俺は料理は得意な方だと思っていたけど、キナさんの手際はレベチだ。肉の下ごしらえと並行で、焼肉だけだと栄養が偏るからと、味噌汁とサラダを人数分作っていた。

 【料理上手】でもあるんだな。



「ただいまー。あっ、ゴウさん来たんだ!」

「マナさんですね。今日からお世話になります」


 1階事務所で【マシニングセンタ】の資料を読んでいたら、マナさんが帰ってきた。

 ベージュ色の作業服ズボンとグレーのブラウス姿。作業服をコーディネイトに取り入れた年相応の格好は、普通にモテそうと思ってしまう。

 近所の古本屋の紙袋を持ってるけど、何か買ってきたのかな? 何か嬉しそうな雰囲気を出しつつ、スーッと事務所を横切って、奥の階段から2階に上がっていった。



「ただいま。あー、ゴウさん。今日からよろしくお願いしまーす。」

「今度はミナさんですね。今日からお世話になります」


 今度はミナさんが帰ってきた。服装はマナさんとまったく同じで、ベージュ色の作業服ズボンとグレーのブラウス姿。それ、ここの制服なのか?

 今度は近所の書店の紙袋を持ってる。また2階に上がる姿を見送る。前も後ろも本当にそっくりだ。



「た、ただいま……。うわぁ。ゴウさんこんにちは」

「アンナさん? それは、何処で何してたんですか?」


 最後に帰ってきたのは、アンナさん。やっぱり服装は同じ、作業服ズボンとブラウスだけど、頭には蜘蛛の巣、ブラウスには油の滲み、ズボンの下の方は草が付いていて、手にはエンジン式の刈払機を持っている。

 

「友達に頼まれて、神社の裏山の掃除を手伝ってた」

「なんか相当ハードだった雰囲気出てるけど、姉と一緒に行けばよかったんじゃないのか?」


「いや、私らは外では一緒に行動できないのよ。3人揃うと目立つから」

「だったら、前も言ったけど服装なり髪型なり変えればいいのでは?」


「まぁ、私らにもいろいろ事情があるんですよ。イロイロと」


 そう言いながら、倉庫の方に向かった。刈払機を片づけるのかな。

 そして、神社の裏山と言えば、最近夜中に謎の歌声が聞こえるというホラーな噂があるけど、あれ、アンナさんの仕業じゃないよな。


…………


 焼肉パーティが終わった後、ダイニングで5人でくつろぐ俺達。

 就職前に実家に居た時のことを思い出す。4年も独身寮で1人暮らしをしていたけど、やっぱり食事は多人数で食べたほうが楽しい。


「結局、アンタはどんな女の子が好みなの?」


 キナさんが俺に缶ビールを渡しながら、微妙にセクハラチックことを聞いてきた。

 3人娘も何か興味深そうにしているし、知られて困る事でもないので普通に答えることにした。


「えー、俺より背が低くて、誰かに依存せずに行動できる【自立心】があって、素材から調理ができるぐらいの【料理上手】で、ご近所づきあいもちゃんとできる【付き合い上手】で、【稼ぐ力】もあって、共働きで家計を助けてくれながら、家事育児も両立してくれるような人かな」


 スパァァァァァァァン ゲホッ


 キナさんに頭をでかいハリセンで叩かれて、飲んでいたビールを噴き出す俺。


「殴りたいわ!」


「母さん、もう殴ってる」

 「いきなり手を出したらダメ」

  「気持ちは分かるけど、抑えて!」


 ぎょっとした3人娘がフォローに入る。


「いきなり何するんだ! それと、そのハリセン何処から出した!」

「アンタ滅茶苦茶言い過ぎ! モテない! それ直さないと絶対モテない!」


「そうやって【呪い】をかけるのヤメテ! 俺の何がマズいんだよ!」

「そんな残念で可哀そうなぐらいモテないアンタの夢。私が叶えてあげるわ!」


 恐ろしい呪詛を吐きながら、キナさんが200mm長のφ6SUS丸棒4本を握った手を突き出してきた。


「モテないアンタを幸せにするためのクジよ。これから1本引きなさい」

「クジ? まぁ、いいけど」


「待って!」 ガシッ


 キナさんの持つ謎のクジを引こうとしたら、マナさんに腕を掴まれた。

 細腕なのに結構強い。


「そのクジ、本数がオカシイ!」

 「まさか、母さん……」

  「いくらなんでもそれはダメでしょ!」


「ちっ。バレたか」


 キナさんが舌打ちしながらテーブル上にクジの棒を転がすと、先端に書いてある文字が読めた。


【キナ】 【マナ】 【ミナ】 【アンナ】


「コレは、一体……?」


「一つ屋根の下で生計と共にする形を、手っ取り早く作る方法よ」


 キナさんがそう言いながら、机の端にあった大きな封筒から書類を出した。


 【婚姻届こんいんとどけ


 どぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ

●オマケ解説●

 健康的な生活のためには、食事はとっても大事です。変なモノ食べたら身体も当然オカシクになります。食生活は自己責任。身体に入れる物はちゃんと考えて選びましょう。

 そして、入居当日にクジと【婚姻届】。それなんてハーレム? でも、そのうち1本からはとても危険なものを感じるね。


※ポイントクレクレ記述

 家事育児の現実も知らずに、妻となる女性に対して多くを求めるモテない26歳の発想がひどいと思った二十代リアル喪婚活女の方が居たら、【ひどい】の証として★1評価をブチこんでもらえると、作者は狂喜乱舞します。


【ひどい】は最高の誉め言葉!

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[一言] 全体的に1話分のエピソードが長いかなと 個人的に2、3話分に 分割した方が読み易いかな 自分は なろうの最低文字数200文字さえあれば 直ぐ分割しますから 人により 読み難いと感じるかも知…
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