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1-4 社長と部長の反省会

 或る晴れた日の夜。料亭の個室で二人の男が沈痛な面持ちで向かい合っていた。

 山田工業株式会社の山田社長と、鈴木部長である。


「すまないな鈴木君。結果的に有望な部下を手放すことになってしまって」

「いえ、社長。私の方こそ申し訳ありません。指導不足でした」


 矢場居やばい信用金庫の会長から、若くて優秀な男の紹介を求められたのが先週。

 急ではあったが、適齢期で見どころのある男に心当たりがあったので、購買部の金切かなきりゴウを紹介して、【お見合い】のセッティングをした。


 相手は会長の矢場居やばいゲンゾウの一人娘、矢場居やばいマオ。

 ゴウは仕事上は相手の立場を考慮した言動ができる男であったので、状況に応じた対応をしてくれるだろうと安心していた。

 そして、あわよくば成婚まで至ったなら、優秀な社員を家族持ちとして雇用することができて会社にとっても都合がよかった。


 しかし、結果は好ましくなかったらしい。

 【お見合い】当日の夜に、社長は矢場居やばいゲンゾウから緊急で呼び出されて、【お見合い】は【破談】扱いとする旨を伝えられ、月曜日午後に金切ゴウを窓口として【株式会社針山加工】との打ち合わせのセッティングをするよう指示を受けた。


「会長は詳細は話せないと言っていたが、かなりの失礼をかましたらしい」

「ゴウなら大丈夫と思っていたのですが……。女性慣れしていなかったのかもしれません」


「そうなんだろうなぁ……。口癖のように【モテたい】と言ってる癖に、せっかくの【お見合い】で相手をオトそうとはせんものなのか。相当好条件の相手なのになぁ。最近の若者は分からんなぁ」

「そうですねぇ。私らの頃でも、就職して一番うれしかったのは【結婚ができる】ってことでしたからねぇ」


「お前は、本当にうまくやったよなぁ」

「いえ、社長のおかげですよ」


 30年前に鈴木部長が入社した時の最初の上司は、当時課長だった山田社長。仕事を覚えて中堅社員となった鈴木に、後に妻となる女性を紹介したのも当時部長だった山田社長。

 2人は、長い社歴の中で会社のいろんな危機を共に乗り越えてきた戦友であった。そして、ちょっと【昭和ボケ】が入っている痛いオッサン同士でもあった。


 お互い忙しい立場なので、二人で呑むのは久しぶり。

 繋ぎ損ねた若い二人の縁談に寂しさを感じながらも、オッサン臭い昔話でしばし盛り上がった。


…………


「社長、勢いで呑んでしまいましたが、帰りどうしましょう」

「うーん。車で来てるからなぁ。私の車は自動運転使えるけど、アレ使うぐらいなら代行の方がいいなぁ」


「確かに。私用だと【レベル3+】を使うぐらいなら、代行使った方が安いですね」


 社長の車に搭載されている自動運転の【レベル3+】は、各種センサによる自動車本体搭載のAI自動運転機能にあわせて、5Gネットワーク経由で専属のオペレータが運転を補助するという物であった。

 AIだけでは対応が難しい道路状況にも確実に対応できる利点があるが、オペレータが専属する必要があるため、利用時は課金が発生する。

 山田社長は業務上やむおえない場合は使うこともあるが、この機能があまり好きでは無かった。


「なんか、アレはラジコンカーに乗せられてるみたいで怖いんだよなぁ……」

「社長、それはひどいのでは? わりと普及してるサービスですよ」


「それに、運転しないにしろ、酒を飲んだ状態で運転席に座るのがダメだ。なんかこう、許されない感じがしてな」

「それはありますね」


「やっぱり運転は人間がいい。代行を頼もう」

「では、私もそうします」


 二人はスマホで運転代行の予約申し込みをした。

 到着まであと40分とのことだったので、二人は続けて呑むことにした。


…………


「ところで、社長。ゴウの相手のお嬢さんはどんな方なんですか?」

「うーん。私も会ったことは無いんだが、よく考えると、なんかこう、ちょっと記憶に違和感があってな……」


矢場居やばいさんとの付き合いは長いのでは? こんな急に縁談を持ち込まれるぐらいだから、社長はあちらの娘さんとの面識があると思っていましたが」

「いや、息子さんの紹介を受けたことはあるんだが。娘が居たかどうかが、ちょっと思い出せんのだ」


「何ですかそれは? まさかその男が女装して【お見合い】したとか? ゴウはそういうの見破るのが得意だから、怒って失礼かましたとか……」

「おい、失言だぞ。矢場居やばいさんはたまにぶっ飛んだことするけど、そんな非常識な事をする方じゃない。養子縁組した娘さんとかかもしれん。次会うときにそれとなく確認してみよう」


「申し訳ありません。矢場居やばい家は名家だから、養子縁組はあり得ますね。」

「そうだ。【釣書つりがき】は回収してきたか?」


「持ってきています。ただ……、これについては私、一点失敗しておりまして……」


 部長は【釣書つりがき】の封筒と、もう一つの封筒を鞄から取り出して社長に渡した。

 未開封の封筒を見て社長の表情が変わる。


「おい、鈴木君。【釣書つりがき】の添付資料の封筒が未開封じゃないか。渡してないのか?」

「申し訳ありません! 私のミスです!」


「コラァァァァ! 肝心なところで壊滅的な失敗をする癖! 最近は鳴りを潜めていたが、久々にやらかしてくれたな!」

「申し訳ありません!」


 怒る山田社長と、土下座姿勢で謝る鈴木部長。

 鈴木部長の【やらかし癖】は新入社員の頃からで、トラブルを起こすたびに連帯責任として関係各所に謝罪して回ったのは二人の苦い思い出である。


「まぁ、済んでしまったことは仕方ない。事情を説明して未開封のまま返そう」

「社長、中身は確認しないんですか?」


「【釣書つりがき】の添付資料だぞ。若い娘の個人情報を勝手に見るのも無粋だろ」

「それもそうですね」


 社長は封がされていない方の封筒から【釣書つりがき】を取り出した。返却前に中身を確認するためであるが、その内容を見て違和感に気付いた。


「改めて見ると、変な【釣書つりがき】だ。鈴木君。どう思う?」

「えーと、名前の他には、身長、体重、スリーサイズしか書いてない……、そして、身長は166cmと、ちょっと高めで、スリーサイズから見るにひん……、いや、スマートさん」


「普通はスリーサイズ書く前に、経歴とか趣味とか特技とか書くようなものだが。あと、この写真。矢場居やばいゲンゾウ氏と顔が全く似ていない」

「やはり養子なんでしょうか……」


 信頼できる相手からの紹介とは言え、自分達で素性を把握していない相手との【お見合い】を部下に斡旋してしまったことを、二人は年長者として反省した。


「いや、相手の素性が分からなくても、ゴウなら普通に打ち解けるぐらいはできるだろうが……」

「……社長。コレ見たら、ゴウが失礼かました原因が一つ分かりました」


「何だ?」

「身長です。ゴウは、自分の背が低いことを気にしているふしがありました。この娘はゴウより背が高いです」


 男二人は頭を抱える。


「あちゃぁぁぁぁぁぁぁ……」

●オマケ解説●

 身長って、自分の努力で変えられないからね。女が高身長を希望するのと同じで、男も自分より背が低い女を望んだりするものだよ。

 だからって、失礼かましていい理由にはならないけどね。


<第一章 参考書籍>

・「婚活」受難時代 (角川新書)

  ISBN978-4-04-082179-5

・わかる! 使える! マシニングセンタ入門-<基礎知識><段取り><実作業>

  ISBN978-4-526-07772-2


※ポイントクレクレ記述

 鈴木部長が言いかけた【禁断の言葉】と、ゴウの隠れたコンプレックスがひどいと思った高身長貧乳喪女の方は、【ひどい】の証として★1評価をぶち込んでもらえると、作者は狂喜乱舞します。


【ひどい】は最高の誉め言葉!

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