番外編05:金型鋼と神々の加護(挿絵アリ) (3.3k)
「別に怒っているわけではありません。ショートボブヘアではありますが、制服のブラウスとスカートを着用している私を【弟】としていきなり拉致した理由を、分かるように説明して頂きたいのです」
(by 矢場居マオ@16歳女子高生)
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時は終戦直後に遡る。
占領軍統治下の混乱の中で、決して持ち出してはいけない何かが、立ち入ってはならない場所から盗み出されてしまった。
それからおよそ半世紀。
持ち出してはいけない何かは最終的に鉄スクラップとして売却され、製鉄所の溶鉱炉で融かされ、開発中の【金型鋼】の試作品の一部に混入した。
結果、その【金型鋼】周辺では数々の怪奇現象が発生し、開発は放棄。
開発放棄から数十年。経緯を知る者が居なくなった頃に、倉庫建屋移転のためと何も知らずに【金型鋼】を運び出そうとして事故が発生。金切タロウが犠牲となる。
会社は【金型鋼】の存在と合わせて事故を隠蔽しようとしたが、義兄を失った金切キナが会社に殴り込みして大暴れ。
【口止め料】として多額の現金をせしめつつ、問題の【金型鋼】も【戦利品】として強奪。
数年後、針山キナが妊娠したことで、【金型鋼】内に封印されていた古の神々が覚醒。
三貴子の一柱月読命と、須佐之男命の3人娘田心姫、湍津姫、市杵嶋姫の加護を受けた4つ子をその身に宿す。
しかし、キナの身体は4人の命を支えきれず、全員死亡を避けるため男児を【減数手術】で処理。右目と心臓と腎臓に回復不可能なダメージを受けつつも、3330gの元気な女児を3人出産。
宗像三女神の加護を受けた3姉妹は美人姉妹に成長するも、荒ぶる神須佐之男命の娘の加護と父親の無茶ぶりにより、加減を間違えれば殺傷力を持つ拳を獲得してしまう。
ちなみに、水の女神でもある宗像三女神の加護の力は【殺傷力の拳】ではなく【水を操る力】。
3姉妹は生まれつきその力を授かっていたものの、水に入るたびに【怪奇現象】を起こす体質を何かの【祟り】と勘違いし、水に入るのを避けるように。風呂もシャワーで済まし、学校の水泳は一貫して見学。泳ぎ方を学んでいない3姉妹は全員カナヅチ。
危うく神の加護が無駄になるところではあったが、市杵嶋姫の加護を受けた末っ子のアンナが、【ドブさらい】の仕事中に汚水槽に転落したショックで【水を支配する力】に覚醒。ハンドシャベル1本でドブ川を清流に変える技を編み出し、当時問題になっていた街の悪臭公害を解決した。
そして、街で【ヘドロ掘り姫】の渾名が付けられたショックで【拳で支配する力】にも覚醒。【水の女神】という称号と、後の【副業】の固定客を勝ち取った。
長年の放置で泥沼になっていた神社奥の池を、僅か半日で泳げるまでに浄化したのもアンナの仕業。他人に説明できない【企業秘密】。
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一方、【減数手術】で胎児から切り離された男児の魂は、同時刻に同じ病院の体外受精培養室で顕微授精した【受精卵】に取り込まれた。
【受精卵】の持ち主は、矢場居ゲンゾウの妻。
絶望的な【貧乳】コンプレックスにより、【結婚】を諦めて仕事に生きると世界中を飛び回っていたバリキャリ女ではあったが、【子供】には未練があったため、崖っぷちの31歳になった時に【卵子凍結】を選択。
不完全な細胞である卵子は、採取も保存も難しい。凍結卵子の体外受精で子供一人を授かるためには、最低でも40個程度が必要と言われている。
必要数を満たすため、1年間に渡る薬剤投与と通院検査、貯蓄を使い果たすほどの自己負担費用と、通算10回の採卵手術に耐え、最終的に64個の卵子凍結に成功。
それから十数年後。
同じく世界を飛び回っていた矢場居ゲンゾウと出会い結婚。
しかし、40代の身体では自然妊娠は難しく、最終手段として【凍結卵子】を解凍しての【体外受精】を決行。
【凍結卵子】64個中、解凍に成功したのは43個。
受精に成功したのは5個。胚盤胞まで成長したのは2個。
母体に移され着床に成功したのは、魂を宿した1個のみ。
月読命の加護を受けながらも、一度黄泉の淵まで堕ちた男児の魂は、2人の母親の愛と執念で強化された加護を受けて、超高齢出産となる母体の中で順調に成長。
3人娘から約半年遅れで4440gの元気な女児として出産。
【マオ】と命名される。
皮肉にもこの名前は、キナが男児のために考えていたものと重なっていた。
こうして生まれた矢場居マオは生まれながらに強い加護を持ち、月読命の持つ属性【夜】【陰】【闇】【裏】に関わる物に対しては、天才的な才能を発揮。
【影】の技術であるIT技術に強くなると同時に、祖父の英才教育もあり、社会の【裏】や【闇】でもある金融や投資に適性を発揮して中学生にして投資家として成功を収める。
投資分野が【闇】すぎたことで祖父にシバかれて送られた【海外留学】でも、戦場という【闇】の世界で抜群な能力を発揮。子供でありながら所属部隊の生存率向上に貢献した。
しかし、強すぎる加護の反作用として【呪い】に近い縛りも持っていた。
成績優秀、スポーツ万能、多言語対応でコミュ力高いというオイシイ技量を持ちつつも、【陰】の加護により残念な【陰キャ】に。さらに、陽光下では姿が男に見えるという謎の縛りまで併発。
近所の普通科高校に編入学した初日。制服のブラウスとスカート姿で出席した帰りに、クラスメイトになったアンナを含む3姉妹に【弟狩り】で拉致されたことで宿命の出会いを果たす。
男に間違えられるのは母親譲りの【貧乳】のせいだと、【豊乳】を敵視するまでに【貧乳喪女】を拗らせたが、少しズレていた。
昼間にマオが女性であることを初見で見抜ける人物は本当に少なかったが、月読命の加護で【呪い】が弱まる日没後は普通に女性と認識されるようになる。
そして、加護が強まる月光下では、妖艶な【色気】を持つ本来の姿が現れる。
丸い童顔。細いうなじから繋がる撫で肩のライン。安産型の腰周りと肉付きの良い太腿。身長166cmと女性にしては若干大柄で極端な【貧乳】ではあるが、マオの本来の姿はどこから見ても男には見えない。
【盗撮】された写真より、【貧乳】だから後姿なら【色気】が出ると解釈して背中の空いたトップスやドレスを好むようになるが、やっぱり少しズレていた。
【闇】と【死】の加護を持つマオは、生命の死期を読む力を持っている。ゴウの生存力を見抜いたのはこの力によるもの。
そして、【死】に対して人一倍感度が高いマオは、【死】を【糧】へと変える料理にある種の信念があり、実際に【料理上手】でもある。それ故に、先進国での食品ロス量の多さに日頃から憤りを感じており、その憤りが、ゴウのボケを実践をするという物騒な発想の根底にあった。
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初対面で失礼な扱いを受けた上に【貧しい】発言で逆鱗に触れられたマオは、【豊乳】3姉妹を【行き遅れ勤労喪女】に育てると決意。そのために【猫かぶり】を習得。
中学までの間に祖父から受けた英才教育で得た知識をフル活用し、ビジネスマナーや社会人生活の一般常識を厳しく仕込んで、3姉妹の適性に合わせた高度な職業訓練を施した。
そして高校在学中にも短期の仕事を斡旋し、上げた知名度とコネを基に高校卒業と同時に地元企業に新卒入社させ、そのまま【バリキャリ行き遅れOL】にしようとした。
しかし、貧しいながらも円満な家庭で育った3姉妹は、仕事の楽しさを覚えつつも【バリキャリ女】への憧れを抱くに至らず、高校卒業後も家業手伝いと短期バイトを継続。
鍛えた以上に強く美しく育った3姉妹が【結婚適齢期】を迎えてしまったことに危機感を覚えたマオは、3姉妹から徹底的に男を遠ざける方法を熟考。
家ごと借金漬けにするのが有効というひどい発想に至り、3姉妹の父である針山ギンジの死期が近いことを悟りつつ、会社規模に対してアンバランスな融資を斡旋するという暴挙に出た。
当然、加護の力をそんなことに使ってタダで済むはずがない。
【誤射】で瀕死の重傷を負ったのは【神罰】。
【失語症】で企みを自白してしまったのも【神罰】。
【行き遅れ】を創り出そうとするのは【罰当たり】な行為であったとさ。
めでたし めでたし。
●オマケ解説●
何かが憑いているというあの【金型鋼】は、やっぱりとんでもなくヤバいものだった。
そして、3姉妹の誕生秘話の裏話。
失敗したと思っていた【弟狩り】はある意味成功していた。
無茶苦茶されてもマオには甘い3姉妹。その中でも、一番マオの世話を焼くのはアンナ。産まれる前に別れてしまった過去を【魂】が覚えているからか。
そんな彼女達、【女の友情】にドロドロ要素はあるけれど、4人揃えば楽しく飲める仲。
お金に律儀なマオは、自白した後に高校時代にピンハネしていたアンナの給料はちゃんと返した。
ドブ川流域全域浄化という3年越し公共工事に匹敵する仕事をしれっと成し遂げたアンナへの報酬は、女子高生の金銭感覚をバグらせる額だったので、大人になるまで一部預かっただけだった。
いいタイミングで臨時収入を手に入れたアンナは、キナさんのペースメーカー交換費用と、ジョン=スミスのリソース増強資金として活用したとか。
なんて、ひどい?
大きめの会社に新卒入社して、新入社員研修で仕事の心得を学んだならば、律儀で責任感が強くて優秀な娘ほど仕事にのめりこんでいく。
仕事にやりがいを感じ出すと、皆に頼られる日常を変える動機が起きずに、気付けばアラサー行き遅れ。社会人として若干ポンコツな娘の方が、辞めたいがために早めに相手を見つけて結婚し、子供を授かり人生勝ち組。そんな、現代女性の人生設計に潜む不条理な罠。
マオはそれを狙って3人を鍛えたけれど、彼女達は優秀過ぎた。
頑張れば男よりも稼げることを早くに知ったことで、未成年にして【勤労喪女】が【行き遅れ】してから気付くような真理に到達。
男にできる仕事を女の本業にする意味が無いと確信。キナさんのような【主婦】や【母親】への憧れを強化してしまい、借金苦の中でもマオの罠に落ちなかった。
もっとも、【拳で支配する力】の伝説が知れ渡っているあの街には、3姉妹に言い寄る男なんて誰一人居なかったのではあるが。
なんて、ひどい。
※ポイントクレクレ記述
30代でキャリアを選びつつも将来子供が欲しいと思ってしまったなら【卵子凍結】のような技術に頼らなくてはいけない現代社会の女の人生が【ひどい】と思った【バリキャリ喪女】の方が居たら、【ひどい】の証として★1評価をブチこんでもらえると、作者はそんな葛藤と無縁な人生送れるだけで男に生まれて得したなと満悦しつつ、得した分だけ妻を大事にしようとがんばります。
【ひどい】は最高の誉め言葉!




