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番外編03:貧富の格差と女の友情(挿絵アリ) (4.6k)

「マオっちは私達の【師匠】みたいなもの。私達が貧しくないってことを教えてくれたの」

 (by 針山アンナ@仕事中)


………………

…………

……


 【山田工業株式会社】

 創業66年の産業機械の製造、販売、保守を主要事業とする上場企業。

 国内市場を主な商圏とし、売上高1000億円、従業員数4000人を超える規模で、工場を含めた本社地区で1500人以上の従業員を雇用し、協力会社を含めると地域経済の大半を支えている重要な会社である。


 しかし、人知れず存続の危機に陥っていた。


 社内ITシステムが破壊され開発部のデータが消失し、技術開発と商品開発が停止。

 市場製品の世代交代が進む中で、技術力で負けたら製造業としては生き残れない。


 もしこの会社が倒産したら、地域経済への影響は甚大。

 街で暮らす皆さんの生活を守るため、4人の天才が集結した。


 金融業名家のエリート娘:矢場居やばいマオ

 

 剛腕は自慢してない個人事業主:針山はりやまアンナ


 デブ自覚の筋金入りITヲタニート:太田タカシ


 長身自慢の身体は子供で頭脳は機械:ジョン=スミス


 各分野のスペシャリスト? による【山田工業株式会社】存続プロジェクトが始動する。


………………

…………

……


 金切ゴウが【鉄壁の社長】に覚醒し、3人娘に営業活動を依頼した翌日の夜。

 【太田無線製作所】建屋2階の事務所にて、太田タカシと針山アンナが会社存続のためのシナリオを描いた資料を整理していた。


「このシナリオがうまく動けば、倒産は回避できそうね」

「そうだね。あの会社が潰れると、ウチ含めてこの地域の経済に深刻な影響が出るし、なにより夢見が悪くなる」


 2人が言う会社は【株式会社針山加工】ではない。

 【山田工業株式会社】の方である。


 この状況からの経営の立て直しは本職の経営コンサルタントでも困難な物であるが、今回は起死回生の手段があった。


 金切かなきりゴウが、神槍かみやりソウスケから受け取ったUSBメモリである。


 USBメモリの中身は【行動支配型AI】の技術資料と、補修部品の都度製造供給システムを含む、【工場設備メンテナンス会社DX構想】の企画資料。

 神槍かみやりソウスケがかつて社内で提案し、不採用になっていた案件だった。


「あのも一緒に作業できれば捗るんだけどね」

「仕方ないでしょ。マオっちは【電磁波過敏症】だから、【電波暗室】の外には長居できないし、パソコンを長時間使うこともできないの」


 集めた情報を基に、矢場居やばいマオが計画を具体化した資料を手書きで作成。事務所で2人がそれを整理している間も、【電波暗室】内に置いたデスクで資料の続きを作成している。


「マオっちの計画では、株主総会にジョン=スミスを行かせるって書いてあるけど、いけそう?」

「ちょっと未知数だけどやってみるよ。資料に従ってリソース拡大したから、明日あたりからジョン=スミスはいろいろできることが増えてくると思う」


「それは楽しみ。【おとうと】と楽しく遊べるといいなぁ」

「この【行動支配型AI】はとんでもないよ。人道的にはマズイ構成だけど、シンギュラリティを先取りしてる。使い方によっては人類の脅威となり得る面もあるから、くれぐれも変な事は教えないようにね」


「分かってるって。3人で可愛がって、【理想のおとうと】に育ててみせるよ」


 資料の整理は進む。

 必要なITシステムの開発企画書はほぼ完成した。設計への落とし込みは太田タカシが担当し、要件定義ができたら、幾つかの外注業者で実装する。

 大規模システムではあるが、コア部分の堅牢な設計は神槍かみやりソウスケが残していたので、2カ月程度で稼働に持ち込める目途が立った。


「あの矢場居やばい家の娘さんだったんだね。なんかいろいろスゴイけど、アンナちゃんの商売上手は、あのから学んだの?」

「そう。高2の進路希望調査の時、貧しくて進学できないのがつらいって嘆いていたら、【貧しいなんて言うな!】って、すごい勢いで説教されて。稼ぐ手段とかいろいろ教えてくれた。おかげで私ら全員、何しても食べていけるようになれたよ」


 1階から微かにブザーの音が聞こえた。


「あっ。【電波暗室】の警報音だ。マオっちに何かあったのかな? 行かないと」

「僕が行こう。アンナちゃんは作った資料の印刷をお願い」


 矢場居やばいマオは【失語症】を患っており、うっかり喋らせると【暴言】【失言】を垂れ流す危険な状態。

 仲の良い友人同士とは言っても、あの状態で喋らせるわけにはいかない。


「じゃぁ、オタさんお願い」


 太田タカシ32歳。女の友情を守るための大人の配慮である。


…………


 階段を降りて、半地下に据え付けされている大型の電波暗室の入口前まで来た太田タカシ。入口脇の表示板で、警告表示を確認。


 【低酸素濃度警報】


「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


…………


 【電波暗室】に後付けした急速換気装置を起動しつつ、送気マスクを装着して内部に突入。倒れていた矢場居マオを廊下に引っ張り出して、【電磁波遮蔽布】でスマキにしてから事情聴取。


「なんで換気装置を止めた状態で紙を燃やすんだ! 危ないよ!」


「換気扇うるさい シュレッダー あたまいたい」


 スマキの中から、失語症妖怪スマキンが片言で応答。

 電磁波過敏症で普段から電気製品を避けている彼女の日常より、太田タカシは言いたいことをなんとなく予測する。


「換気装置の騒音が辛かったんだね。あと、書き損じを始末するために用意したシュレッダーもノイズが強かったんだね。だからって【電波暗室】の中は火気厳禁だよ。内壁にびっしり貼ってある電波吸収体は可燃物だからね。引火したら焼死するよ」


「正直すまんかった 仕事飽きて つい 【豊乳ほうにゅう】の絵描いてもた みられたくなかった」


 見られたくないから燃やしてまで処分したのに、自分から喋ってしまうのも彼女の【失語症】の困った症状。


「換気装置の騒音対策は強化しておくよ。あと、室内の電波吸収体は危ないから外しておこう。アレ無しでも外部からの電磁波の遮蔽はできるはずだから」


 ここで迂闊にツッコんで会話を繋げると【失言】【暴言】の嵐が始まるので、普段から太田タカシは大人の心でスルーしている。


「【豊乳ほうにゅう】がイカンのよ 【貧富の格差】なんよ あの3人 実は【でかい】 しかも3人違う 誰が一等賞か 知りたいやろ」


挿絵(By みてみん)


「ほほう」


 太田タカシは、大人の心が少し揺らいでスルーし損ねてしまった。


「サラシで締めてるけど 出会った頃からナマでかいん ボインバインでブルンプリン ホンマ 豊か カナヅチ言ってたけど たぶんアレのせい 悔しかった 豊胸手術考えた 母にバレた 裏切者は裸体写真ネット晒しの刑と脅された そんなんマジ死ぬ 泣いた 荒れた あのボインバイン共 【貧しくてつらい】とか言いおった ワイ ブチキレ 激おこ もう許さん どうしてくれようか 拳じゃ勝てん よっしゃ【行き遅れ勤労喪女】にしたれと 【稼ぐ力】を教えたった 男は勝手や 女に働け言うくせに 自分より稼ぐ女避ける ホンマ勝手や 3人優秀 男より稼ぐ やった 男寄り付かなくした 【勤労喪女】予備軍や ワイ【貧乳ひんにゅう】で【専業主婦】 ボインバイン共 【豊乳ほうにゅう】で【行き遅れ】 ざまぁ 貧富の格差で下剋上 一等賞にはドブ臭オマケ ついでにピンハネ 拳こわくて言えんけど わくわく それでな サラシで3人同じにしてるけどな 違うんや あの3人の中で一番でかいのはな」


 ズダダダダダダダダダダダダダ スパァァァァァァン


 階段を駆け下りて来たアンナが、電磁波遮蔽布の上から矢場居やばいマオの脳天にハリセンで一撃。

 腹黒暴言妖怪スマキンは沈黙した。


「……アンナちゃん? 今のはちょっとひどいんじゃないかな」


「オタさん。今、何を聞こうとした?」


「えーっと……」


 針山アンナは、母親譲りの【地獄耳】を持っている。

 聞かれていたとしたら言い逃れが難しい状況で、太田タカシは応えに窮する。


「聞き方を変えるよ。金属の【切削加工】で大口の注文ないかな。今ならまだ、私の【こぶし】と2択で選べるよ」


 営業スマイルで太田を見上げるアンナ。

 彼女の【こぶし】は殺傷力がある。

 太田タカシは生きるために知恵を絞る。

 今欲しいモノの中で、金属の切削加工で作れるもの。


 思考を巡らせたら、天啓のように浮かんだのが、【魔法喪女マジカル・ヴァージン】のフィギュア。


「ある! もうコスト度外視で金属加工で作りたいものがあるよ!」

「毎度ありがとうございまーす。コスト度外視なんて、オタさんわかってるー」


 床に転がる電磁波遮蔽布の妖怪スマキンが動いた。


「……ちゃうねん」


「あ、マオっち起きた?」


 電磁波遮蔽布の中から顔を出した矢場居やばいマオは、縋るような目線で2人を見上げながら訴える。


「ホンマ、ちゃうねん」


「喋り方が変わった?」

「まぁ、前よりマシになったかな」


「誤解せんといてや。ちゃうねんな。ホンマにちゃうねんな」


「でも、まだなんかオカシイよ」

「銃撃で負った大脳損傷による【失語症】の回復過程かなぁ」


「そうよ。アレよ。撃たれたんがアカンのよ。アレ誤射やってん」


「なんか、高校時代の話をしてたような気がするけど。あの時、あんなこと考えてたんだね」


「あ、あの時、ワイがおとりする作戦って言うたのに、なぜかワイ真っ先に撃たれてん」


「今覚えば、斡旋してくれた仕事が【ドブさらい】とか【バキュームカー清掃】とか、私だけちょっとアレだったよね。それにピンハネは聞き捨てならないよ」


「一番儲けたやろ。街は綺麗になったし、有名になって【副業】にも繋がって、それに【水の女神】なんて渾名あだなまでもろて。ええなぁ。ワイなんて渾名あだな昔から【ヤバイ魔王まおう】やで。誰がラスボスやねん。はよう結婚して姓変えたいわ」


 その渾名あだなよくお似合いですよ。というツッコミを太田タカシは飲み込んだ。


「そうそう、あいつらひどいんよ。敵側に女はおらんから、ミッションブリーフィングで女だけ撃たなければいいって言うたのに、昼間なのにドコ見て雇い主の後頭部を狙撃したんだか。避けてなかったら頭無くなっとったで」


「ツッコミどころ多すぎるけど、今マオっちにツッコんだら負けな気がする」


 太田タカシはいろんな意味で頭が痛くなってきた。

 とりあえず、この場にマトモな人間は自分だけ。

 だとしたら、常識的に言っておかねばならないことがある。


「マオちゃん。喋れるようになってきたのは分かったから、まず落ち着いて。とりあえず筆談に戻そうか」

「なんでやねん。喋れてるなら喋らせてくれたってええやん」


「【脳機能障害】でその喋り方になってるとか言ったら、いろんな人に怒られる」


………………

…………

……


 矢場居やばいマオの秘密。

 銃撃戦に巻き込まれたというのは嘘。マフィア下部組織撲滅のために、傭兵団に居た頃の人脈から戦力を集めて襲撃を計画したのは彼女自身。

 自ら囮を引き受けたが、狙撃での誤射は予定外。でも、マフィアと傭兵の皆さんの方が理知的だった。そこで日本人を死なせてしまうと【日本政府】を敵に回してしまい国家ぐるみで大変な事になるので、速攻で休戦して彼女を日本に生還させるために全力投球。


 頭部のひどい損傷。回復の見込み無しということで、心肺停止までに日本に送り返し、日本到着後に死亡判定をして、海外での事件を隠蔽する方向で両国外交関係者間で調整していた。

 結果的に彼女は生還したが、親バカの矢場居やばいゲンゾウ氏の心労は相当なもの。


 だからこそ、【自分から銃撃戦仕掛けてました】というのは、親には言えない彼女の秘密。


 なにはともあれ、このようにして【山田工業株式会社】の事業転換は準備されたのである。


 めでたし めでたし。

●オマケ解説●

 女の友情はドロドロしているとは言われるが、その渦中に巻き込まれた太田タカシの心労は計り知れない。


 矢場居やばいマオは【電波暗室】を拠点に活動する。そのため、【太田無線製作所】は彼女達の溜まり場であり、マオと3姉妹が揃うことも珍しくない。

 表面上は仲良くしている彼女達の姿は、今後デブヲタニートの体重を確実に削っていくことになる。


 なんて、ひどい。


 そして、マフィアと傭兵団を結託させた【日本政府】の恐ろしさ。

 あまり知られていないけど、日本は純債権国。つまり、多くの国にお金を貸している金貸し国家。


 日本政府は何されても【遺憾】を連呼するぐらいで頼りない。と言うのは見せかけで、お金借りてる側から見れば、あの【遺憾】は【金貸しを怒らせるバカな国は国債投げ売りで信用不安にしちゃおうかなー】という脅しに聞こえるという。

 相手国経済人のメンタルと体重を確実に削る【遺憾】を出されないため、各国の責任で在住する【日本人】の安全は配慮されているとか。


 なんて、ひどい。


※ポイントクレクレ記述

 マオの言う男の勝手がひどいと思った、わりと高収入なせいで逆に男に避けられている婚活女性が居たら、ひどいの証として★1評価をぶち込んでもらえると、作者は、収入を理由に避けられるってことは、貴女あなたの女としての魅力がその程度ってことでしょうと、対面で言ったら拳が出そうな暴言を背後を警戒しながらぶちかまします。


【ひどい】は最高の誉め言葉!

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