番外編02:太田タカシと座敷童(挿絵アリ) (1.9k)
「やってやる。技術系ニートの全てを賭けて、最悪なブツを作ってやる」
(by 太田タカシ@下僕)
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【太田無線製作所】の太田タカシは、お得意先の針山アンナからの注文で【電波暗室】を長期契約で貸し出していた。
電磁波遮蔽布製の雨合羽を着た【座敷童】がたまに出入りするぐらいで、何かの評価試験をしている風には見えなかったが、アンナからの仕事に詮索は禁物なので、気にしないようにしていた。
そんなある日の夜中。
雨合羽に包まった【座敷童】が太田タカシの仕事部屋にやってきた。
ついて来てほしいとメモを渡されたので、促されるままに【電波暗室】に入った。
そこで、雨合羽を脱いだ【座敷童】を見て、中身が女性だったことを初めて知った。
喋るのは苦手なようで、国産の高級デジタル一眼レフと一緒にメモ書きを出してきた。
仕事を頼みたいと。カメラに【マルウェア】を仕込んで欲しいと。
できなくはないが、倫理的にもコンプラ的にもマズいので断ろうと思い、軽い気持ちで【1億円】と吹っ掛けたら、【座敷童】こと矢場居マオは、ニヒルな笑みを浮かべながら前金の札束と小切手を出した。
速攻で詰んでしまった太田タカシであるが、やっぱり犯罪への加担は避けたい。
何とか別の方向にもっていけないかと理由を尋ねたら、【盗撮】の報復とのこと。
そんなことでと太田タカシはつい笑ってしまった。
矢場居マオは、笑ったぐらいで怒りはしない。
男の感覚なんてそんなもんだと知っている。でも、女としてどうしても理解してほしいことはあったので、丁寧に説明することにした。
「ソレ笑えるんか? 笑って済むと思うんか? 女にとってそういう写真を撮られるってのがどれほどの事か分からんかゴルァ? 一度流出したらなぁ、ネット上のアホ共が転載繰り返して何十年も晒されるんぞ 野郎のアホ写真とは訳が違うんじゃボケが キサマ、テメェのオカンが娘だった頃の破廉恥写真ネット上で晒されて平気か? ガキの頃にソレ見てマトモに成人できた自信あるか? テメェが今笑ったのはそういう事やで。 考えなしに切ったシャッターが、時を越えて子供の情緒狂わせるんや。 なぁ、笑ったやろ。今さっき笑ったやろ。 その度胸に免じて、手段選ばず材料集めてオカンの破廉恥コラ作って大判印刷して部屋に貼ったる。 ワイは慈悲深いからな、目の前でソレ見てナニかできたら笑ったことだけは許してやろわい」
銃撃によって負った【運動性失語症】の回復が不十分だったので、伝えたいことがうまく言葉に出来たか自信はなかったが、太田タカシの反応より、分かってもらえたということにした。
太田タカシは必死で謝った。
しかし、矢場居マオは、謝ったぐらいで許しはしない。
失敗したら【若いオカンの破廉恥コラ特大ポスター印刷】という極刑級罰ゲームを突き付けられ、そんなもん作られたら一生不●確定と、ITヲタニートの太田タカシの技術者魂は燃え上がった。
矢場居マオは、AIベンチャーに投資していた頃の人脈から、世界に散らばる凄腕ハッカー達とコンタクト。
各種投資をしていた頃に集めた大量の仮想通過をエサに、最新のOS脆弱性情報を買い集めつつ太田タカシに紹介。
太田タカシは、世界最高クラスのハッカー達の技術指導から多くを学び、自分の魂を守るための執念で開発。
要求仕様は唯一つ、接続可能なネットワーク内にあるサーバー及び端末のデータを復元不可能な形で徹底破壊。
コーディングを終えた後、余りものパソコン3台で作った疑似ホームネットワークで検証。
マルウェアを仕込んだ一眼レフカメラをUSBポートに挿してからおよそ5分後に、ネットワークに接続されたパソコンを完全に破壊する威力を確認した。
こうして、丸一日の突貫工事で開発された史上最凶のワイパー型マルウェア【滅殺破壊天罰】は完成。
西川マサシの一眼レフカメラのストレージに仕込むと同時に、カメラのファームウェアにも細工を追加。指紋を綺麗にふき取った上でビニール袋にて梱包。
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こうして準備された【世界一危険なデジタルカメラ】は、事情を知る針山アンナの手により、ビニール袋を開けないようにという注意と共に、金切ゴウに手渡された。
そしてそれは、山田工業株式会社を訪問した金切ゴウから、開発部に異動になっていた西川マサシに返却。
カメラを受けとった西川マサシは、あろうことか何も考えずに会社の端末のUSBポートに接続。
その結果、山田工業株式会社の社内ネットワークで【滅殺破壊天罰】は猛威を振るい、会社は壊滅的な打撃を受けた。
それを知った太田タカシは、自分がしでかしてしまった事の結果からのストレスにより、寝込んだ。
めでたし めでたし。
●オマケ解説●
失語症にもいろいろ種類がありますが、基本的に頭は冴えています。
冴えた頭と、ぶっとんだ思考と、破損した言語力のコラボが、最恐の【口撃力】を生み出し、太田タカシはファーストコンタクトで速攻【下僕】にされてしまいました。
笑っちゃいけないことを笑ってしまった彼にも問題はあったけど。
まぁ、ご愁傷さまです。
※ポイントクレクレ記述
【盗撮】の報復で会社一つ壊滅させてしまうお嬢の行動力が【ひどい】と思った、情報システム関連部署で日々サイバー攻撃から会社を守っているセキュリティ担当者の方が居たら、【ひどい】の証として★1評価をぶちこんでもらえると、作者は、やっぱりサイバー攻撃対策の基本は頻繁なバックアップと確実な保管管理だよねと、しれっと無茶ぶりします。
【ひどい】は最高の誉め言葉!




