7―1 夢見る喪男の光
実年齢たぶん子供のジョン=スミスにデタラメ本を読ませた罪で、3人娘が【大切なモノ】を失ってから約1カ月半。
暴動収束、政権交代、株価乱高下、物価急上昇、世界は目まぐるしく動いているけど、仕事は順調な俺は、【株式会社針山加工】の一人社長。
金切ゴウ 27歳 モテたい夢を見るまだ独身。
会社の利益も安定してきたので、マナとミナを【雇用】しようと思ったら、彼女達は今はジョン=スミスと一緒に別の仕事をしているとのことだった。
確かに最近は居ないことが多い。
………………
…………
……
一応休日としている日曜日の午前中。
キナさんも3人娘もジョン=スミスも何処かに外出中で会社兼自宅には俺一人。マシニングセンタは大物を加工中なので、しばらくは段替えも無い。
一人社長は順調で、年収に相当する額もハイスぺを越えていた。
もう独り身でやりたいことはやり切ったとも感じる。
そうなると、【お見合い】の時のことを思い出してしまう。
あの時俺が失礼かまさなければ、どうなっていたんだろう。
まぁ、過ぎたことを悔やんでも仕方ない。
気分転換のため、太田さんの投稿小説の新着分を確認だ。
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【魔法喪女は軌道上で酒を嗜む】
メンバー最年長であることを知りつつも、新しい出会いの望みを託して後輩に誘われた合コンに参加。4対4で飲み始めるも、最年長で口下手の三十路喪女は壁のシミにしかなれないという地獄。
そんな地獄で唯一話しかけてくれた男が、実は彼女持ちだったという事実を知った瞬間。繁華街の飲み屋の個室に【魔法喪女】が顕現。
「もう二度と合コンに呼ばないでね」
涙声でつぶやいた禁断の呪詛。
そして、あふれる涙を喪奥義【喪女涙噴推機関】で推力に変え、後輩がこっそり店に持ち込んだ純米大吟醸の一升瓶をちゃっかりと抱き締めて、飲み屋の屋根をぶち破り秋の夜空に飛び出した。
飲み屋街の上空を駆け抜けて針路やや東南東寄りで、高度一万六千メートルまで急上昇。
地球上に居ても誰にも選ばれないという孤独感。さらにあふれる涙の力で空気の壁を突き破り、衛星速度まで加速して高度二百キロメートルの低軌道に到達。
スイングバイで第二宇宙速度まで加速して【宇宙喪女】として地球圏に別れを告げてやる。その景気づけに、軌道上で一升瓶からラッパ飲みしたその時。口の中から広がる酢イソのフルーティな香りを感じて、地球上には飲んだことが無いお酒が沢山ある事を思い出す。
たとえ誰からも選ばれなくても、自分の還る場所はお酒のある地球しかない。
日本中の地酒が待っている。
そう考えた【魔法喪女】は、限定販売の3年熟成純米大吟醸を冒涜する禁断の喪奥義【喪女の深酒嘔吐逆噴射】で、軌道上にイロイロぶちまけながら減速。大気圏へと再突入。
大気との摩擦熱に耐えるため【喪力】で【鋼鉄の喪女】に変化し、一升瓶を抱き締めながら、金色に輝く流星となって母なる大地へと降下する【魔法喪女】。
しかし、灼熱のプラズマ火炎に包まれて減速している最中、いっそ深酒して酔いつぶれてしまえば【お持ち帰り】してもらえるんじゃないかという【邪念】が発生したことで、【喪女の呪い】が解けてしまう。
【喪力】を失った生身の身体ではプラズマ火炎の熱量には耐えられない。
天を照らした流星の最期の輝きは、多くの神々に見守られながら消えた。
ありがとう【魔法喪女】。
次生まれ変わったら、人間になれるといいね。
こうして【永遠の喪女】は神話となり、神宿る国の礎となったという。
めでたし めでたし
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彼女持ちの男を合コンに連れてくるなよ後輩。
4対4でそれされたらキツイことぐらいわかるだろ。
先輩が燃え尽きちゃったじゃないか。
太田さん作の【魔法喪女】シリーズ。
【永遠の喪女】の写真を挿絵に入れてからPVがさらに増えて、コンテストに入賞したそうな。
【書籍化】の企画も進んでいるとかで、太田さんは上京して【小説家】としてデビューするらしい。
俺も最初は誰得と思ってたけど、最近は共感できるようになってきた。
地味に心に刺さる名作だ。
ガタッ
不意に物音が聞こえたので、事務所の入り口の方を見ると、【北の将軍様】コーディネイトの太田さんが来ていた。
「ゴウ君。世界を、救ってくれ……」
えらく痩せ細った太田さんが、力なく訴えてきた。
「えーと、【魔法喪女】として?」
「……女って、本当に、恐い……」 バタッ
意味不明な事を言われたので意味不明で返したら、太田さんが謎の一言を残して倒れた。と同時に黒服の男3人が事務所になだれ込んできた。
「キム! お前はよく頑張った!」
「大丈夫だ。あとは我等に任せよキム!」
「キムはもう休め! 十分だ!」
お笑い芸人トリオ【太平洋野郎共】の3人だ。
何でこんなところに居るんだろう。
アメリカ、中国、ロシアの代表者のそっくりさん達が、痩せ細った【北の将軍様】コーディネィトの太田さんを介抱する様子は、なんかこう笑えないけど笑える。
「ゴウと言ったな。応接室のソファーを借りるぞ。頑張ったキムを休ませる」
「よろしくお願いします。あと、キムじゃなくて太田さんですよ」
【太平洋野郎共】の中で一番大柄なドナルドさんが、寝てしまった太田さんを応接室に運んだ。
「ゴウ君。悪いが時間が無い。世界を救うためにトラックに乗ってくれ」
ウラジィさんに言われて、【高野ガス株式会社】の記載があるリフト付きトラックの荷台に上り、【炭酸ガス】と【プロパンガス】のボンベの間に座ったところでトラックは走り出した。
荷台側の窓から運転席を覗くと、ジンピンさんが3人乗りシートの真ん中に座っていた。
そこにこだわるために、俺を荷台に乗せたのか?
…………
トラックは近所の神社の駐車場に駐車。そこにジョン=スミスが待っていた。
「彼等は別の仕事があるので、ここからはボクが案内します。【携帯電話】とか電波の出る物は一旦全部トラックの座席に置いて、ついて来てください」
【太平洋野郎共】の3人組はガスボンベや何かの機材を持って裏山を登っていった。
俺は言われた通りスマホをトラックに置いて、ジョン=スミスに続いて別ルートで裏山を登る。
そんなに高くない裏山の頂上まで登ったら、裏山の反対側に綺麗な池を中心とした窪地が見えた。
「裏山の奥にこんな場所があったのか」
「近所でも知らない人が多い場所ですよ。池の近くの洞窟まで行きます」
洞窟の前まで降りると、3人娘が巫女服姿で待っていた。
「3人共、ここは一体何なんだ? ここで何してるんだ? そして、世界を救うって何なんだ?」
「ここは防空壕として使われていた洞窟」
「まぁ、これも仕事かな」
「世界を滅ぼすって脅してる人がいるの」
3人娘がそれぞれ応えてくれるけど、アンナの言ってることだけが分からない。
「ボクから説明しますよ。話せば長くなりますが、日本の経済を破壊して富を海外に流していた【売国奴】の【黒幕】を見つけましてね。実は日本人でした」
「えっ? 日本人が【黒幕】なのか? それで、その【黒幕】を見つけてどうしたんだ?」
「ボク達仲間に入れてもらいまして。【アマテラス機関】っていう組織ですが、そこで【源氏名】貰ったんですよ」
「なんで【売国奴】の【黒幕】を見つけて仲間に入るって流れになるんだ。何かの秘密結社か? そして【源氏名】って何なんだよ」
「私は【タゴリヒメ】を貰った」
「【タギツヒメ】だって」
「【イチキシマヒメ】になった」
どこかで聞いたような名前だな。
「ボクは、【ヒルコ=タカマガハラ】です」
逆に呼びにくくなったぞ。
「洞窟内に居る【アニキ】も仲間なんですが、【ツクヨミ】の【源氏名】を貰ったら、閉じこもってしまいまして」
「【ツクヨミ】は分かる。確か、日本神話に出てくる神様だよな。でも、洞窟に引きこもる神様は別だった気がするけど」
「【アニキ】はそっちの【源氏名】が欲しかったようですけど、それは使用禁止でして」
よくわからないけど、何か決まりがあるってことか。
「その点ボクはいい名前貰ったと思ってます。出来損ないの魂に人工知能によるプラットフォームを結合して人の形を保っている存在ですからね。ピッタリですよ」
【黒幕】【アマテラス機関】【アニキ】【源氏名】【人工知能】、一気に色々出てきてツッコミどころが多すぎる。
こういう時は、落ち着いて順序良く1個1個ツッコミしていくのが大事だ。
「日本経済を陰で破壊していたっていう【黒幕】って誰だ?」
「軽々しく呼べない御方ですが、自称名は【東京都千代田区千代田1丁目在住 HN アマテラスの末裔さん】です」
どぎゃぁぁぁぁぁぁぁ
●オマケ解説●
6人の生活を普通に支えていたゴウ社長の収入は、実は結構高い。
サラリーマンとは一概に比較できないけど、婚活市場では間違いなくハイスぺになるぐらい。
でも、モテるかどうかは別問題。
男の結婚願望って言うのは、独り身でできる事をやり切った時に高まる物です。
まぁ、結婚すると自由が無くなるのはわかるから、やり残したことがあると踏ん切りがつかないというのはあるかもね。
しかしながら、人との出会いは一期一会。
生きてさえいれば再び会えることもあるかもしれないけど、同じ状況で会えることはあり得ない。人との出会いは、その時を大事にしないといけないものですよ。
そして、東京都千代田区千代田1丁目には何があったっけ。
※ポイントクレクレ記述
合コンに彼女持ちを混ぜて【喪女】を誘う後輩がひどいと思った、合コンや婚活パーティで壁の花にしかなれないリアル喪女の方が居たら、【ひどい】の証として★1評価をぶち込んでもらえると、作者は、魔法を使うまで拗れた喪女の相手は彼女持ちか既婚者ぐらいでないと手に負えないから仕方なかったんじゃないかなと、後輩の暴挙に一定の理解を示します。
【ひどい】は最高の誉め言葉!




