プロローグ
「私、結婚したら【専業主婦】になりたいですー」
「はぁ?」
駅近くのホテルラウンジにて、初めて挑戦した【お見合い】の席上で、相手の女から意味不明な事を言われて絶句する俺は、金切ゴウ。26歳独身のモテないサラリーマン。
「家事育児を切り盛りして、外で働く男を家庭で支えるのが【イイ女】の生き方ですわー」
「えー……?」
お見合い相手は、矢場居マオさん。21歳。今年度末に卒業を控えた大学生だ。
婚活において、【女性の価値】は年齢。だから、21歳の彼女はそれだけで【高価値】と言える。しかも、家柄も名家のお嬢様。整った顔立ちとストレートセミロングの茶髪をおろした姿は誰が見ても美人の範疇。ゆるふわ系か。
新卒入社後勤続4年で係長になって、年収500万到達した俺の【価値】と比べると、悔しいけど彼女の方が上だ。俺より1cm高い身長は減点要素であるが、俺と彼女の【価値】差から勘案すると、【専業主婦】希望は一般的な解釈であれば【許容】判定だろう。
だけど、大学卒業と同時に就職せずに専業主婦を目指すってどうなんだ。
何のための学歴だよ! 何のための学費だよ! 親不孝だろ!
このお嬢様、世の中ナメてんのか?
「あのー。大学まで進学したのなら、一度ぐらいは社会に出てみてもイイのではないでしょうか」
「卒業前に【専業主婦】になることを両親から強く勧められましてー」
元凶は両親か。両親が【昭和ボケ】してるのか。
今は【昭和】じゃねぇ! 【令和】だ!
それどころか、【平成】時代から、夫婦は【共働き】がスタンダードだ!
時代遅れな親の価値観のせいで行き遅れる若者が多いのを知らんのか。
「いやー、今時、家事は家電でスイッチ一つだし、料理もレトルトやお惣菜でなんとかなるし、共働きが常識の今の時代に【専業主婦】とか、一般的に無職ニート扱いですよ」
「えー、無職ニートはひどいです。私、いろいろ料理できますよー」
いろいろって何だよ! 自称【料理上手】か?
なにかとゆっくりとした動き。間延びした喋り方。どことなく虚ろな視線。ご両親から大切に育てられて、家事すら覚えずに成人を迎えてしまった【箱入りお嬢様】にしか見えない。
独身寮で1人暮らしをしてる俺の方が、料理ができるんじゃないかと思うぐらいだ。
まぁ、家事ができなくても、【稼ぐ力】があるならまだいい。
結婚して世帯を持つと世帯支出は激増する。住宅買うならローンの返済も必要だし、子供は必須だから養育費もかかる。年金も俺達の世代では当てにならないから老後資金の貯蓄も必要だ。
台頭してくる【女性総合職】と競合しながら、夫一人で家計を支える事自体が無茶だ。ニートを養う余裕なんて、どんな男にもあるはずない。
「【男女平等】と言われる時代ですからね。男の稼ぎで養ってもらおうなんて発想自体が時代遅れなんですよ。女も家計を支える覚悟が無いと、この厳しい時代は生き残れません」
「でもー、安定した会社に勤めていれば、夫の収入だけでも十分生活できますよねー」
【昭和ボケ】女の寄生根性か。
【男女平等】を主張しつつも、女だからと養われる権利を主張するダブスタ糞フェミ思考か。
若いうちからそんな腐った考えに染まったら、残念な娘になってしまう。
そんな残念女が増えたら日本社会に蔓延る【男損女肥】がさらに加速して、国が滅茶苦茶になってしまう。
今の時代、女性にも【自立心】が必要だ。男に依存するだけの女がのうのうと生きられる道理は無い。
社会人として自活している年長者として、なんとしてでも矯正せねば。
国の未来のためにも。
「【終身雇用】は崩壊して、【成果主義】で容赦なく切り捨てられる時代です。今のサラリーマンは昭和時代ほど気楽な仕事じゃないんですよ。男だって大変なんです。【男女平等】がスタンダードな時代に、女だからって養われたいとか甘えた事言ってたら、生きていけません」
「えー、これは、甘いですかー」
「甘いです。物価は上がっているのに、国は増税増税で国民から搾り取るだけ搾り取って、事あるごとに海外にお金をばらまいてます。この前も在外邦人救出のためとかで血税を無駄遣いしてました。もう政治も経済もダメな厳しい時代なんです」
「あー、それを無駄遣いというのは、ちょっとー」
先月ぐらいだったかな。治安の悪い地域に迷い込んで、現地の抗争に巻き込まれたアホが居て、それを助けるために日本政府は周辺諸国にばらまきしたり、特別機を出したりと。機密費無駄遣いの疑惑ありと国会で野党が糾弾してた。
危ない場所にわざわざ出かけるのは【自己責任】なんだから、そんなアホを助けるために海外に散財せず、真面目に仕事している国民の生活を守ってほしい。
「年金も取られるだけ取られて、老後の資金は【自己責任】とか言われる厳しい時代なんですから、これからは【共働き】が常識。女だからって無条件に養われるわけじゃありません。苦労を知らない女は若くても敬遠されます」
「苦労を知らないですかー。では、稼げばいいんですかねー」
これがお嬢様育ちか。稼げばいいとか簡単に言ってくれる。これから社会に出て、お金を稼ぐことがどれだけ大変か一度実感してほしい。
「そうですね。やっぱり一度は働いて、お金を稼ぐ苦労を知るのは大事だと思いますよ」
「でも、いずれは【専業主婦】になりたいですねー。どうすれば【専業主婦】にたどり着けるでしょうかー」
このお嬢様。どんだけ【専業主婦】にこだわるんだ。
そんなに働くのがイヤか。
男女平等を主張するなら、働く義務は生涯続くんだ。女だからって【専業主婦】なんて逃げ道はこの時代には存在しない。
【共働き】を約束しつつも入籍後に無断で退職する【裏切り女】みたいなことをしないためにも、ここは年長者としてファンタスティックにバッサリ諭しておこう。
「今の時代【専業主婦】になるには、【逃げたら世界を滅ぼす】ぐらいの脅しができないと無理ですよ」