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第一話 ep.7 近くじゃ見えないもの

ありますか?

1-7


「え?」

「変なんかじゃないよ。絵が好きなら、それは絶対変なことじゃない」

「で、でも、これでウサギですよ?」

「それなんだけどさ」


千尋のそばに寄って、彼女に見えるように「ここ!」と絵の一部を指さす。


「ここいろんな濃さの色が混ざってて凄く綺麗じゃない?」

「―――!」

「ここも、黒しかない絵に白い線が走ってて目を惹かれるし」

「それは、ウサギの毛並みを、」

「しかも全体的に線が綺麗だし、素人目に見てもすごい絵だよ!」

「すごい………絵?」


聞いたことのない言葉を吟味するように繰り返し、信じられないといった表情で絵を見つめる千尋に、桜子はただ「うん」と答える。


「…………やっぱり、わかりません……どうみてもこの絵は……」

「じゃあさ、ちょっとついてきてくれる?」

「えっ?」


桜子は千尋の手をとって立たせ、踵を返して千尋と共に教室の後ろに歩いていく。


「え?えっ?」

困惑の声を上げつつ不安げに桜子の顔を見上げる千尋に、二ッと笑って「あのさ」と話し始める。


「近くにあるものほど見えないんだなって思ったことはない?」

「……?」

「私は何回もあるよ。今日もあった」

「…………」

「壁に掛けられた君の絵を見て思ったよ。まさにこういうことなんだなって」

「な。なにを………?」

「近くにいたときは見えなかったけど、今ならきっと―――」


桜子は教室の端まで来たところでようやくその歩をピタリと止めると、ゆっくりと振り返った。


「ーーー違うものが見える」


「ーーーーー!!!」


振り返った千尋はその目を大きく見開いた。


立てた親指ほどの大きさのキャンバス。

その上に描かれた、縦横無尽に駆け巡る黒線。洞の様にぽっかりとあいた白い穴。様々な濃さが混在する砂嵐。魚がのたうち回った魚拓のような湖。微かに見える岩山の影。



一つ一つが圧倒的な存在感を放っていたそれらは、距離を置くことで混ざり合い、ただ一つの物を形成する。


「ほら、言ったでしょ。すごい絵だって」


それは、紛れもなくウサギの絵であった。



千尋は、青を含んだ瞳を震わせると、そのきめ細やかな肌をした頬に、ツウ…と僅かに涙の川を作った。

「え!?泣ッ、いや、泣かせるつもりは無くて!」

「い、いえ違うんです!ちょっと嬉しくて!」


千尋は涙を指で拭い、満面の笑みで桜子に向き合う。


「なんか、自分の絵が好きになれました!」

「そっか、それはよかった」


お互いひとしきり笑った後、二人は再び絵に目をやり、近くでは見えなかった物をじっくりと吟味する。


「御猪口、私の画用紙破ったんだから手伝いなさいよ」

「え〜〜〜」

「え〜じゃない!ほら、筆洗に水汲んできて!」


喧騒をよそに、絵を見つめていた千尋は、ふと隣に立つ桜子を見上げる。

「…………」

作品に見惚れているのか、桜子は気づかない。

何か悪いことをしているような感覚に、千尋の心臓が早鐘を打つ。しかしそれでも桜子の顔から、なぜか目を離すことができなかった。

肩に流れる金髪に、キリリとした鼻筋、柔らかに光を受けて輝く瞳、そのどれもがこの上なく美しく感じて―――


「―――かっこいい………」


「ん?今何か言った?」

「あ、いやっ!何でもないです!」

「……?そう…」


顔を真っ赤に染めて冷や汗を浮かべる千尋は、桜子の不思議そうな顔に耐えかねてか、突然「あッ!」と声を上げて走り出す。


「そろそろ片付けないと!片付けてきます!」

「あ、うん。………!ちょっと待っt!」


静止の声を聞かずに一目散に走っていく千尋に、桜子は慌てて手をつかんで止めようとするが、間一髪で避けられてしまう。

混乱して視界が狭まっている千尋の背を、まさに遠くから見ていた桜子の視界には、そう、違うものが見えていた。


「―――卯咲さんッッ!!」


独奏的なラウム8です


私はAVみてるとよく思います。


合言葉


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