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第一話 ep.6 絵のうまさ

うまいかどうかは、俺が決める事にするよ。

みんな花丸。

1-6


(おぉ………流石美術部……みんな上手いな)

好きに見ていい、そう言われたことを素直に受け取り部室の中を迷惑にならない程度に見ていた桜子は、教室の壁に飾られていた数々の作品を眺めて、瞠目する。


桜子自身絵に関しては素人であったが、その桜子をもってしても目の前に広がる作品群はそれぞれに筆舌に尽くしがたい美しさがあり、それらにしかない世界があった。

そんな中で、ただ一つのキャンバスに目を留める、いや、留まってしまう。


一瞬、初めてクレヨンを握った子供の描いた絵を飾っているのかと思うほどに乱雑で、意地悪なほどの彩色を持つそれは、しかしよく見ると無数の線を描くために使われている絵の具の色は、一本一本丁寧に異なっており、そして恐ろしいことに、それほどの色を使っているのに下品な感じが全く感じられない。

だが、一番恐ろしいのは…………


(これ何描いてんだ…………?)


何を描いているのか全くわからないことか…………


(ん…………?)

桜子が何かに気づいたように眉根を寄せる。

そして、体を傾けてみたり、横から見てみたり、目を細めてみてみたり、様々な試行錯誤を経たのち、数歩後ろに下がったところで、目を見開いた。


「―――これって」



「お待たせしました」

キャンバスを眺めていた桜子に、千尋が声をかける。

千尋もほかの部員と同じようにジャージに身を包んでおり、よく見るとところどころに絵の具や炭のような汚れがついていた。


「今日は突然の見学でジャージの準備がないので、今回は私の作業を見るだけになりますけど………大丈夫ですか?」

「あ、うん、大丈夫だよ。楽しみ」

屈託なく笑う桜子に、千尋は安堵すると、用意していたイーゼルに白紙のキャンバスを掛け、向き合うように座る。それに倣って桜子も近くの椅子に腰かけ千尋の手元を見る。


千尋はまず鞄から何かの箱を取り出すと、カパッと開いた。


「これは、鉛筆?」

箱の中には数十本の長短さまざまな鉛筆が入っていた

「はい、今日は進捗が目に見えてわかりやすい鉛筆画をしようかと」

「こんなにたくさんの鉛筆を使うの?」

「あ、これは種類が違うんですよ」

きょとんとする桜子に、千尋は「えっとですね」と言い、数ある鉛筆の中から五本取り出して並べて見せる。


「鉛筆は硬さと濃さでそれぞれ分けられていて、HBやFを中心にBになるほど脆く濃く。Hになるほど硬くなり、その代わり色は薄くなります」

縦に並べられた鉛筆の下をBからH(みぎからひだり)へ細い指で艶めかしくツーと撫でる千尋に、桜子は思わずヒクと頬を引きつらせる。

「へ、へぇ……Hになるほど硬くなるんだ………」

「はい!Hになるほど硬く―――」


「―――ち、違いますからね!!??」

「わかってるよ?!?」

顔を瞬時に朱く染め、慌てて否定する千尋に、桜子もまた激しく否定する。

千尋はコホンと可愛らしく咳払いをして説明を続ける。


「とにかく!描く場所や表現によって鉛筆を使い分けるんです!」

「う、うん」

「じゃあ……描いていきますね」


その言葉の後、千尋は目を閉じ「ふぅぅぅ…………」と深呼吸をして、数秒たった頃ゆっくりと目を開けた。


「――――――!」

空気が一気に張り詰めるような感覚に、桜子は目を見開き冷や汗を浮かべる。

背をピンと伸ばし、姿勢を正して座る彼女の目は、他でもないキャンバスのみを映し、彼女の耳には部室の喧騒も聞こえていないようだった。

完全に自身の世界に没入した彼女の横顔は、これまでの可愛らしい顔から打って変わって凛々しさを湛えており、彼女の姿そのものがもはや一枚の名画のように感じられた。


「………」

千尋はゆっくりと腕を持ち上げると、数ある鉛筆の中からたった一本のみを取り出し、白いキャンバスの上を臆することなく塗りつぶしていく。

カリカリ……サーサッ……という音をかすかに立てながら、時に鉛筆を変え、時に練り消しで黒を剥がし、時に指でなぞって線をぼかしながら、慣れた手つきで作品を積み上げていく。


どれほどの時間がたったのであろうか。

カタン………と鉛筆を置いた音が響き、千尋がようやく緊張を解いた。


「こんなかんじかな………どうですか、狩森先輩」

「え、あっ、…………」

呼吸の感覚を久しく忘れていた桜子は、声を掛けられたことでようやく我に返り、乾きかけていた口の中を舌を転がして湿らせつつ言葉を紡ぐ。


「…………す、すごかった。うんほんとうに」

やっとの思いで口にした粗末な感想に、だが千尋は顔を輝かせ「よかったです!」と喜びに頬を染める。


「うん、綺麗だったし、かっこよかった」

「かっこ……?!あ、ありがとうございます……!」


そう、彼女の絵を描く姿は素人の桜子の目から見ても美しく、それに桜子は言葉に仕切れないほどに心からの感動を覚えていた、ただ惜しむらくは―――


「で………これは一体……?」

「え“っ?」


―――何を描いたのかがまるで分らないことか


「え、えっと、わかりませんか?」

「ちょ、ちょっと待ってね?!」


改めて作品を注視する。

縦横無尽に駆け巡る黒線。洞の様にぽっかりとあいた白い穴。様々な濃さが混在する砂嵐。

魚がのたうち回った魚拓のような湖。微かに見える岩山の影。


「これは、アリの大群―――じゃなくてブラックホ―――でもなくて!えっと富士山ではないとして!」

回を重ねるごとに陰っていく千尋の顔に、焦りを感じた桜子は思考回路を限界まで回し、その答えを告げる。


「育児放棄されて野垂れ死にかけてるカエルの卵!」

「ウサギです」

「え」

「ウサギです」

「……………………」


「い、いえ!!こうなることは半分わかっていたので!!それはやめてください!!!」


土下座をすべく無言で床に膝をつけ始めた桜子に、千尋は慌てて止めにかかる。


「私、そんなに絵が得意じゃないんです」

「“そんなに”……?いえ、なんでもありません」

ほっぺを膨らませ涙目で可愛らしくにらんでくる千尋に桜子は口をつぐむ。

「はぁ」と柔らかくため息をついて、キャンバスを手に取って自身の絵を眺める。


「絵を描くのは好きなんですけどね……美術部に入ったら何か変わるかもと思ったんですけど、この有様で」

「…………」

「変ですよね、美術部なのにこんなに絵が下手なんて」

目を伏せ、力なく笑う千尋に桜子は―――



「―――それは違うよ」


無意識に、口を開いていた。


独奏的なラウム8です


絵がうまいかどうかは、思っているより判断をしにくいもので。

私は基本的にどんな絵でもうまいと思うのですが、そこはやはり人の好み、千差万別十人十色。

そしてその中には自身の好みと合致しないものに心無い言葉をこれ見よがしに言い放つ人がいます。

そして絵や漫画、小説など創作の道を進んでいくとそういった人に多く当たることがあります。

その度に要らぬ傷を負ってしまうことがあります。

そんな人に出会ったとき、どうすればよいのか。

簡単です、陰茎をたてましょう。

もちろん心の陰茎ですよ。別に本当にたてても構いませんが。

えっちだなぁ、とそいつらの酷評を視姦すればいいのです。

私はこのとき生意気なおとこの娘で想像します。

中指を立てて視界を真っ赤にするより、陰茎をたてて真っ白に染めるほうが楽なもんです、その白の上にまた物語が書けますからね。


さて、絵がうまいかは判別が難しいですが、絵を描くのがうまいかは簡単にわかります。

絵を描くのが楽しく感じれたら、みんなうまいですよ。


合言葉


『それっぽいことしか言わない奴にアカウント乗っ取られました』

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