第一話 ep.3 スイーツ
男がスイーツ好きで何が悪い。
おとこの娘がスイーツ好きでいいことしかない。
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「それじゃお疲れ様!またね、桜子ちゃん!」
「うん!お疲れ様!」
授業を終え、放課後を迎えたクラスの皆は続々と帰路についていく。
そんな中、同じく帰りの準備を進めていた桜子は、沢野に「あ、そうだ!」と呼び止められた。
「時間があるなら売店を回ってみたらどう?」
「売店…?」
「うん。この学校って敷地が広いからいろんな売店もあるの。文房具とかパンとか…それこそスイーツなんかもあるよ!」
「スイーツ……」
甘美な響きのそれを口中で咀嚼して繰り返す。
(………めちゃくちゃ食べたい………!)
ショートケーキ、プリン、クレープにパフェ。様々なスイーツが頭の中で現れるたびに桜子の琴線をなでていく。
そう、桜子はスイーツが好きであった。
スイーツ好きにはたまらない情報に、
(けど………)
と心の中で二の足を踏む。
男である竜児はそのことを少し恥ずかしく思っており、これまでそのことを前面に出したことはなく、姉にも言ったことはなかった。
どうしたものか、と考えていると、竜児の、いや桜子の脳内に電流が走る。
(………よく考えたら、今俺一応女子高生じゃん……!!スイーツ好きでもおかしくないじゃん!!)
この数か月、悪い思い出しか生まなかったこの女装に、初めて意味ができたことに、桜子は感動の涙を流す。
嗚呼。俺の苦しみは無駄ではなかった………
「そんな泣くほど……!?」
「スイーツ……いいね。行ってみようかな。沢野さんも一緒に行く?」
涙を流しながらの桜子の提案に沢野は「あー…」と申し訳なさげに頬を掻く。
「ごめん!これからバイトなんだ!場所は教えるから好きに楽しんできて!」
「そっか。また一緒に行こうね」
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「と……来てみたけど」
さっそく売店に来てみた桜子は、目の前に広がる光景に思わず嘆息した。
「これじゃまるでちょっとしたスーパーだな…」
規模、品ぞろえともに学生が運営するものを優に超えており、この場にいるのが店員を含めて全員この学校の生徒でなければ、普通のお店と間違えてしまいそうなほどであった。
「さてスイーツスイーツ…」
軽やかな足取りで桜子は案内に従って歩いていく。
しばらく歩くと本格的なスイーツ屋さんで見るようなショーウィンドウが並ぶ区画にたどりついた。
中を覗き込むとそのどれもがプロのパティシエが作ったかのような出来栄えで、桜子は逆に引いてしまった。
「お、おぉ……しかも意外と安い」
「どうぞ好きなのを選んでくださいね~」
「あ、ありがとうございます。どれもおいしそうですね…迷います……」
「わぁ!うれしいです!全部この学校の生徒が作っているんですよ!」
「は!?プロじゃなくて?!」
「……?えぇスイーツ部の方々が」
「学生の域超えてんだろ……っじゃなくてすごいですね!」
(危ない危ない………思わず素が………)
店員と離れ、桜子はいろいろなスイーツを見て回る。
やはりここのスイーツ人気なのか桜子以外にも多くの生徒がいた。
その生徒の間を縫うようにして歩いていると―――
「―――ん?」
見覚えのある姿に思わず足を止めた。
ショーウィンドウの前でしゃがんでスイーツを覗き込む女の子は、きれいな白髪をしていた。
もとより小さい体を更に縮こませている彼女は、なにやら深刻な顔でシュークリームを見つめてぶつぶつと何かをつぶやいている。
「クリームたっぷり……デラックス…いやでもお金が……でも…」
彼女はその可愛らしい顔をしかませ、しばらく唸ったあと、意を決したのか消え入りそうな声で「あの……」と店員に声をかける。
「このデラックス………いえこのミニシュークリームください」
「かしこまりました」
「…………」
「ありがとうございました~」
白髪の少女は紙袋を受け取ると、逃げるように桜子のすぐ隣を早足で抜けていった。
「………………」
独奏的なラウム8です
じつは文字数の調整が苦手。
合言葉
『えっちとか言いすぎるとくどいよね』