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第一話 ep.1 大丈夫そのうち楽しくなるから

一番楽しいのはみてるこっち

1-1



―――数か月前

『姉貴ぃぃぃぃぃ!!!』

『あ、起きた?』

『起きた?じゃねぇよ!!!なんッなんだよこれはぁぁぁ!!こんなッ!フリフリの服で!なんか髪長いし!』

『似合ってるよ?』

『そういう話じゃねぇよ!!!なんで、起きたら女装してんだよ俺はぁ!!??』

『夢遊病とかじゃない?ストレスが溜まってるならお姉ちゃんが抱―――』

『いやどう考えても姉貴がやったんだろうが!!…………ハッ…!ってことはまさか俺が寝てる間に俺の服を…………?』

『…………』

『おい目をそらすな』

『いやぁ、そのぉ…………ごちそうさまでした』

『最ッ悪だよもう!!!とりあえずこれ全部脱ぐから俺の服を返し』

『それはだめだよ』

『はぁ?』

『竜は高校を退学になったでしょ?これからどうするつもりだったの?まさか中卒で社会に出るつもりなの?』

『いや……ちゃんとどこかの学校に編入を………』

『暴力が原因で退学になったのに拾ってもらえると思う?許してもらえたとして、竜の学力で試験に通ると思う?』

『うぐ…………いや!でも女装は関係ないだろ!』

『―――都立紅華女学園』

『え?』

『そこなら私の名前で通せるし、学力の幅も広いから竜でも卒業できる』

『ちょ、ちょっと待って?それってつまり』


『練習、しよっか。女の子、いや男の娘の♡』


_________________________



あれから苦節数ヶ月。思い出すと吐き気がする程の練習、もとい姉のおもちゃにされる苦行をやり遂げて、姉からのお墨付きを得るほどに女性としての立ち振る舞いや外見を取り繕う力はついたと思っていたのだが、


『桜子ちゃんの手ってなんかーーー』


「まさか登校初日、しかも出会って数分でバレかけるなんて………」


男であることを隠し通すことの、想像以上の難しさに、竜児、もとい桜子はキリキリと胃が痛むのを感じる。

胃の痛みに拍車をかけているのは、今朝、この学園の校長にかけられた言葉。


『あの、お願いだから、ね?バレるようなことはね?私の命も懸かってるからほんとにお願いしますほんと』

明らかに地位の高い妙齢の女性が、肩をガタガタと震わせ、普段ならば若さに溢れているのだろう顔を年齢以上に老けさせて冷や汗を滲ませるその姿は何とも見るに耐えないものだった。

それもそうだ、女学園に男性が入学することを許可したとすれば、今後の教師としての立場は瓦解するであろう。命が懸かっているというのは少々過剰な気がするが。


校長の姿に気圧されつつも桜子は『わ、わかりました』と答える。しかし、絶対大丈夫とは言えないのが歯痒いものだ。

『ほんとにお願いしますね…?もし性別がバレて、あなたに何かがあれば……っ、あなたのお姉さんが……わ、私の、い、いい、命を………っっ!!』

『絶対大丈夫です』

あぁ……恐怖の対象は自身の地位の崩壊ではなく、自身の姉だったのだと……文字通り命を懸けている校長に、桜子はこれ以上なく真摯に真剣な声で即答した。



(校長先生…ごめん…)

R.I.P……と合掌して祈っていると、背後の扉の奥からキーンコーーンカーンコーーンとくぐもった音が聞こえた。

「や、やばい!予鈴だ!」

授業開始5分前を告げるチャイムに慌てて立ち上がった桜子は、現実に立ち返り、再び戦場に足を踏み入れる覚悟を持って、扉に手をかける。


男であるという証拠が一度でも出てしまえば、そこから芋づる式に正体がバレてしまうだろう。今は違和感を覚えられただけだが、そこからどう転ぶのかはわからない。

(もう失敗は許されない…)

二度と油断をしないことを胸に誓い、桜子は多目的トイレから一歩を踏み出しーーーー


「ーーーえっ?」

「え“」

扉を超えた瞬間、眼前に、いや厳密に言えば少し斜めにずれた隣接する女子トイレの前に一人の女性が立っていた。

髪を頭の後ろで結い、桜子と同じ高等部の制服に身を包む明朗快活な少女、沢野は、予想外の出来事に狼狽した様子で桜子を見つめる。


「えっと、次の教室を案内しようと待ってたんだけど」


「どうしてわざわざ多目的トイレに………?」

「………………」



あぁ、これダメかも知らん。

星になった校長の幻覚と共に、桜子は心の中で呟いた。


独奏的なラウム8です。

長かったらラウムでも変態でも。


さらっと姉がでてますが本格的な登場はもっと後です。なにせでたらいろいろ大変なので、えぇ。


合言葉


『おとこの娘のおへそ』

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