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第二話 ep.1 カフェ『フェミメイル』

おや…………?

2-1


「じゃあ、狩森さんはお姉さんの力でこの学校に入ったんですね…」

「そう。まぁ、退学になったのは自業自得だけど…行ける場所がここしかないってほんと困るよなぁ……」


諦めの境地に至ったような陰りのある笑みを見せつつ、桜子はため息をつく。

その桜子の姿に、対面に座る千尋は「あはは…」と困った笑みを見せて、手の中のグラスを満たす水をコクリと飲む。

淡いピンクをした柔らかな唇にグラスの端を当てがい、小さな口に水を少しずつ流し込む千尋の姿はどこか艶美な雰囲気を纏っており。

華奢な体を包む白を基調とした学園の制服や、生糸のように滑らかで太陽の光を受けて淡く輝く白銀の髪、精巧なガラス細工を思わせる儚さとあどけない少女のような可愛らしさを同居させた容姿もそれを助長する。

そのためだろうか、制服から覗く白い肌も、グラスを握るたおやかな指も、ガラスの向こうに見える唇も、上下する喉元の僅かな隆起も、全てが艶めかしく映る。


だがーーー

「まぁ、僕もおんなじような感じなので何も言えないんですけどね…」


ーーー僕。

基本的に男性が用いる一人称で、時折女性が使用することがあるが、この場合においては全くそのままの意味。

そう、現実離れした美しさを持つこの少女は、少女ではなく、少年であり、つまるところは

『だが男だ』というわけである。


人によってはトラップだ!と憤慨し、また人によっては一向に構わん!と甘受する情報に、だが対面に座る金髪の少女は何も言わない。否、言えない。

何故ならば、端正な顔立ちをした彼女も、彼女ではなく、彼であり、今現在桜子は女学園の制服に身を包み、絶賛女装しているのだ。


目を見張るほどの美少年が二人、互いに女性の衣装に身を包み、テーブルを挟んで向き合って座り、柔らかな笑みを浮かべて談笑する。

彼らがいるのは、カフェ『フェミメイル』。

煌々とした看板を突き出し、いやでも目に留まる様相をしたカフェや建物の多い都心で、一切看板などの喧伝をせず、ひっそりとした場所に店を構えるこのカフェ『フェミメイル』。そのアンティーク調を取り入れた落ち着いた雰囲気の内装か、まさに都会の隠れ家といった印象を桜子に与えていた。

そして、隠れ家という言葉に恥じず、夕方という学校帰りの学生で溢れかえる時間帯でも、カフェの中にいるのは桜子と千尋のみで、店内に流れるBGMがはっきりと聞こえるほどに静かだ。


そんなカフェに、このあたりに来て日も浅い桜子がたどり着いたのは、ひとえに千尋のおかげだ。


千尋が聞きたがっていた話ーー主に桜子の編入に至るまでの話ーーをひとしきり語り終えた桜子は辺りを見回して嘆息する。

「それにしても…綺麗なカフェだなぁ…」

「ですよね!僕のお気に入りのお店なんですよ!」

「へぇ…そんなお店をわざわざ紹介してくれてありがとうな!」

屈託のない笑顔で感謝を告げる桜子に、千尋は頬を赤く染めて照れ臭そうに目を逸らしつつ「いえいえ…」と応える。


あの編入初日の騒動から二日、授業を終えいつも通り帰路に着こうとした桜子を迎えたのは、教室の前で待ち伏せしていた千尋の姿だった。

『あの…カフェでお話ししませんか!?』

少し上擦った声で開口一番にそう告げる彼に桜子は面を食らったが、桜子としても聞きたい話がいくつかあったので、そのまま共に向かうこととなった。

桜子も女装したままなのはそのためだ。


「そういえば」と桜子は口を開く。

「あれから何もされてないか?」

「あ、はい。あれ以降何もされてないですし、特に何かされそうな感じもありません」

「そうか…それはよかった」

桜子は薄い、というか実際はない旨を撫で下ろして笑う。


「……っていうかやっぱりこの生活って綱渡りだよなぁ」


僅かに音をたてながら頭上で回るシーリングファンを眺めつつぼやく桜子に、千尋は頬を硬くする。

千尋は、男子であるという弱みを握られ、これまで搾取を受けて来た。

中等部から通っているという千尋でさえ隠し通すことが出来なかったのだ。初日で多くのボロを出した桜子においては、バレるのも時間の問題かもしれない。


「悪いことをしているのは僕たちなので何も言えませんしね……女装して学校に通ってるんですし…」

「そうなんだよな……そもそも女学園に男がいるのがおかしいわけで……ん?待てよ」

口にしていた事実に、違和感を感じて桜子は眉を寄せる。

そう、本来なら女学園に男子が入学するのは不可能だ。それこそ姉がやったように校長を脅すくらいしなければ。なら目の前にいる千尋はーーー


「え?君どうやって入学でき」

「ーーー失礼します」

「ーーー!」


突如として降り注いだ第三者の声に、桜子は肩を跳ねさせ硬直する。

引き攣った笑顔で冷や汗を流す桜子を気にも止めず、その第三者、エプロンに身を包んだ店員は淡々と注文していた食べ物をテーブルに並べていく。


「こちらミニケーキ盛り合わせと、ストロベリーパフェは…………」

「あ、おrーーー私です……………」

咄嗟に女装スイッチを入れ、一人称を取り繕う。

店員の女性はキリリとした目で少し桜子を見つめた後、「どうぞ」と丁寧に目の前へパフェを滑らせる。

クリームやフレーク、イチゴジャムなどが重なり、美しい層を形成して、その上に反り立つクリームの山にはイチゴジャムとイチゴそのものが散りばめられており、赤と白のコントラストを演出する。


なんとも食指をくすぐる見た目だが、桜子の脳内はそれどころではなかった。


(まずい…今結構やばい話をしていた気がするんだが聞かれてたか?とりあえず男だと思われる言動は避けなければ……!!!)


「ではパンケーキは………」

「あ、僕です」

(卯咲さんッッッ!??)


一人称を隠さず笑顔でパンケーキを受け取る千尋に、だが店員は何を言うわけでもなく、「ごゆっくりどうぞ」と一礼してお盆を片手に去っていく。


痛いほど跳ねる心臓を胸の上から手で押さえて店員の後ろ姿を見つめる桜子に「ふくくっ」と押し殺したような笑い声が響く。


「大丈夫ですよ狩森先輩、あの人は僕が男だって知ってるので」

「え?…………え!?そうなの!?」

「はい、というか、さっき先輩が言いかけていた質問の答えもあの人です」

「は…どういう……?」


胸を撫でつつ問う桜子に、千尋は笑いながら、

「あの人、このカフェの店長さんなんですけど、小さい頃から知り合ってて、色々とお世話になってるんです」

「へぇ……でもその人がどう入学に関係するんだ?」

「あぁ、あの人凄腕のハッカーなんです。それで色々してもらって入学をとりつけてもらえました」

「はぁ?」

あまりにも素っ頓狂な話を事もなげに語る千尋に、桜子は間抜けな声を上げる。


(ハッキングして入学…?そんなことできるのか…?っていうかそういうハッカーみたいなやばいやつがそんな身近にいるわけーーーいたわ。というかもっとやばいやつが身内にいたわ………)


『竜〜?誕生日プレゼント国でいい?』

『はぁ?何いってんの?』

『いや、⚪︎⚪︎⚪︎国の大統領脅して実権握ったから』

『今すぐ返せ?』


「まぁ、うん、ハッカーね。そんな事もあるよね」

姉の所業のフラッシュバックに頭を抱えつつそう呟く桜子に、千尋は苦笑する。


「とにかく、食べましょうか」

「そ、そうだな」

千尋からスプーンを受け取り、桜子はクリームの山を少しずつ崩して口に運んでいく。

舌の上で広がる甘みは、緩慢な動きで口内を包み込み、悩みや疑念も一緒くたに蕩していく。

思わず頬を緩めてしまう桜子に、千尋もまた嬉しそうに微笑んだ。

頬を朱に染めながら笑みと共に眺める彼の表情は、どんな甘味よりも甘くとろけており、桜子を見つめる視線には少なからぬ熱が込められていた。

その熱に、向けている本人も、向けられている桜子も気づいてはいないが。


「………………」


遠くから二人を見据える、店長ただ一人を除いて。


独奏的なラウム8です


千尋きゅんとかの可愛さとエロさをもっと伝えられるように書きたいのですが、それをしてしまうと毎epが5000字を超えてしまうので断腸の思いで書いております。

第二話はそんなに長くならない予定ですので。


合言葉


『次回!作中屈指のやばいやつが登場するぞ!デュ○ルスタンバイ!』


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