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第一話 ep.9 女の子同士

何もおかしくないな、ヨシ!

1-9


_________________________


「はぁ………何であんな感じになっちゃったんだろう…」

脱いでカゴに入れたジャージが、べちゃ、と音を立て含んでいた水を僅かに吐き出す。

「わ…下着までべちゃべちゃ……脱ぐしかないなぁ……」

スパッツと共に降ろされたパンツが、細いながらも健康的な脚を這い、太陽にまだ焼かれていない白い肌を、水がテカテカと輝かせる。

「シャワー浴びて気持ちをリセットしよ…」

個室に入り、蛇口捻ると、ほんの少しの間を開けてシャワーヘッドから多量の熱湯が吐き出される。

普段なら少し熱く感じるそれも、冷えていた体にはちょうどいい。

しばらく頭から浴びて体を温めた後、蛇口をまた捻りお湯を止める。

扉を開けると、中に滞留していた熱気が放出され、外との温度差から急激に冷やされて湯気の色を一層濃くする。

「うぅ…早く体拭かないと」

湯気に包まれつつ、タオルの置いてあるカゴに手を伸ばしーーーー


「ーーーえ?」


_________________________



「タオル持って来たよ!早くこれで……って、あれ?」

「ン〜…?何で卯咲がいねェんだァ〜…?」


雑巾で床の水を拭いていた桜子は、タオルを手に帰ってきた部長を見やり、

「あぁ、卯咲さんなら今さっき着替えに行きましたけど」

「え」

「あァ〜…」


しまった、というような表情をする二人に桜子は首を傾げる。

「どうかされたんですか?」

「いやァ〜、どうという訳じゃないんやがァ〜…更衣室のタオル今切らしてんのよ…」

「だからわざわざ取りに行ったんだし…」

「じゃあ、渡しに行かないとですね」

「「あ〜〜〜………」」


意味深な声を上げる二人に桜子は再び首を傾げる。

「あのね、あの子肌を他人に見せるのを異様に嫌うのよ…」

「着替えるのもいつも一人でだしなァ〜……一度御猪口が覗こうとしたんやが…マジギレされてたな」

「へ、へぇ〜…」

千尋のマジギレという、全く想像できない情景に目を細めていると、部長の隣にいた女子が「あ、そうだ!」と声を上げる。

「このタオル狩森さんが持っていってあげてくれない?」

「え!?」

「あァ、そうやな、持っていってもらおかァ〜」

「ちょ、ちょっと待ってください!」


桜子は長い金髪を豪快にたなびかせながら首を横に振り、その様子をきょとんとした顔で二人が見つめる。

女子更衣室にタオルがなく、タオルを届けるために女子が入る。

下心などの介入がない限り、別にそれは異常なことではないのだろう。

しかし、桜子は、男だ。


(男が女子更衣室に入るとか絶対ダメだろ…………!!)


しかも中では美少女が着替えていて、いや、それは大事ではない。そも入ること自体が大事なのだ。大事件なのだ。


「そ、それにほら!私と卯咲さんは今日知り合ったばかりですし!」

「え?そうなの?随分と仲が良さそうに見えたんだけど…」

「なので先輩方が行った方がいいかと…!」

目に見えて強く拒絶する桜子は、だが、

「それこそ無理だなァ~」

「―――」

眠そうに間延びした声、しかし打って変わって真剣な表情で告げる部長に、桜子はのどを硬くしてしまう。


「あのね、今日知り合った狩森さんは知らないと思うけど、普段はあの子すごく無愛想なの」

「………無愛想」

「そうだなァ、部活に来ても必要以上には喋らんし、人と関わろうとしない、それこそ今日初めてあんな感情豊かなあいつを見たなァ…」


無愛想、今朝も聞いたそれに、しかし桜子は内心疑問を呈してしまう。

初対面の時は確かにそんなきらいがあった。しかし―――


『あの……絵って興味ありませんか?』

『―――ち、違いますからね!!??』

『なんか、自分の絵が好きになれました!』


―――本当に無愛想な人があんな顔をするだろうか。


なにやら考え込んでいる桜子に、しかし部長がそんなことおかまいなしに「やからァ…」と僅かに嗄れた低い声でゆっくりと詰め寄っていく。


「仲が良い君にしか頼めんのよォ、それに何かやましいことがあったりはせんやろォ?ほら―――」


「―――女の子同士なんやしなァ…?」


ぽす…とタオルを桜子の体に押し付ける。何やら含みのある笑顔の部長に、桜子は心臓をつかまれたような感覚に表情を強張らせたあと、

「…わかりました」

とタオルを受け取った。


独奏的なラウム8です


残すところあと一話になりました。あともう少し、付き合ってくれると幸いです。

部長の強キャラ感がすごい。


合言葉


『R18になってないってまじですか』

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