Hになるほど硬くなる!
鉛筆の話ですよ?
~プロローグ~
「はあぁぁぁぁあ…」
「どうされたんですか?校長」
「いやぁ…これ…なんだけど」
「まさか、またですか…?これでいったい何人目ですか」
「いやぁ…」
「どうなっても私は知りませんからね」
「いやぁ…あの方の推薦だし…たぶん…大丈…夫」
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都立紅華女学園
編入許可書
狩森 桜子 (16)
性別 ■性
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都立紅華女学園
そこは、都内随一の設備を誇り、広い敷地を贅沢に使用した校舎は、中等部、高等部、果てには学生寮まで内包している、全国的に見ても有数の学校である。
女学園、という名の通り本学校は男子禁制の体制をとっており、生徒はもちろんのこと教員も全員女性という徹底ぶりで、生活する上での安全性、利便性から一定の評価がある学園であった。
そんな学校の、高等部、2-4の教室はいつになくお祭りムードであった。
ざわざわと会話飛び交う教室の彼女らはどこか浮足立っており、しきりに扉のほうを気にしているようであった。
ガラララ、と扉が開き全員がそちらを注視する、入ってきたのはパリッとしたスーツに身を包んだ先生だ。
「えー、その様子だとみんなもう知ってるみたいね。そう、今日からこの教室に新しいお友達がやってきます」
ごくり…とその場にいる全員が唾をのむ。
「そうね…入ってきてもいいわよ」
カツン…と新しい靴の軽やかな音が教室に響き渡る。
カツン、カツン、カツンと静かな教室に規則的なリズムを奏でながら入ってきたその子に、みんなはいい意味で言葉を失った。
陽の光をそのまま編み込んだかのように流麗な金髪、高等部の白と紺を基調とした制服に包まれたその体は、布の上からでもわかるほどにスタイルがよく、その整った顔と相まってまさしく美少女というものであった。
彼女は黒板の前に立つとチョークを手に文字を書いていく。
カツ…と書き終えるとクラスの皆に向き直り、親しみのある笑顔で口を開いた。
「この春から紅華学園にお世話になる狩森桜子です。慣れない環境でみんなには迷惑をかけるかもしれませんが、少しずつでも仲良くなれたらいいなと思ってます。どうかこれからよろしくお願いします!」
黒板に書かれた自身の名前をバックに礼儀正しくお辞儀をする桜子に、自然と拍手が起こる。
「えーと、それじゃみんな桜子さんと仲良くしてあげてね。席は…沢野の裏、あそこね」
桜子は先生にぺこりと会釈して、自身の席へ向かう。
「みんな授業には遅れないように!なにかあったら先生を呼んでね」
そう言い残し先生が教室を去った瞬間、教室内の空気がワッと盛り上がった。
「ねぇねぇ!桜子ちゃんはどこから来たの?!」
「え、えっと」
「っていうかキレイすぎ!連絡先交換しよ!」
「あ、うん」
「金髪すごいね、これ地毛?」
「そ、それは」
いつの間にか席を大勢の女子が取り囲んでおり、質問の嵐に桜子は内心困ってしまう。
その時、「ストーーーップ!」と波を断ち切るように一人の女子が声を上げた。
「桜子ちゃんが困ってるでしょ!質問は休み休みしないと!」
「あっ、そうだよね」
「ごめんねー…」
「ううん大丈夫。ありがとう。えっと…」
「あぁ、私は沢野春香。よろしくね!」
名の通り春のように温かな笑みで手を差し出すポニーテールの彼女に、桜子も笑顔で「よろしく!」と応える。
「…あれ?」
「どうしたの?沢野さん」
「もしかして桜子ちゃんスポーツやってた?」
「えっ…」
「いや、桜子ちゃんの手って女の子にしては―――」
「―――ちょっとお手洗い行ってくるね!」
ガタン!と突然立ち上がり、沢野の手を振りほどいた桜子は、「え?」と目を丸くする面々の間を抜けてそそくさと教室を立ち去っていく。
彼女の表情は焦燥にまみれており、それを間近でみていた沢野は取り残された手をにぎにぎと揉んで「申し訳ないことしちゃったなぁ……」と呟く。
(気にしてたのかな………“手がごつごつしてる”こと…………)
「はっ、はっ……」
教室前廊下を走り抜け、トイレの前まで来た桜子は、そのまま女子トイレに―――ではなく隣接する多目的トイレに駆け込む。
後ろ手に鍵を閉め、ガチャリ、という音を認識した瞬間。
「はぁぁぁぁぁぁぁ…………」
とその場にしゃがみこんだ。
あわや酸欠になりえん程まで息を吐く姿は、そのまま彼女の絶望の深さを表しており、その青い顔からも彼女がただならぬ状況にあるのはだれの目から見ても明らかであった。
いや、一つだけ。ただ一つだけ。彼女の姿は偽りを孕んでいた。
その嘘は、人によっては些細なことかもしれない。人によっては認識の根幹を揺るがすことかもしれない。
だが、この場所において、この学校において、それは何よりも大きな虚飾であった。
「なんで…………なんでこんなことになってんだろう―――俺…………」
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狩森桜子
本名
狩森竜児
性別
―――――――男性
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そう、彼女は、彼“女”ではなく。
ただの“彼“であると。
煌びやかな金髪。端正な顔立ち。スタイルの良い体。それらを持ち合わせたこの美少女には、しっかりと、“アレ”がついていると。
一部の人には垂涎ものの情報に、だが彼は頭を抱える。
「これから俺、どうしたらいいん…………?」
ここは都立紅華女学園。
在校生の99%が女性のこの学園で、残りの1%となってしまった狩森竜児、もとい2―4所属、狩森桜子。
彼(彼女)の苦難は始まったばかりである。
こんにちは、一部の人こと独奏的なラウム8です。
付いてるなんて最高じゃないか。
おとこの娘で検索をかけてこんなお話を開く酔狂な人たち、もとい尊敬すべき我が同胞たちと語り合いたいものですが、それはまたの機会に。メッセージを送ってくれたら語ります。
では本題。
私は物語を読む前にあらすじを読み、物語の筋をイメージしてから読みます。しかし、私の稚拙な脳みそでは精度が低いもので。おとこの娘のえっちなお話だな、と読み進んでたらいきなりどぎつい展開にぶつかり、思わずウインドミル投法でスマホを投げかけたことがあります。
そんな哀れな人たち、もとい解釈違い勢を生まないために(生むってなんかえっちだな)、今からこの物語の雰囲気を感じ取ることのできるエピソードまでを連続で投稿します。
具体的には第1話のエピソード10までを立て続けに出します。
とくにエピソード10からこの物語が好きになるかが決まるので追ってみたいなと思う方はとりあえず10まで読んでみてください。
そして10まで読み切ることができたら、おめでとう、君も仲間だ。
前書き後書きもろもろ書きながら投稿するので、投稿の時間に差ができますが悪しからず。
合言葉
『おとこの娘はえっち』