表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/52

最終話 幸せとは

 デリアの町でも町唯一の教会にて結婚式を挙げた後、私達は結婚式の服装のまま誰もいない砂浜に座り静かに海を見つめている。


「シュネル」

「ギルテット様……」

「幸せとはなんでしょうね」

「……」


 幸せとは何だろうか。確かに私の妹ジュリエッタは父親から溺愛されなんでも与えられて育った。反対に私とバティス兄様は縛り付けられてきて育った。贅沢なんて事も無く、機嫌を損ねたら折檻を受ける。本当的な対照的な育ち方をした。そしてバティス兄様は毒舌っぽいのは変わらないけど立派な子爵家当主になったのに対してジュリエッタは私を殺そうとしてモンクスフードを盗み刑務所に行った。

 そういえばジュリエッタは動機をこのように語っていた。


「だってお姉様がいてそのままギルテット様と婚約したら私が幸せにならないじゃない。本当はバティス兄様も殺したかった。私はあの別荘にはいたけどいずれ私の居場所も全部無くなってしまうかもしれない。あなたもそう思わない?」


 幸せとは何だろうか。自分の思い通りに事が進む事なのだろうか? 自分の欲しいものが全て手に入る事だろうか?


「わかりません……私には」

「俺は……俺個人としては自分の居場所があるって事なのかもって思うんです」

「自分の居場所……」

「もうひとつは……安心できるもの、でしょうか」


 グレゴリアス家にもアイリクス家にも自分の居場所は無いも同然だった。おまけにグレゴリアス家では離れにいた時期もあった。

 そして、安心……私が明確に安心を得られたのはこの町に来てからな気がする。


(ああ、だから……)


 ……ソアリス様は私に安心を求めていたのかもしれないしジュリエッタは居場所を取られたくない。父親から愛され欲しいものは大方手に入っても安心は出来てなかった。だからより欲するようになっていった……か。

 そこは本人じゃないからわからないけど……。


「確かに、そうでしょうね」

「シュネル……」

「ギルテット様。私はこの町に来て安心も居場所もようやく手に入れられました。あなたがたのおかげです」


 私はそう言ってギルテット様の両手をそっと取り、握る。


「シュネル」


 ギルテット様が穏やかに微笑みながら私の名前を呼んだので私も微笑み返すと、彼の唇がそっと私の唇へと重なった。

 柔らかくて温かい彼の温度が私の身体へと伝わり嬉しさが増しつつも心がすっとまるで眠りに入るかのように落ち着いていく。

 涼やかな海風が私の身体を撫でるように吹き、穏やかな波が静かに寄せては返していた。


ーーーーーーー


 シュネル・ルナリア公爵令嬢はギルテット第5王子と結婚しデリアの町に生涯暮らし続けた。医学薬学だけでなくデリアの町の発展にも尽力した彼らの間には3人の子供が生まれた。そのうち長男であるマインロットもまた医者としての道を歩んだのだった。

 シュネルは90歳、ギルテット王子は92歳でこの世を去った。家族に見守られながらの穏やかな最期だった。

 バティス・グレゴリアスはギルテット王子夫妻と共にデリアの町の発展に尽力し領地経営も素晴らしいものがあったため子爵から伯爵に爵位があがった。彼は隣国の大商人の娘を妻とし、ギルテット夫妻と同じく3人の子供に恵まれたが妻は第3子を産んでまもなく亡くなった。それからは後妻はもたず1人で子供達を立派に育て上げ76歳の時に亡くなった。子供のうち長女のバルジナは侯爵家へと嫁いでいる。

 ジュリエッタ・グレゴリアスは刑務所を出た後は貴族ではなく平民としての暮らしを余儀なくさせられた。娼婦として生計を立てていた彼女だが○○年○月、娼館内で見られていたのを最後に消息が途絶えている。事件性はないものとされてはいるが彼女がどうなったのかはわからない。なおサルマティア国には彼女と似た人物がいたという噂ももことしやかに流れているが真相は不明である。

 シュタイナーはルナリア公爵家とデリアの町を行き来しつつこちらも大往生を遂げた。またマリアーナ・ルナリア公爵令嬢は王妃として皆の注目の的となった。5人の子供を出産した王妃マリアーナだが、彼女の出産時にはギルテット夫妻も駆けつけて医療行為に携わったという。

 

これにて完結となります。ここまでお読みくださりありがとうございました!

評価ブクマ励みになってます!

今後とも自作をよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ