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第37話 突然の知らせ

 それから時は流れてソアリス様が亡くなってはや2カ月が過ぎようとしていた。そんな中この日。デリアの町はちょっとした騒ぎになっていた。


「クジラが港に迷い込んできている、ですって?」

「そうなんだよ王子! いやあ、あんなにデカいの来るなんて久々だよ!」


 診察室の中で喘息を患う娘と共に診察に訪れた漁師の父親がそうテンション高めに語っている。娘もクジラには興味があるみたいで行ってみたい! と父親へねだっている。


「診察終わってお薬貰ってからな」

「うん! 楽しみ! げほげほっ!」

「あまり無理しない方がいいですよ?」

「王子様……でもあたしクジラ見たい! お願い!」

「……家のすぐ近くは港ですよね? お父さん、家からでも見れそうですか?」

「ああ、十分見れると思うぜ。じゃあそうします」


 結局娘は家からクジラを見る事になった。まあ、人が大勢駆けつけている中よりかは家からの方が良いだろう。

 診察を終えた2人はクジラが楽しみだと口にしながら処方箋を持って薬屋へと軽い足取りで向かっていった。


「クジラ、ですかあ……」

「シェリーさん行ってみます? 夕方もいたら、ですけど」

「そうですね。せっかくですし」


 このアルテマ王国は島国なので漁師や客船が鯨類と出くわす事はよくある事だ。それにデリアの町は海沿いなので鯨類がよく出没するし鯨油や鯨肉などの資源を求めて捕鯨も行われている。なので鯨類の出没自体は珍しい事ではないのだが大きなものが港に迷入してきたとなると別だ。


(ブルーホエール、とか?)


 でもブルーホエールだったら、港に入り切れるのかな? となると別の種類だろうか? いや、実際に見てみないと分からないか。

 という事で診察が終わった夕方17時過ぎ。町の人からまだ港にクジラがいると聞いたのでギルテット様と向かう事になった。シュタイナーとバティス兄様は先に現場へと向かっていったらしい。

 港に到着するとまだまだ人だかりができている。その奥にクジラが潮を吹いていた。なるほど。これはかなりの大きさだ。漁師さんにクジラの種類を聞くとブルーホエールだと断言した。


「へえ……そうなんですか」

「そうだ。この港に来るなんて珍しいよ。でも……」

「でも?」

「教会の神父さんが来てさっき占いをしていったんだ。そしたら何か動きがある証かもしれないって」


 町に唯一ある小さな教会にある神父が現場を訪れ、ブルーホエールを見た。そして木の札を使った占いを始めたそうだ。それで結果は今後何か動きがある。という事だった。


「それが誰の事なのか、不吉なのか幸せなのかとかまではよくわからないみたいでさ。でも何か大きな動きがあるのは確実なんだってさ」

「そうなんですか……」


 ……もし、私達にこれから起こる事だったらどうしよう。いや、幸せな事なら嬉しいのだけど。不幸な事だったらそれは嫌だ。


(やだなあ……不幸な事だったら……)


 私は港内でまだ寝るようにたたずむブルーホエールを遠目に眺めていたのだった。 

 ブルーホエールは次の日の朝、ゆっくりとではあるが港から出ていき大海原へと再び力強く泳いでいった。クジラの周囲には海鳥や小さなイルカ類もいて、彼らを引き連れていくようにして泳いでいったのだった。

 診療所はそのブルーホエールの話でもちきりだった。大きかったとか、デカいとか、そんな具合だ。


「こんにちは。郵便です」


 そんな中バティス兄様と私宛の真っ黒な手紙が届いた。宛先は父親のいるサナトリウムからになっている。

 ……真っ黒な手紙を見て、私は全てを察した。


(死んだのか)


 私は手紙を受け取り、外で町の人と談笑しているバティス兄様を呼んだ。真っ黒な手紙を見たバティス様はすぐに楽しそうな顔から神妙な面持ちへと変わる。


「まさか、あのクソ親父……」

「開けてみましょう」


 診察室の中で手紙をギルテット様やシュタイナーも同席した状態で封を開ける。


「グレゴリアス子爵はさる◯月◯日、逝去いたしました。ご遺体の引き取りをよろしくお願いします」


 真っ黒な手紙にはこれだけが小さい文字で書かれていた。


「まじかよ。あのクソ親父死んだのかよ」


 バティス兄様の吐き捨てるような、それとは少し違うような声がしんと診察室の中で冷たく響いた。




あとがき

ブルーホエールはシロナガスクジラの事です。

アルテマ王国の北部には定住するタイプ(レジデント)のシャチがいたり、シロナガス含め大型のクジラが定住回遊したりしています。なので捕鯨も盛んに行われています。

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