1.昔話
「昔々あるところにある国の王がいました。王は頭が良く、誰からも好かれるそれはそれは立派な王がいました。王は人との戦争に悩まされていました。王は人との戦争を止めるべく、女神のいる場所に旅立ちました。そのたびはとても過酷なものでした。毒の谷を越え、竜の住処を超え、女神の試練を超え、王は女神に会い、人との戦争を止めてくださいとお願いをしました。すると、女神はここまで来た王に敬意を払い、一体の女神の使者を遣わせることになりました。その使者は人々から守りの使者と呼ばれ、人と魔族との境目に結解を作り、人が二度と入らないようにしました。それから、守りの使者によって2000年の間、平和に人の世に平和が訪れ、それを成し遂げた王は未来永劫語り継がれるような偉業とともに人々から愛される存在になりました。おしまい。どうだった?」
「うん?魔族の方に語り継がれている方の昔話だね」
「不思議に思わないの?」
「何に対して?」
「魔族と人との昔話がほとんど一緒だってこと」
「う~ん。それに関しては別に不思議には思わないかな」
確かに魔族と人のこの昔話はほとんど一緒というか一緒。王が魔族の王か、人の王かの違いだけ。これは本当に色々あってこの昔話もオリジナルのものではない。大事なところが変わっている。
「何で?」
「何でと言われてもその時代にいたんだよ。何でこうなったかも知っているし、元がどんな内容だったかも知っているよ」
「そういえばそうだったね。どんな話だったの?」
「え~」
どうしようか。話し手もいいが長くなるから面倒臭い。でも……。そうだな。イネスには花の件もあるし、いつもイネスが話しているから今日はこちらが話そうかな。
「そうだな。いいよ。話そう。真実を。偉大な二人の王の物語とその物語を曲げた者たちの話を」
二人はいつもの体勢になった。今日は自分が話すのか。なんだか不思議な気分だな。自分の事を含めて話すのは少し気恥ずかしいが。始めよう。
「昔々、あるところに人の王と魔族の王がいました。その二人の王は、人と魔族の戦争に悩んでいました。人の王は何も罪もない魔族たちに矛先を向けなければならない理由があったのです」
「理由?」
「それは、人との戦争を起こさせないためです。人同士での争いをするのではなく人の争う意思を魔族に向けたのです。これは魔族と人が出会った時の人の王が仕組んだのです。」
「どうしてそんな酷いことを考えたの」
「まあ、聞いていて。魔族の王にも同じく理由があったのです。それは、人の王と同じく魔族同士の争いをなくすためです。奇しくも、人の王も魔族の王も同じような理由で戦争を仕掛けたのです。これは、人の王は人、魔族の王は魔族を愛してしまったが故の出来事だったのです」
「でも、それでも争うのは良くないよ。例え魔族同士、人同士じゃなくても」
人と魔族の戦争が始まってからは確かに人同士、魔族同士の戦争は減ったし、今は魔族との戦争がないから人同士、魔族同士の争いが増えている。争いが良くないのが本当のことだが相手を犠牲にしてまでも人を魔族を救いたかったのかもしれない。それは愚かで一途な美醜な思いなんだろうか。
「続きを話すよ。二人の王は密会を繰り返しました。それは、休戦や戦争を止めるための会談を何回も何回も行いました。けど、会談で何回も平和交渉をしようとしても邪魔や反乱が起こり、悉く失敗に終わった。その際に両方とも内部も外部も傷は深く残った。二人の王は決断をした。二人の王は秘密の計画を立て始めた」
「秘密の計画?」
「秘密の計画とは女神に争いを止めてもらうように頼みに行こうとしたのです。女神に頼むには試練を乗り越えなければなりません。試練を乗り越えるために二人の王は協力をして、女神に会うためのパーティーを結成しました。それは二人の王を含む10人ほどのパーティーでした。試練までの道中は異種族パーティーであったため揉めたり、言い争いが絶えなかった。しかし、全てを終え分かれる時は全ての者が涙を流し信頼を置いていました」
異種族パーティーだったからか相手の習慣が分からなくて揉めたりが多かったのと後は恋愛絡みでの揉め事が多かったらしい。自分もいなかった時の事だからこの時の王に聞いた話だからな~。
「試練は全部で4つ、いや5つあった。一つ目の試練は『自覚の試練』。二つ目は『他覚の試練』。三つ目は『全能の試練』。四つ目は『天秤の試練』。この四つの試練を超えると最後の試練として女神様から『願いの試練』を与えられる。それらを全て超え、女神に会うことが出来た。そうして、ようやく女神様に戦争を終わらしてくれるように願い祈りました」
「これで結解ができたの?」
「まあ。待って。しかし、女神様は現世に手を貸すことができない。だから、二人の王の願いは叶っていない」
「うん?でも、現にリベルタスがいるじゃない」
「それは、私を作ったのはその二人の王だから」
「えっ。でも、リベルタスの能力は神でもなければ作れないじゃない」
そう、私の能力は魔族や人、この世の生きている生物ですら作ることは不可能に近い。
「女神の試練は現人神になるための試練だから私を作ることが出来た。女神は現世に手を出すことは出来ないけど、現世の者が幸せになってほしいと願っている。だから、現世のことは現世でなんとかできるような力を身に着かせるために試練を用意したと考えられている」
自分の話を聴いてイネスは少しぽかんとしているようす。仕方がない。今残っているものと違う部分を一気に言っているから仕方がない。
「二人の王によって自分、リベルタスの名と共に生まれ、ある願いを託された」
「願い?」
「願いは『全ての魔族と人間が歩み寄れますように』と。この願いは不可能に近いと同時に自分に祝福と呪いを同時に掛けてきた」
「祝福と呪い?」
「祝福はこの願いを叶えるために得た無尽蔵の魔力。呪いはその魔力を絶対的に得ないといけないというこの場所から動けなくなった原因」
「動けない原因?」
自分はこの砦から動けない原因がある。
「それは、ここに魔力の元が集中しているから。ここを動くと結解を張れない。だから、この願いを叶えるために呪いとなった言葉は自分をここに縛り続けている」
「どうすれば、リベルタスを自由にできる?」
そこを聞くのか?
「自分をここから離したかったら、願いを叶える以外はないかな?それか、魔力の元がなくなるか?」
「魔力の元をなくせばいけるの?」
「無理。無理っていうか魔力の元はこの星を支える源、全ての生物の元であり、なくなれば死ぬ。それに、一時的に魔力の元を断とうとしたら魔力の元があふれて大量の魔力を浴びて死ぬ」
全ての生き物は魔力なしでは生きていけない。ただ、魔力をありすぎても過剰で体がもたない。魔力に耐性がある魔族でさえ例外ではない。ここの魔力の元はそれほどまでに大きい。イメージ的には水を塞き止めて、一気に放つイメージかな。
「じゃあ。どうすればいいの。全ての魔族と人間が歩み寄るなんて無理。どうすればいいの」
イネスはどうすればいいのか悩んでいる。少し動揺しているし、今日はもう遅いから今日はここまでにしようか。
「イネス、今日はここまでにしようか。明日、また来て。今日は落ち着くためにもう帰った方がいいと思うよ」
ここで一緒にいようとかを声を掛けると良いのだろうけど。それは、イネスのためにならないし。仕方がない。うん。そう。リベルタスは自分に言い聞かせるようにその言葉をかけた理由を反芻した。イネスは少し落ち着くと帰っていった。その帰る背中は少し絶望をしているような感じもした。




