1.砦の上の花畑 ①
また日が明け、人々は騒ぎ出し、魔族は砦を攻撃し始めた。日暮れごろ。静かになり、また私の元にお客が来た。
「こんばんは」
「こんばんは」
イネスはなぜか嬉しそうだ。今日は何の話をしてくれるのだろうか。って何を言っているんだ。まぁ。暇つぶしにはなるか。
「ふふん。今日はとっておきを用意してきたんだよ」
イネスはどや顔をしながら話している。興味はあるが正直的外れなことが多い。まぁ聞いてみるか。
「今日はどんなお話をしてくれんだい」
「ふふん。今日はお花についてよ。外のことを知ればきっと離れたくなるはず」
自慢げに話してきたが、正直的外れだ。結解を解きたいならそもそもこういうのは意味がない。
「花。花なら見たことも嗅いだこともあるが。珍しくもなんともないぞ。偶に花を添えられることもあるし」
全然分かっていないなみたいな顔をしながら人差し指を揺らしている。正直、ちょっとその顔はムカつく。
「今日、話すお花は今度咲く。79年に一度咲くすごく珍しいお花。涙花草」
「そう」
私の反応が薄いことにすごく不満そうだ。正直な話。私にとっては珍しくもない。寿命が100年そこらの種族だと一生に一度しか見られないのかもしれないが私は寿命があるかもわからないからそこまで珍しいとも感じない。
「まぁまあ。大丈夫、大丈夫。話を聞いたらきっと興味が出るはず」
「じゃあ。涙花草について聞かせて」
リベルタスとイネスはいつもの話をする時の結解越しに背中合わせの体勢になった。イネスが息を整えると話をする食卓を囲む家族との会話のような雰囲気に変わった。
「まずは、涙花草について話すね。涙花草は魔族の住む地域にしか咲かない花で見た目はそこまで良くないの」
「良くないの?」
「うん。魔族の地域の花は人間の住む地域の花と違って多くの魔力を受けたり、戦いや紛争が激しかったからか生き残るために綺麗というより死なないために種族を存続させるために逞しい花が多いんだよ。涙花草は青くてドロッとしているの何だろう腐った食べ物がドロッとしたみたいな見た目」
「どうしてそれを見るんだい?」
まだまだ早いと言わんばかりにイネスが少し呼吸を置き、また話を始めた。
「それは涙花草が魔族の地域で唯一見ても安全な花だからだよ」
「安全?」
「そう安全なの。他の花はなんか攻撃してきたり綺麗だと近寄った生物を食べたりするから近くじゃ見れないんだよ」
やはり魔族の地域は生きるには厳しい土地なんだろう。そこまでして花を見たと思うのだろうか。特段特別に感じないからこう思うのだろうか。
「実は涙花草は自体は79年に咲く花じゃないだよ」
「???」
「涙花草は年中咲いているし、何だったら。はい」
イネスは結解をノックしてきた。振り向いてみるとそこには食べ物が腐ったときのようなドロッとしたような青い花を持っている。
「これが涙花草?」
「そう」
やっぱりこれを見たいと思わない。でも、79年と言うのは何のことだろうか。年中咲いていると言っていた。
「79年というのは何のこと?」
「79年に一度しか咲かないというのは嘘ではないよ。これは花弁が開いているけど実は蕾の状態なんだよね。涙花草は真ん中にある花弁の塊がすごく硬くて食べても消化できないし壊すこともできないの」
「へぇー」
リベルタスは生返事を返したつもりである。イネスはリベルタスの顔や声色から興味が出てきたことを嬉しそうだった。
「79年の間、この状態で、あと一週間で蕾の状態から開くの。だから。だから一緒に見に行こう」
「それは無理です」
リベルタスは真顔で返した。余程ショックだったのかイネスはすごく落ち込んでいた。イネスは顔を振るとまた話を始めた。
「でも、私も開くとこ見るのは初めてで。だから、来てほしいの。おばあちゃんが言っていたんだけど めちゃくちゃ綺麗だから。今までの見た中で一番綺麗だって言っていたから」
「それでも私は無理です。ここから離れられないので」
「じゃあ。一緒に見よう。確かリベルタスは千里眼を持っていたよね」
「持ってはいるけど」
「じゃあ。私がいる場所を覗いてそしたら一緒に見られるから。そしたら一緒に見たことになるでしょう。そうでしょう」
イネスは結解に張り付きながら必死に言っていた。イネスは何でこうまでして私に見せたがるのでしょうか。
「じゃあ。場所を教えてください。そうしたら、気が向いたら見ますから来週でなくともまた次の機会でも見ます」
「ダメ。絶対にダメ。私と一緒に見るの」
「なんでそこまで私と一緒にいることにこだわるのですか?」
「それは……。私は私がいる内にあなた。リベルタスとの思い出が欲しいから。私は貴方ほど長く生きられないし。だから、私が死んだ後も私を憶えていてほしいから……。」
イネスは少し本心を隠しながら真剣にこちらの目を見ながら言ってくれた。イネスはそんなことを思っていたのか。でも、私との思い出を作ろうが作らなかったとしてもどちらにしてもだ。それに千里眼で見るのは一緒に見たことになるのか?イネスはリベルタスが目を逸らしたら複雑そうな表情をして、直ぐにこの場から消えた。リベルタスは最後のあの複雑な表情が頭から離れず眠ることができなかった。
「また同じ顔……」
翌日。イネスは来なかった。リベルタスは何もないような顔をしているがその背中に哀愁漂う。結解に背中を預け昨日のことを思う。私に覚えられたところで命は消えれば一緒。全てが一緒。人間も魔族も草木も。一緒。悲しみはもう背負いたくない。これ以上は特別になる。それは嫌だ。特別が消えるのは嫌だな~。消えるなら結解の方がいいな~。青い空にいるお日様に見守られながら、リベルタスの昼が消えた。
「今日は何だか一日が遅い気がする」
久しぶりだ。こんな感覚になったのは種族ごとの時間の流れは全然違う。短命でも長命でも時間を生きている時間の流れはほとんど一緒なのだろうか?短命種は生まれてから死ぬまで一瞬なのだろうか?私たちと同じなのだろうか。一日が同じだから流れる感覚は違うのだろうか?どうしてこんな考えをしているのだろうか?時間が長く感じる時はいつもこうやってどうでもいいことを考える。どうしてなんだろうか?とリベルタスは時間を潰していた。夜になり、リベルタスは目を塞いだ。少し寂しいな……。




