4話 倉庫にて
カオルが暗闇にじっと視線を送ると、ゆっくりと歩いて来る男・・
「いやいや、私をお呼びですかな・・」
部長が姿を現した!
「チッ、あのヤローッ!また出しゃばって来やがった!」
カオルは、男の言葉など気に留めず部長に向かって
「あなたのチップを取り除く方法を知りたいんですけど」
カオルが尋ねると、部長は歩みを進めながら
「チップは、我々の処理班、専門の医療スタッフが取り除くから、どこぞの男に任すより、よっぽど安全ですよ・・」
と男に視線を送った・・
「へっ!こっちも安全だっつうの!」
男は、そう言ってマサルの肩をグッと押し付け、動けなくすると
「いいか!気合いだぞ!気合いさえ入れてれば大丈夫だからな!覚悟を決めろよ~!」
「あっ、いや、ちょっと・・」
涙目であたふたするマサル・・
「止めて下さい!」
カオルが大声を出し
「チップは、あちらの方に取ってもらいます!」
「じゃあ、お前!あいつの組織に入るって言うのかよ!」
「えぇ、入ります!」
キッパリと応えると、男は言葉を失い、部長が出て来る。
「まぁ、そう言う事なら我々は力を貸しますよ!」
「お願いします!」
頭を下げるカオルに部長が処理班を呼び寄せようとした時、男が出しゃばって来る。
「ちょっと待った!」
「何?あなた、まだ何かあるの?」
「当たり前だ!俺は納得してねぇ!」
カオルが面倒くさそうに男を見る・・
「お前は、俺を手伝った!なのに、あいつの組織にお前を入れたんじゃ、俺の気が収まらねぇ!」
「その事なら気にしないで、研究所にいた人達を助ける事が出来たし、あなたには感謝してるの」
「いいや!ダメだ!」
と部長を睨み付け
「お前の組織に俺を入れろ!」
と言った・・部長もまさかの展開に戸惑う・・
「き、君を我々の組織にか!」
「あぁ、そうだ!その女より俺の方が遥かに能力が高い!代わりに俺を入れろ!俺ほど高い能力を持つ奴は、そうはいないぜ!」
男の申し出に部長が暫く考え込む・・
『確かに、この男の能力は高い、俺よりあるだろう・・しかし、態度がなぁ・・それに得たいの知れない男だ・・いや、待てよ・・こんなチャンスは滅多にないか・・』
と考えた挙げ句
「わかった!君の申し出を受けよう!」
「よし!決まりだ!」
話がまとまり、部長が処理班を呼び寄せると、倉庫内にチップを取り除く機材が続々と持ち込まれ、順番にチップを取り除いて行く・・
マサルとタケルはチップを取ってもらうと
「じゃあな!元気でな!ヒャッホーッ!」
ご機嫌でテレポートして行った・・
ヒロシもチップを取り、楽になるとホッと一息付き
「ふぅーっ!助かった!」
ヒロシには、テレポートする力が残って無かったが、処理班が用意していたテレポーターで家に帰って行く。
「ありがとうございました!」
深々と頭を下げたカオル。最後にカオルのチップが取り除かれると、処理班は速やかに撤収して行く。
薄暗い倉庫には、カオルと部長、男の3人だけとなり閑散としていた・・
「お前、行かねぇのか?」
まだ残っているカオルに男が聞いた・・
「うん・・何処に行けばいのか考えてるの・・」
「家に帰ればいいじゃねぇか!」
「帰る家が無いの・・」
「家がないって、家族は?」
「2人とも事故で・・」
「そ、そうか・・じゃあ、新しい家族を作らねぇと・・」
「新しい家族?」
「そうだ!手を貸してみな!」
カオルが手を差し出すと、男はカオルの手を取り、スッと姿を消した・・
「ん?」
部長の目の前で2人の姿が消えて・・
『まさか・・逃げた?』
ハッ!と慌てて
「あのヤロ~っ!おい!今、テレポートした男の行き先を調べろ!」
襟のマイクに叫んだ!
『了解しました!』
逃げられた事に苛つく部長!
「どうだ!分かったか!」
『それが・・どうやら、あの男のSP反応を捉えるのは、無理なようです・・ 』
「何故だ!」
『分かりません・・ただ、先程そちらに向かわせた処理班に、あの男のSPレベルを測らせたんですが、0だったようで・・我々の機械では反応しない見たいです・・』
「だろ・・」
部長は、過去に一度だけ男を見掛けた事があり、報告書に書いた事を思い出した・・
「チッ!やっぱり、そうか・・」
カオルが男に連れられテレポートした先は、ボロくて半分崩れた木造の家の前だった・・
2人が姿を現すと、目の前に6歳位の男の子が立っていて、驚いた様子で2人を見ていたが、急に大声を出し!
「母ちゃ~ん!れい兄ぃが!超能力使ったぁーっ!」
すると、平垣の後ろから3人の子供が顔を出し
「わーい!怒られる~!怒られる~!」
わめき散らす!
「うるせぇーっ!くそガキッ!」
男は、カオルに付いて来る様に言い、玄関の戸を開け中に入ると、3歳位の女の子が指差し
「超能力・・超能力・・」
次々と子供が出て来る展開にカオルは
「あなたの兄妹?何人いるの?」
「7人だ!」
「な、7人・・」
そこに、フライパンを手にした中年のおばさんが走り込み
「零二~っ!超能力を使うなって言ったろがぁ~っ!」
怒鳴り込んで来た!
おばさんは、怒りを爆発させようとしたが、カオルと目が合いピタリと動きを止める。
「彼女かい?・・」
「ちげぇよ!コイツが家族も行く所もねぇって言うから、ここに連れて来たんだよ!」
「そ、そうかい・・あんた名前は?」
「花咲カオルです」
「へぇ~っいい名だね・・」
「ありがとうございます」
「ここは、見ての通りのボロ家だ!零二の奴が超能力で壊しちまってね・・」
そう言って零二を睨み付けると、そっぽを向く男・・
「ウチに来るなら、ただ飯は食えない、働いてもらうよ!それでもいいなら、歓迎するけど!」
おばさんの言葉で零二は
「ここにいる奴は、みんな血が繋がってねぇ!でも一緒に暮らす家族だ・・お前も行く所がねぇなら、ここで新しい家族を作ればいい!」
カオルは、いきなり自分を含め10人の家族になる事が想像も出来なかったが、自分を迎え入れてくれる事に悪い気はしなかった・・
「10人家族か・・」
しみじみと呟くカオル・・そこに3歳の女の子が近付いて来る・・
「お姉ちゃん・・お姉ちゃん・・」
カオルは、しゃがみ込んで女の子の頭を撫でながら顔を寄せて
「こんにちは!あなた、お名前は?」
女の子は自分の名前、花子と言おうとしたが
「は・はっ・・ハックチョン!」
カオルの目の前でクシャミをして、鼻水がベットリとカオルの顔にくっ付いた!
女の子は泣きそうな顔で
「しゅみましぇん・・」
それを見た零二は、笑いながら
「ハッ!こいつは、最高だぜ!」
(終わり)