1話 倉庫から
「ピーン!」
「SP反応確認!」
モニター画面で反応地点を確認した隊員が緊急呼び出しボタンに手を掛けた!
シャワーを浴びた男がバスローブ姿でソファに腰掛けると、丁度スマホが鳴る・・
「どうした?」
「部長!SP反応を確認しました。恐らく、研究所からのテレポートです」
「そうか、誰か向かわせろ!」
「それが、誰もいないんです・・鈴木さんは有給休暇で佐藤さんは非番でして・・」
「田中は?」
「田中さんは病欠です」
「どうせ仮病だ!田中を呼び出せ!」
「そっそれは、ちょっとまずいかと・・喉が痛いし、熱があるって言ってましたから・・」
「チッ!そうか分かった・・俺が行く!」
「えっ?部長がですか?」
「そうだ!」
「それはそれで・・本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫に決まってるだろ!これでも昔は現場漬けだったんだ!直ぐ行くから準備しといてくれ!」
「わ・分かりました・・」
部長は、黒のスーツにサングラスでエレベーターに乗り込み、B5のボタンを押した・・
薄暗い倉庫でヒソヒソと話し声が響く・・
「ヒロシ君、まだ来ないわね・・」
心配から不安になる女の名はカオル・・
「アイツの能力じゃ、1回のテレポートでここまで来れねぇ・・」
焦りから苛つくタケル・・
「タケル!もう少しだけ待ってやろうぜ!」
苛つくタケルを宥める様にマサルが話し掛けると、ヒロシがテレポートして来た!
「ひぇ~っ!やっと来れた・・でも、もうダメ・・体に力が入らねぇ・・」
両足を投げ出し、地面にヘタり込むのを見てカオルが
「ヒロシ君!ここまで来たんだから、もう少し頑張りしましょう!」
「オレは、もう無理だ・・力が入らねぇ・・お前達は先に行ってくれ!」
それを聞いたタケルは
「しょうがねぇ・・ここからは別行動だ!みんな元気でな!」
「待ってタケル君!もう少し一緒にいましょう!」
慌ててカオルがテレポートとしようするタケルを止めるとマサルも
「そうだぜタケル!ここは研究所の近くだし、ヒロシ1人を残して行けねぇだろ!」
「そうだな・・君達が遠くに行くのは、危険だ・・」
「!!!!」
突然の知らない声に4人が一斉に振り向くと、黒いスーツにサングラス姿の男が立っていた・・
「みんな動かないで!」
カオルは大声と同時に念動力を使って積んである材木を倒し、男の居た所に木材が乱雑に倒れ込むと、それを目にしたヒロシが
「カオル・・殺したんじゃねぇのか・・」
心配そうに尋ねたが、カオルは視線を上げて睨み付ける!その視線にヒロシも目を向けると、サングラス男が空中に浮かんでいた・・
「うわぁわわわ・・能力者だ!」
あたふたするヒロシ・・
「落ち着け!ヒロシ!」
タケルの大声に張り詰める空気・・緊迫する中でサングラス男は優しく口を開いた
「いやいや、手荒い歓迎だね・・私は君たちを捕まえに来たんじゃなくて、助けに来たつもり何だが・・」
と言ってカオルの目の前に降りて来ると、タケルが
「助けなんていらねぇ!家に帰るだけだからな!」
男はタケルに視線を向け、ニヤリと口元を緩ませると
「このまま家に帰ったら、君達は死ぬよ・・」
と言った・・目の前で不気味に微笑む男に不安になるカオル・・
「死ぬって、どう言う事?」
男はカオルに視線を戻すと、自分の頭をツンツンっと指差し
「君達の頭の中には、マイクロチップが埋め込まれていて、48時間以内に研究所に戻らないと爆発する仕掛けになってる・・」
「そ、そんな・・」
ガックリ肩を落とすカオル・・マサルは男に向かって・・
「アンタ・・俺達を助けるって言ったよな?」
「言ったね・・」
「どうやって助けるんだ?チップは、どうなる?」
「チップは取り除きますよ・・ただし条件がありますが・・」
「条件って・・金?」
「いや、金は必要ない。一応、これでも政府機関の人間でね・・条件と言うのは、彼女に我々の組織に入ってもらう事になるかな・・」
とカオルを指差していたが、カオルは目の前で指を差される意味が分からない・・
「何?どう言うことなの・・」
「君達がいた研究所は、我々の監視対象になっていてね、君達が、どの程度の能力で何をしてたのかも、よく知っている・・」
男は4人を見渡し、もう一度カオルに顔を向けると
「コード番号056、花咲カオル16歳、SPレベル30・・」
名前と能力レベルを知ってる事に恐怖を感じ、後退りするカオル・・それを見たタケルが
「断ったら、どうなるんだ?」
男に尋ねた・・
「断る?そうだなぁ・・死にたくなければ、研究所に戻る他ないかな・・」
「チッ・・セコい組織だな・・そんな組織にカオルを入れてたまるか!」
タケルがカオルに駆け寄り、ヒロシとマサルもカオルの側に行き相談し出すと男は
「早めに決めてくれよ!時間がないんでね・・」
下がって距離取ると
『部長!どう言うことです?今まで、チップを取り除くのに条件なんて出した事ないですよ!』
男のイヤホンに隊員が話し掛けて来る・・
『いいんだよ!こっちは人手不足なんだから、能力のある人間をスカウトしてんだ!』
小声で怒鳴る部長に隊員は、ため息で応えた・・
ヒロシとマサルも組織に入らない様に言ったが、カオルは入るしかないと分かっていた・・
「私が組織に入ればチップを取り除いて貰える!家に帰えれるのよ!」
カオルが覚悟を決めると、部長に向かって
「決めました!私、あなたの組織に『入らねぇよ!』」
カオルの言葉を欠き消す声が頭上で響く!
突然の声に全員が見上げると、材木の上に寝そべり、片手で頬杖を付く男は、鼻をホジりながら
「政府の組織だか何だか知らねぇが、そんな胡散臭い組織なんて止めときな!ろくな目に会わねぇぞ!」
と言って、部長に向かって鼻クソを指で弾き飛ばす!
『ハッ!』
部長は素早く避けたつもりだが、額に鼻クソが『ピタッ』とくっ付いていた・・
『コイツ・・タダ者じゃねぇ・・』
直感でそう感じた部長は、注意深く男に視線を向け、サングラスに内蔵されているカメラで男の顔を映し出すと、小声で襟のマイクに
『おい、この男が何者か調べてくれ!』
『了解しました!すぐデータと照合します!』
隊員は素早く、男の顔をデータに照会したが、何も分からなかった・・
「あなたは誰?何時からそこに?」
カオルが尋ねると男は
「そんな事どうでもいいだろ!オレは、お前に組織に入るなって言ってるだけだ!」
と言って、その場から飛び降り、カオル達の目の前に姿を現した男は、バカでかいリュックを背負い、ふてぶてしい笑みを見せていた・・
「私が組織に入って、チップを取ってもらわないと皆死ぬの!」
「へっ!オレは、3年前に研究所から逃げ出しだが、今でもピンピンしてるぜ!」
男の言葉に部長が驚き
「研究所から逃げ出しただと!」
声を上げ
「君のコード番号は?」
思わず尋ねた・・
「コード番号?・・確か、002だったな・・」
「ゼロ、ゼロ、ニ・・」
『部長!002のデータがありました!氏名と年齢は不明。3年前に研究所から逃げ出し、その後、消息不明となってます!』
『何だ、そのデータは!不明、不明って、SPレベルはどうなってる!』
『SPレベルは0です!』
『ゼロだとぉ!そんな訳ねぇ!ったく・・いい加減な仕事しやがって!』
『報告者が、部長の名前になってますが・・』
『そ・・そうか・・』
「あなたのチップは、どうなってるの?」
カオルが男に尋ねると
「そんなもん、自分で取った!」
「自分で!じゃあ、私達のチップも取ってもらえます?」
「別にいいけど、その前にヤらなきゃイケねぇ事があるからな・・おぉ、そうだ!お前等も手伝えよ!」
「手伝うって何を・・」
嫌な予感に思わず口走ったマサルを男は嘲笑い
「研究所に捕まってる奴等を逃がして爆破すんのさっ!研究所を木っ端微塵にな!」
と言って勝ち誇った笑顔を見せると、カオル達はヒソヒソ相談し出す・・
「こ、こいつも、何かヤバそうだけど・・どうする?・・・」