妖精息子2の51
ぷーすけは、佐和子に面を向けると
「……母上。おわびを申さねばなりませぬ。あなたには楽勝だと言いましたが、そうは参りませんでした。あのものを駆逐するには、わたしの持つすべてを使わねばなりません。親に向かって虚言を申したことをお許しください」
おごそかに言う。
「……なに言ってるの、あなた?」
わけがわからず戸惑う母に
「……この世に生を受けて以来、あなたさまには多大な恩愛を蒙りました。この不浄な世界において、あなただけがわたしの拠でした。その山よりも高く海よりも深い愛に対して……」
赤髪の美青年は、最後の力をふりしぼるように浮かび上がると
「なんら返恩することもできずに、あなたのもとを離れる不孝をおゆるしください。わたしは永遠に……」
その羽を大きく広げて
「あなたの子です」
次の瞬間、ぷーすけの全身から火が吹き出し、
閃光!
「……いまのは水蒸気爆発か?水の王子だな?」
「気づいていたのか?」
「当然さ。それもわかったうえで、大田原先生が屋上に行くことを見逃したに決まっている。まあ、まさかあの先生の体の中に王子が潜んでいたとは、ぼくもさっきまで気づかなかったけどね」
校舎の前の中庭で対峙しているのは、真吾と直実だった。直実のそばには、ちくわが油断のない顔で浮かんでいる。
ふたりの少年のあいだには、気を失った絵里をささえる頭巾すがたの尼僧と、袴すがたの男性がある。
その見るからに武芸者な男のうしろには、不定形のねちょつき……地の王子の体を切り刻んだものが、うず高く積もってある。
尼僧は
「――ほっほ。さすがは禍王家に伝わる妖刀・松風と村雨。いかなるアチラモノをも刻むというその切れ味は流石でしたわ。またそれを二刀流で使いこなすとは、まったく感服いたしました。わざわざ本家からアーティファクト使いをお呼びした甲斐がありましたわ、銀狼先生」
その名の通り、長い銀髪をなびかせる武芸者は
「ただのつとめだ」
短く返す。
尼の
「それにしても、いまだあなたのご流儀を継ぐものがあらわれないというのは心配ですわね。世にも稀なるその剣技、ぜひとも残していただきたいものです」
ことばにも
「――残るものならば残る。滅ぶものならば滅ぶまでよ」
端的に述べると
「それよりも、わしらは屋上に行かずともよいのか?」
問うた。
「――ああ、あれは狩道会にまかせましょう。ヘンにわれらの動きを探られてもこまります。今回のわれわれの目的は、あくまでもこの者です」
尼僧が見下ろすその視線の先には、地の王子に溶け込んで、すっかり人間ばなれしてしまった術師のすがたがある。