8.拾った子(5)
(やだ……この子、イケメンすぎる)
絶世の美青年が自分に対して期待たっぷりのうるんだまなざしを向けてくることに、少女の気持ちはとろけそうになる。
(——いけない。ついてきた妖精に取りこまれちゃいけない)
佐和子は、彼を無制限に受け入れてしまいそうになる気持ちを必死におさえて、なるだけ素っ気なく
「なに?名前だなんてぜいたくよ。あたしはあなたを子どもとは認めていないのだから」
あえて突き放すように言う。
その心無さに、明らかにしょげる赤髪青年を見て、さすがにちょっと言い過ぎたとおもった少女は
「……しかたないわね。そうは言ってもさすがに名前がないと呼ぶのに不便だから、番号代わりにつけてあげる」
そのことばに、顔をほころばせた青年を抱きしめたくなる気持ちを必死に抑えて、少女はなるべく素っ気なく
「……そうね。あなたの名前は『ぷーすけ』よ」
と宣言した。
前に飼っていたインコが「ぴーすけ」だった。それにあわせたのだ。
なまじ人間らしい名前をつけてしまうと異性の男子を意識してしまうので、あえてペットっぽい名前にしたのだ。
その名を呼んだとたん
妖精……いや、もはや「ぷーすけ」の髪が逆立った。気のせいだろうか、まるでなにかを体のうちから四方八方に放ったように感じた。
「——今、はっきりとこの世界に認知されました。わたしは『ぷーすけ』です。以後、末永く母上に孝行いたします」
胸に手をあて、うやうやしく頭を下げる。
りりしいイケメン顔で言うんだもの。ぽおっとしちゃう。
気のせいか、一段と立派にかっこよくなった気がした。
火照る顔を手であおぐ少女に対して、ぷーすけは窓を開けて……
「えっ、出ていくの?」
なんだ。ずっとそばにいるわけじゃないのかと、少しホッとするような寂しいような気の「母親」に、「息子」は
「わたしが今後母上のおそばを離れることはまずありませんが、今夜は特別ですね。なにせ、わたしもいまだ生まれて間無しの身の上ですので、この世界で生きていく準備が多少ございます……どうぞ、母上はお先にお休みになっておられてください。朝までには帰っております」
「夜中に出歩くだなんて、まるで猫みたいね」
「ハッハ、集会に出たりはしませんがね。どうぞ、窓もちゃんと閉めておいてくださいませ。心配なさらずとも、もはや名実ともに確かな親子である母上とわたしのあいだでは、いかなる物質的隔たりも関係ありません」
心配なんてしてないから、熱っぽい目で言うのはやめて。照れくさい。
とにかく、ぷーすけは窓から飛び降りていった。ここは団地の5階なのに、まったく問題ないらしい。
そりゃ妖精だもんな。