妖精息子2の37
「――うむ。パスとしてなじんでいただけあってすんなり統合できたね。体型もスリムなままだ」
すっかり術師をその身に取り込んだ地の王子は、青ざめる佐和子に向かって
「次はきみらだ。なに、心配せずともだいじょうぶだ。この術師とはパスがある都合で、体を同化させる下品な取りこみかたになったが、きみらはちゃんとお口でいただくよ。マナを吸い取ればそれで良い雷の王子と違って、美食家な我輩はきみらを物質的にもおいしく味わいたいからね。フォーッ、フォッフォッ」
意識のない絵里と顧問をかばう壁になろうと佐和子は手を広げるが、そんなことがなにの守りにならないことはわかっている。
今度こそ
「もうだめ……」
とあきらめかけたとき
チ――――――ッ
横の壁から、なんとも地味な音がした。
見ると、壁からなにやら光る小さなものがあって、しかも動いている。なんとそれは、壁の向こう側から突き出た小さな銀色刃の先だった。
それは、あっというまに壁に裂け目を広げると、出てきたのは……
「――やっと見つけたぞ、獲物」
銀色のナイフを手にして不気味にわらう、ローブすがたの女性だった。
「ハンター!」
佐和子がおどろきさけぶいっぽう、
地の王子はあきれ顔で
「しつこいやつだねぇ。こんなところまで追いかけて来たか」
ほんとうに、いやそうに言う。
ぬめった壁を抜けて、ねとつき乱れた長茶髪にかまうでなくハンター……特殊な狩人は
「ヒヒヒヒヒ。あたしゃ、一度狙った獲物はどこまでも追いかける性分でね」
狂気的な笑みを見せる。
それに対して、王子が
「ふん。そのようなおもちゃを手にしたぐらいで、我輩をどうにかできると思ったか?おろかもの。サカイモノとは言え、所詮人間である貴様が、我がテリトリーに入りこんで勝てると思うか!?」
大口を開けて威嚇すると、
ハンターは
「ケッ!たしかに純粋なアチラで勝負していたら、あたしには手が出ないだろう。しかし、ここは幽冥界。コチラとアチラが重なり合う世界だ。この場でなら、色々やりようはあるぜ……たとえば、こんな手はどうだ?」
大きく開けた王子の口に、なにやら筒状のものを放りこんだとたん
バンッ!
爆発が起こった。