妖精息子2の36
怪物の爪におさえられた絵里が
「……地の王子に協力し続ける気?あれはあなたを使い捨てにするわよ!妖魔に人間への慈悲などない」
訴えると、
鼻を鳴らして
「わかっているとも。しかしこの怪物……念体でおまえたちを取りこめばどうだ?オレはかなり強くなる。それこそ、あの地の王子との力関係も逆転するほどに。そうなれば、オレのほうが王子を使役できるようになる。
あれだけの強力な妖魔を使役できれば、魔道の頂点に立つことも夢でなくなる。なりあがり者のサクセス・ストーリーとしては最高だろう?……と、あれ?気を失ったか」
野心をもらす術師だが、猫の圧力で絵里は意識を失ってしまったようだ。
「まあ。いただこう」
「やめて!」
佐和子のさけびもむなしく、怪物が口を開け噛りつこうとしたとき
「――おや、いけないね、術師。ぼくにだまってごちそうをひとりじめする気かい?」
声とともに、強力な重力場が一帯を襲う。
佐和子や術師も思わず膝をついたし、巨猫も顎を床につけたまま上げることができなくなる。
それらを見下ろすように浮かんでいるのは、巨大なまんまる……地の王子だった。
「ウッ、殿下……」
うめく術師に対して
「だめだよ、術師。我輩を出し抜くなど不可能にきまっているだろう。きみを我輩のパスとして採用したのは、コチラモノにしてはなかなか賢いと思ったからなのだが、まちがいだったかな?」
眉を上げると
「きみと出会って3日か?そのあいだ、きみはとてもよくやってくれた。この世界に不慣れな我輩に代わってよく働いてくれた。しかし、その関係ももう終わりかな?」
「なにを言って……オレなしでは、エネルギーのパスが……」
術師のことばに
「それだがね。我輩としては、もはやきみを自立したシステムではなく、我が身に直接取りこもうと思う。そのほうが、コチラのエネルギー供給が簡単だからね」
「なに?それでは……」
「つまり、きみの人格個性は不要となる。消去しよう」
「なに!?くそ!おまえ、まさかオレを殺す気か!?」
床に顔を押しつけられながら、術師は憤怒の声を上げる。
それに対して
「『殺す』というより、無個性化かな?きみの、いわゆる魂とやらはどうなるか知らんが、その肉体と魄……幽体部分は、我輩が上手に使ってあげるよ。だからなにも心配しなくていい」
言いつつ、顔に手を押し当ててくる地の王子に
「そんな!オレの記憶、術式、すべてを奪う気か!この化け物め!さわるな!」
唾飛ばしさけぶ術師だったが、
王子はただ口を笑み曲げて
「やだねぇ。たとえ短いあいだでも、つながりあった仲じゃないか。せめてお別れは『グッド・バイ』と行きたいね。おとうさん」
「うっ、ちくしょう、ああ、いやだぁ、くそぉ!こんなところで、ああっ、たすけてくれ!……ああっ!うがが……がぁ……ぎぎぎ……ぎぎぃ」
地の王子の手から吸われるように、術師の体が取りこまれていく。