妖精息子2の33
絵里は男をじっと見て
「その様子……あなた、さてはいずれかの魔道家の従者ね?」
問うと
「もと従者だな。オレは、こいつをいただいて主家をぬけだした」
手にあるのは
「絵里ちゃん、気をつけて!それ『魔弾』だって!」
佐和子のことばに、絵里は
「魔弾?あれはたしか今、鬼頭の禍王家にあるはず……あなた、あの家のもの?」
わらう術師に、つづけて
「あの残虐苛烈で知られる家をぬけだしたうえ呪具をぬすみだすなんて、よくできたわね。隷属術式も彫り込まれていたでしょうに」
「そりゃ並大抵じゃなかったさ。隷属紋を壊すときに、体の半分は持っていかれた。いまのおれは、この魔弾の力でなんとか肉体を維持している」
そう言って自らの顔の皮を剥がした奥には、骸骨がむき出しであった。
佐和子は慄然とする。
絵里は冷静に
「……たしかにすごいけど。とは言え、あなたのような一術師が禍王なんて大きな家を裏切り呪物を盗み出して、そのままでいられるはずがないでしょう?必ず殺される。それも尋常ではない凄惨なやりかたで。なぜ、そんな命を捨てるようなまねを?」
問うと、術師は目を眇めて
「あなたなら、多少はわかるんじゃないか?おじょうさん。魔道家における従者がどういうものか。いくら魔能があったところで、あくまでオレたちは主家の道具、使い捨ての消耗品にすぎない。死ぬまでこき使われたうえ、死んだあとも体内術式を分別回収されて、のこりは廃棄。主家に養子ででも入りこまないかぎり、そんな報われぬ人生が代々続く……くだらねぇ!」
吐き捨てると、
つづけて
「わずかとはいえ魔能を持って生まれたからには、おれとて魔術師のはしくれ。たとえ悲惨な死を迎えようとも、魔道の深奥……その一端に触れてみたくなったのさ」
魔弾を指先で弄いながら
「もとよりおれごときの魔能でこの呪具を使いこなす当てなんか無かったが、この名高き呪われた街に来れば、なにかあるかもしれないと思ってな。
そんなオレの思いが運を引き寄せた!まさか******の王子に出くわし、その配下となるとはな!強力な妖魔とエネルギー・パスをつなげたことにより、オレの魔能は格段に向上し、この魔弾を自由に使うこともできるようになった!」
わらうと
「『魔弾』を、単に百発百中の弾と思いこんでいるやつが多いが、それではこの呪具の本質を見失う。この鉛の弾には、ある名高き悪魔の呪力が込められているが、その力をなにに使うかは使用者の設定次第だ」