妖精息子2の24
「な、なにこれ?」
空間の異状におののく佐和子に、
地の王子が
「マナによる物質の変化よ。コチラモノの術師はわれらに比べて圧倒的に力が弱いが、そのぶん繊細な術処理ができる。こんなちまちまとした魔術処理、われらのような力強きものには逆にできない」
褒める。
術師は、体を揺らしながらぶつぶつとつぶやき続ける。
“...and then there stole into my fancy, like a rich musical note, the thought of what sweet rest there must be in the grave… ”
(……そしてそのとき、私の頭に妙なる調べのように思いつきが忍びこんできた。甘美な安らぎは墓の中にあるにちがいないという思いだ……)
“The thought came gently and stealthily, and it seemed long before it attained full appreciation…”
(その思いは徐々に私に忍びこんできたので、なかなか私を魅了するにいたらなかった……)
雷の王子は、鼻を鳴らしてあざけって
「フンッ!このような小細工がなにになる?余を傷つけることができるとでも?こんな些細な空間術式など、まとめて吹き飛ばしてくりょう!」
手を上げると
「だれが、きみとやり合うつもりだと言ったね?我輩のねらいは……」
地の王子は、まるい顔にほのぐらい笑みを見せ
“...but just as my spirit came at length properly to feel and entertain it…”
(……が、わたしの魂がその考えを受け入れ喜ぶことができるようになったとたん……)
「獲物の『横取り』さ」
“... the figures of the judges vanished, as if magically, from before me;the tall candles sank into nothingness;their flames went out utterly;the blackness of darkness supervened…”
(……審問官のすがたは魔法のように消え、背の高い蠟燭は虚無に沈む。その炎は完全に消え、漆黒の闇となった……)
「――えっ?なに?」
講堂はにわかに闇に覆われ、そして次の瞬間
“...all sensations appeared swallowed up in a mad rushing descent as of the soul into Hades.”
(……すべての感覚は泥に巻き込まれ落ちた。冥界への魂の降下のように)
佐和子は、自分の足が床に沈み込むのを感じた……というより、今まで床があったところに急に穴があいたのだ。
「――きゃっ!」
「母上!」
ぷーすけが手をのばすが、それはほんのわずか届かず、佐和子は穴の深い闇に落ちていく。
“...Then silence and stillness and night were the universe…”
(……そして静寂と静止と暗黒がすべてになった……)
少女のすがたは消えた。




