6.拾った子(3)
佐和子は風呂上がり、自分の部屋で赤髪の青年と対峙した。
彼(……だろう、おそらく。女性には見えない)もちゃんと風呂に入っている。
出会ったときと同じ服装だったので、かわりの服はないのか尋ねたら
「『出そう』と思えば出せますよ。この表面上の装いは、母上がたのことばではなんというのでしょう……えーてる?幽体?まあ、そんなもので形どっていますから、なんとでもなります」
ごく当たり前そうに答えた。
「——あなた、いったいなんなの?」
少女の問いには、小首をかしげて
「あなたの息子ですよ。もちろん」
「ちがうわよ!いつあたしがあなたを産んだのよ!そんなおぼえ……ないよ!」
乙女は、顔を赤らめながら言った。
それに対して、青年はため息をついて
「母上……そのような見識の低いことをおっしゃいますな。物質的なつながりより精神的なつながりを重んじる……それこそ霊性あるもののたしなみではありませんか?」
生き物としての道を説く。
しかし、少女はもちろん
「精神的なつながりなんてないよ!」
さけぶと、青年はショックを受けたようで
「……そのようなむごいおっしゃいようがありますでしょうか?わたしがこの世に生を受けて初めて相まみえたのは、他のだれでもない……母上、あなたです。その責任というものがあるでしょう」
なじるように言う。
「あいまみえたって……まさか!あなた、あの卵からのぞいていた炎!」
その時とはすっかり変わってしまっていたから気づかなかったが、たしかに色合いはそのままだ。
青年は、少しく頬を染めて
「——かわいらしかったでしょう?初めてのこどもに、母性があふれでませんでしたか?『生まれてきてくれてありがとう』と言いたくなりませんでしたか?」
期待した眼で、母と慕う少女をじっと見る。
燃え盛る炎のなか目玉がぎょろりとしていておそろしかった……なんて、言えなかった。
それにしても、あたしのことを母親だと思うだなんて!……もしかして、これって「すりこみ」ってやつ?はじめて見たものを親と錯覚するって……前に渡り鳥が出てくる映画で見たよ。
なんてこと!あたし、まだ親になるには早すぎるよ!