妖精息子2の17
次の日、佐和子はぷーすけを連れてふつうに登校した。
息子が前の晩にどこに出かけたのかは、詮索していない。なんとなくだが、親として子をだまって見守るのもだいじなことのように思ったからだ。
直実もふつうに登校していた。ちくわのすがたが見当たらないが、彼はつねに(教室の後ろに立って)佐和子を見守るぷーすけとちがって、親に張りついたりはしない。気ままに外に出てうろつく放し飼いスタイルだ。
直実と、昨日の件について話すこともなかった。いつもどおりの学園生活だ。
授業のあいまの休み時間、佐和子ら仲良し女子グループはピロティのテラスエリアに出てガールズ・トークを繰りひろげる。
男子禁制だが、ぷーすけはペット枠のあつかいで同席している。
「――佐和子ちゃん、協力してよ」
「だめだよ。あたしなんか人前に出るのは無理」
「裏方でもいいのよ。とにかくいま人手が足りなくて」
どうも最近、絵里が佐和子に演劇部に入るようしつこく勧誘してくるのだ。
(裏方だけとか言って、舞台に出させようとするんだから)
なぜだか、このスター女優は初めて会ったときから佐和子に目をつけて
「佐和子ちゃんは、舞台ばえすると思うんだよ」
などと、おそろしいことをのたまう。
(そんなわけあるわけないでしょ。人前なんて、まっぴらごめん)
佐和子はあくまで、自分のことを華やかなライトを浴びるスターを暗いところから応援する人間だと見さだめている。
しかし、推しに無理を迫られてこまった少女が助けを求めても、由紀乃や茉優ら友人はニヤニヤとして
「いいんじゃない?」
「あたしも、ありだと思う」
などと、適当なことを言う。
(ひどいな。うらぎりものどもめ)
しかたないので、忠実な息子に救いを求めたら
「――母上が主役をつとめるならば、アリだと思いますが」
などと、論外なことを言う。
(この親不孝ものめ)
そんな衆寡敵せず、こまった状況に少女が陥っていると
ぴんぽんぱんぽん
校内放送が入った。
「――ただ今より、全校集会を行います。すべての生徒教員は、講堂に集まってください」
えっ?今から集会だなんて聞いてない。午後の授業はどうなるの?中止?
生徒らは思わぬ事態に顔を見合わし、ざわつく。
佐和子は
「あんた、またなにかしたの?」
以前、夜のうちに学園理事長の家に行って話をつけてきた前科を持つ息子に、うたがいの眼を向けるが
「わたしは、なにも存じません」
と、赤髪の美青年は否定する。
そう。じゃあわからないけど、呼んでるんだから行くしかないよね。
少女らは語らいを中断して、講堂に向かった。