妖精息子2の15
「魔術師とかハンターとかって、いったいなに?あんな人間がいるの?」
そんな母の問いに答えるのは、赤髪の息子だ。
「それはまあ、今ごらんのとおり居りますね。どちらも、コチラでは常ならぬ存在ですが、この街ではめずらしくもありますまい。なにせ、異界専門の医者がいるような街です。
そういえば、あのハンターはわれわれのことを知っているようでしたね。おそらく、あの医者が彼女にわれわれのことを伝えたのでしょう。それがなかったら、問答無用でわたしを狩りに来たかもしれません。どうも、好戦的で野蛮なものに見えました」
オリエンタルな風貌を持つきれいな女だったけど、たしかに暴力をふるうことにいささかの躊躇もなかった。感覚が自分たちとちがう。
「他方の術師はこの国のものに見えましたね。この地の魔道家の者でしょうか?そんなに格が高い術師には見えませんでしたが」
「まどうけ?」
聞き慣れないことばに、おうむがえすと
「魔道家とは、家業として魔術を引き継ぎたしなむもののことです。多くが血筋による閉鎖的な派閥をなしています。競争もはげしい。この土地の魔道家は、コチラの隠秘業界では有名なようですね」
そんなものがこの街にいるなんて。知らなかった。
「まあそもそも隠秘なるものですからね。一般には知られにくいでしょう。われら異界存在ほどでなくとも、認識の阻害も働かせています」
「……」
直実も、驚いているのか黙りこくっている。
ぷーすけは続けて
「あの『地の王子』のパスが魔術師であるとは厄介ですね。アチラとコチラ両方の事情に通じているものが、敵に加わっているのはめんどうです……」
敵……よね、そりゃ。なんといってもあたし、また食べられそうになったもの。
「そうです。母上を栄養にしようとは、まったくもってあつかましい。それだけでなく、彼はどうも見境なくコチラモノ……人間を襲うつもりのようですね」
そうだ!あの人たち。
気を失って倒れている人々に、少女が心配の眼を向けると
「あのものたちは問題ないかと。まだマナ摂取の検証段階だったのでしょう。地の王子は、命にかかわるほどには彼らのマナを吸ってはいません」
「でも倒れて……」
「たしかにコチラモノが通常の意識を維持するには、多量のマナが必要です。少しでもマナが不足すると、あなたがた人間はすぐ意識を失います。ですが、その一方で人間の肉体は睡眠時などの無意識状態には、かなり少ないマナで生体活動を維持できるようになっています。あの程度のマナ減少ならば、生命にさしつかえることはありません。
ほどなく意識ももどるでしょう。われらの力で正常化バイアスが働きますので、記憶に混乱が生じることもありません」
そお?そこまで言い切るんなら、大丈夫でしょうけど……