5.拾った子(2)
「まったく……うちはペットを飼うつもりないって言ってるでしょう、佐和子。なのにあんた、こんな子拾ってきちゃって……どうする気?」
夕飯を食べながら、母親の宏美に佐和子はなじられていた。
そのとなりでは、赤髪の青年がいっしょに食卓を囲んでいる。
「——生まれて初めていただきましたが、この『豚肉の生姜焼き』というものはなかなか美味ですね、母上の母上」
美しい声でほめられて、宏美は顔を赤らめる。
「あら、そう?よろこんでもらえるとうれしいわね……って、そんなことではごまかされないわよ、佐和子……お父さんも何か言ってやってくださいな」
同じく卓を囲む父の健三は、きくらげの和え物をつまみにビールを飲みながら
「ううん?……いや、しかし拾ってきてしまったものはしかたないだろう?もう一度捨ててこいというのは、あまりに非人情だよ」
やんわりとだが、今までこれといったわがままを言ったことのない娘を擁護する。
宏美はため息をつくと
「……ちゃんとあんた、世話するんでしょうね?三日ぐらいで飽きたから、どっかにまた捨てるなんてできないのよ。生きものは」
「母さん、佐和子はそれぐらいわかっている子だよ——なあ?」
父がとりなす。
そんな、一見まともに聞こえる会話を続ける両親に、佐和子は心の中で
(——なんだ!?これ!?)
さけんでいた。
(いや……だってさ、あたしが連れてきたのは子犬じゃないんだよ。立派な男の子……っていうより青年だよ!なんで、そんなのが拾ってきた犬みたいなあつかいされるわけ?)
団地の踊り場で会ったあと、離れずついてくる青年に、少女が恐怖を感じてインタホンごしに必死に助けを求めたら、レンズごしで赤髪のすがたを確認した母は
「……あんた、『その子』拾ってきちゃったの?しょうがないわねえ」
ふたつ返事で、彼ごと家の中に入れた。
そのあとは、お茶を出した挙げ句に夕飯までいっしょに食べさせて……
(なんて、おかしすぎるでしょ!?仕事から帰ってきたおとうさんまでいっしょになって!それともなに?あたしの方がおかしくなったの!?異次元の世界にでもさまよいこんだの?)
そんな娘の混乱をまったく理解できない両親は
「……じゃあしかたないな、佐和子。拾った以上、きみがこの子のお母さんとしてちゃんと最後まで面倒を見るんだよ」
「そうよ」
言うと、食後の歓談に移っていった。