妖精息子2の11
「きみたち取り替えられた王子のことも、把握ことせよ気にとめていなかった。こんな魔素の少ない世界に生まれたものたちなど、しょせん劣等児でわれらの競争相手にはなるまいと思っていたのでね」
じゃあ、なぜわざわざ……佐和子らの不審に対し、しかし王子は目を光らせて
「ただ、きみらのなかに一匹アチラに乗りこんできた愚かものがいたろう?あれで、ずいぶん風向きが変わったのだ」
それって……あの「金」の王子!そうだ。アチラの王子にコテンパンにやられた、って言っていた!
「――ああ、彼の腕を落としたのは我輩さ。あんな弱っちいくせに、よくもあつかましく王を目指してきたものだ。まったく世間知らずとはあわれなものよ。あまりの不憫さに、仕留める気すら起きなかったが……。
ただ彼のエネルギー供給法は興味深かった。コチラモノと通路をなして、その生命力から魔素を得るとは、なかなかおもしろいシステムだ」
王子は、まんまるなあごを撫でながら
「……実を言うと、目下のところアチラでの王位争奪戦は停滞気味でね。我輩をふくめて生き残っている王子は、実力が拮抗してだれもが決め手に欠く状況だ。
そこでかしこい我輩は、きみらの持つシステムに着目したわけさ。今までは眼中になかったコチラモノのマナを利用すれば、ひょっとすると今の停滞した戦況を変えうるかもしれない。
実験検証しようと、我輩は自らコチラに降り立った。そして出会ったのが彼というわけさ……おもしろい素材だったので、早速その通路とやらをつなげてみた。なかなか良い具合だ。魔素の少ないこの世界では、たしかにこのようなシステムが必須だな」
王子のことばに、術師?は
「あなたさまのような高貴な存在とつながることができましたのは、幸甚でございます」
また頭を下げる。
通路をつくる……とは、機能的に佐和子とぷーすけの関係性と同じだろうが、少女を親と慕うぷーすけとちがい、アチラ生まれの王子はパスを繋いだ人間のことなどただの道具ぐらいにしか思っていなさそうだ。
(それにしても……)
では、この倒れている人々はいったいなんなのだろう?術師とパスを作ったのなら、彼経由でマナが補給されて終わる話ではないか。このマナ不足で倒れる人間たちのありさまはどういうことだ?
「ははは。わからんかね、おろかなコチラモノには」
失礼ね。
「たしかに、パスを作ったおかげで我輩のコチラとのなじみはよくなった。しかし、それだけで我輩が求める量のマナが得られるはずがなかろう。他の王候補どもを蹴散らすためにも、我輩はもっと栄養を摂取せねばならぬ。このようなガリガリにやせ細った体のままではならんのだ!
彼ひとりから供給されるマナだけではまったく足りない。それは違う形で摂取するしかあるまい。
いやはや……初めて少し味見をしてみたが、人間の生気もなかなかいけるものだ」
この王子。人間の生気をじかに吸い取って!そんなの、ポテトをかじるだけにしときなさいよ!