妖精息子2の10
「ぷーすけ。あれって、もしかして……?」
「ええ。******の王子です。わたしの同類ですね」
やっぱり!そうだよね?
太り(大き)すぎてわかりにくいけど、背中にちゃんと蝶っぽい羽が生えているもの。
あれ?でも、コチラにいる王子って、カムノカッコウが******の宮殿から取り替えて持ってきた卵にいた五体だけのはずでしょ?
「ええ。ですから、あれは……」
ぷーすけのことばを取ったのは、その新たな王子だった。
「そう。我輩はアチラで生まれた『ちゃんとした』王子だよ。きみらコチラ生まれと同類などと言われては、ほんとうは心外だ。われら******は、血統のみならず生まれ育った環境も重視する。とはいえ、広い意味では縁者であるから一応の挨拶はしておこうか?
――やあ、どうもお初にお目にかかる、コチラ生まれ。そして、その養い親……ゲフッ。
おっと失礼。どうにもこの世界の食べ物は意外と美味なものだから、ついつい食べすぎてしまうね。おかげで我輩、コチラに来てからすっかり太ってしまった。これでも、前はそこそこスリムだったのだよ。フォッフォッ」
王子は、まるすぎて顔との境目がわからなくなった肩をすくめわらう。
佐和子は、目の前の王子がもとはやせていたというのは嘘だと思った。巨大な体格が、あまりになじみすぎている。
――シュッ!
調子よくしゃべる王子のスキを見て、ハンターが懐から新たなナイフを取り出し投げつけるが、それを受け止めたのは、ふたたび黒服の男性だった。
「殿下に手を出すのはゆるさん」
そのことばに、女性は目を眇めて
「……きさま。魔術関係者らしいが、人間のくせにその妖魔に加勢するか?というより、その様子だと配下になったか?」
問うと
「おうよ。オレは僥倖にも、アチラからコチラに渡っていらしたばかりの殿下と見えることができた。殿下のように力あるアチラモノと縁を結べるなど、魔術師が万いて一人あるかという幸運だ。こんな二度と無い好機を逃すおろかな術師はいない」
言い切った。
「この男は、我輩に会うなりすぐに恭順の意を示した。知らない土地で便利だし、召しつかうことにしたのよ」
風船状王子のふくふくとしたことばに
「あなたさまのような偉大な存在に接したものとして、当然の態度です」
うやうやしく頭を下げる。
「ホッホッ。ういやつ、ういやつ」
機嫌よくスナックをかじる王子に対して、
今度はぷーすけが
「……なぜコチラにわたってきた?今きみらアチラの王子は、コチラに興味を向ける余裕などあるまい。どう王位を取るかのみに専心しているはずだ」
その問いに、王子は巨大な体をふるわせて
「ホッホッ。たしかに、我輩も王位争いが佳境に入って忙しいこの時期に、こんな辺土に降臨するつもりはなかった。