4.拾った子(1)
自宅の団地の駐輪場までたどりつくと、胸の動悸はだいぶんおさまっていた。
おそるおそる後ろをふりかえっても、なにも妙なものはついてきておらず、多少ホッとする。
たしなみある少女はひとりごとをつぶやいたりしないが、いま目撃したことの衝撃に、頭の中ではワーワーわめきたてている。
(なに!?あのヘンなの!!生き物!?……って、でもあんなおかしな生き物いる!?だって燃えてたよ!生き物じゃないとしたら……自然現象、いや怪奇現象!?
……やだなぁ、疲れてたのかな?あんなおかしなモノ見るなんて……あたし、おばけなんて生まれてから一度も見たことないのに……あっ、ネットで調べたらわかるかも……って、今は怖くてそんなのを見る勇気もないよ!…………うーっ、もう二度とあの道を通るなんてできないよ!……あーっ、もうっ!今はとにかく早くおうちに帰りたい……)
ぐったりとした気分で、足早に団地の階段をあがっていくと……
踊り場に、そのものはいた。
夕焼けに真っ赤な髪をなびかせて立つその容姿は、すらりとしてまるで雑誌に出てくるイケメン・モデルのよう。
しかし彼には、まるで蝶のような触角と羽が生えていた。
そんな、いろんな意味で人間ばなれしたものは、美しいアルトの声で女子高校生にささやいたのだ。
「——ひどいではないですか、母上。生まれたばかりの子を置き去りにするとは」
こうして、佐和子は息子を拾ったのだ。