3.たまご(2)
放課後といっても、部活動もあって学校自体はにぎわしい。
「佐和子ちゃん、提出終わった——っ!?」
ジャージ姿の絵里が声をかけてくる。
「うん。ちゃんと提出した。絵里ちゃんはお稽古がんばってね」
「うん!ありがとう、また明日!バイバイ!」
「バイバイ」
絵里は演劇部だから、今回舞台の公演がある。
彼女たち部活・同好会関係者はもちろん文化祭に向けてやる気満々だ。実行委員と言っても、ただの帰宅部女子の佐和子とは熱の入れようがちがう。
「——さようなら」
「はい、さようなら。無事にお帰り」
警備員にきちんとあいさつをすると、自転車に乗って裏門から出た。
いっとき、近所に変質者が出るという噂があって、学園側も警戒を強めていたが、今はもうそこまでの緊張はなくなった。
ゆったりとした秋のたそがれどきである。
学園の(戦前からあるという古びた)煉瓦塀にそって通る少女のわきを、トラックがすごい勢いで駆けぬける。この道は古くからあるせいか、通学路のわりに幅がせまくて気をつけないといけない……と
——すてん、ころりん。
少女の視界の端を、なにかが通った。
(あれ?なんだろう、ちょっと大きくてヘン……)
思わず自転車を止めてふりかえった少女の目の前にあったのは、道路に転がるひとつの大きな
たまごだった。
たまごだ。だれがどう見ても。
佐和子は実際には見たことないが、ダチョウの卵より大きそうだ。
道端にそんなものが転がっていることがまずおかしかったが、それよりもおかしかったのが、佐和子が見とめると、その大きなたまごがまるで自分の意志があるかのように縦に立ったことだった。
まるで、たまごが少女の存在を認識したように!
(——いったい、なに?)
少女が声も出せずに見つめると、その視線に応じるかのようにたまごの殻にヒビが入った。
とたんに、その割れ目から吹き出すのは燃えさかる炎であり、その奥からのぞいているのは、なにかの「目」だった。
佐和子と視線があった。
「——ヒッ!!」
やっとそこで声が出た少女は、後ろもふりかえらず無心にペダルをこいで逃げた。