23.アチラの医者(6)
おかしな診療所から家に帰り、夕食やお風呂もすますと、佐和子は自分の部屋でぷーすけと向かい合った。
今後について話し合うためだ。
「あなたのきょうだい……のこるふたりって、なにかしてくるのかしら?」
母の問いに
「孵化しているのは間違いありません。それは感じられます。ただ気配を殺しているからか、細かい居場所まではわかりません。
あのカッコウによると、われらの卵は4つとも母上の通う学園付近で捨てられています。学園関係者が拾い親になっていると考えるのがふつうでしょう」
(やだなあ、また学校の子とやりあうことになったりしたら……気まずいじゃない)
「そして、その残る******たちは、ちくわとわたしの存在に気づいているはずです。なにせ、今日ハデにやらかしましたからね」
そうだ。駐輪場の屋根もぐちゃぐちゃにしちゃったけど、ぷーすけは気にしなくていいと言っていたから、ほったらかしのまんまだ。
「あれはただのつむじ風被害です。自然災害に母上が責任を感じる必要などありません」
そういうものかしら?まあいいや。請求されても困るもの。
「相手は、わたしとちくわが提携したことを知ったはずです。単体では攻めるのが難しくなったと思ったのではないでしょうか?」
「あきらめてくれないかな?」
希望的観測を口にすると
「なら良いですがね。わたしもあえて無益な殺生などしたくありません。ただ、ほんとうにそれらが王になりたいのなら、アチラ……******の国に早くもどりたいでしょうから、あせるでしょうね。いつ襲ってきても不思議ではありません」
——こわいな。明日は文化祭がはじまるというのに。
「なにがあっても、母上のことはわたしがお守りいたしますよ」
自信たっぷり、すがすがしいイケメン顔で言ってくる息子をつい信頼してしまう。
「そうだね、直実くんたちもいるし……」
母のことばに、しかし息子は
「あんなものたちの助けなどいりません。そもそも、母上に対してあの男は慣れ慣れすぎます」
不満顔だ。
「男って、直実くんはただのクラスメートだよ」
佐和子はわらうが
「だとしても、男女の別は守ってもらいたいですな」
風紀委員みたいなことを言う息子のことはほっといて、もう寝よう。
ふとんをかぶる佐和子に、ぷーすけは
「母上は、照明を消してお眠りにならないのですか?」
「……まっくらだと、逆に寝にくいの」
そう答えたが、実は部屋が暗いとおばけが出そうで怖いのだ。
おばけみたいなものを拾っておいてなんだが。
「——とはいえ、照明をつけっぱなしの睡眠はお体によくありませんでしょう」
そう言うと、ぷーすけは空いているガラス瓶に指をかざして、そこに小さな火をともした。
「やめてよ。また火なんて起こして。火事にでもなったらどうするの?」
母のことばに
「この火は、わたしのつくりだした仮りそめのものですから母上以外のものには見えません。また、なにかに燃え移ることもありません」
そう言って、佐和子の枕元に置くと
「これならば母上の睡眠の妨げにもなりませんし、お体への害もありません」
たしかにちろちろとしたその炎は、やわらかくて少女に安心感を与える。
常夜灯がわりになりそうだ。
「——うん、けっこういい。ありがと」
素直に礼を言うと、息子は満面の笑みを浮かべて
「わたしがいるかぎり、母上を照らしますよ」
いつ王子が襲ってくるかと不安を感じていた少女だったが、その明かりにぐっすり眠ることができた。