19.アチラの医者(2)
「******の患者さま、どーぞ」
女性に呼ばれたので、奥の部屋に入った。
直実にたのまれたので、佐和子やぷーすけもつきそう。
今は、なによりちくわのケガを治すことが先決だ。
診察室は思ったより広い部屋だった。書類が本棚にぴっしり並んでいる。
そのなかで、白衣を着た金髪の男の人が机に向かって書きものをしていた。
カルテらしい。
「——はい、どうぞ。いらっしゃい。いかがされました?」
ふりかえったその医者は、なんというか……うさんくさかった。
まっ黄色の短髪に、ほんのりとしたクチヒゲ。白衣の下は海賊みたいな赤白のボーダールック。
どう見ても、ふつうの医者には見えない……って、そうか、ふつうの医者ではなかったんだ。
「……やあ、けっこうな火傷ですね。あなたがつけたんですか?いけませんね、兄弟げんかですか?」
ちくわのケガそしてぷーすけを見て、瞬時に関係性まで言い当てた。
どうやら、見る目はあるらしい。
医者は、それからつきそう少年少女に気づいて
「あれぇ?あなたがた、コチラモノですね?こんな******といっしょに、どうしました?」
佐和子と直実をふつうの人間だと認識したが
「いや、今はそんなことより、彼への処置を早くしてあげないとね……」
白衣のポケットから虫メガネを取り出し、ちくわの火傷を見ると
「こりゃ、ドライアイスぐらいじゃ駄目だな……ヨシノさん、こないだベティーがくれたコオリムカデの体液を取ってください……いや、ユキハキグモの糸はいい。膏薬貼りでいきます」
ヨシノと呼ばれたさっきの受付女性が、冷凍庫から大きな瓶を取り出す。
医者はその中のいかにも冷たそうなもの(ドライアイスみたいなけむりがモクモク出ている)にガーゼを浸すと、それをちくわの腹部に当てた。
「うっ」
緑髪の少年妖精が痛がる。
「……我慢なさい。******の生み出す火精は、そう簡単に打ち消せないんだから」
「辛抱するんだ、ちくわ」
直実が手を握ってあげる。
(へえ、ほんとうに大切にしてるんだな)
佐和子は、たよりないだけと思っていた男子同級生に感心した。
医者は手際よく処置を終えると
「——さあ、とりあえずはこれでだいじょうぶでしょう。もう傷が広がることはないと思いますよ」
「……わたしの火をおさめるとは、やりますね」
ぷーすけが感心してるのか悔しがっているのか、よくわからない口調で言った。