18.アチラの医者(1)
ぷーすけがつれてきたのは、街なかの木造二階建てアパートだった。
「コーポまぼろし」と書いてある。
「わたしが卵にいるときに、すでにこの医者の情報は組みこまれていました。どうやら異界からこの世界……コチラに来たもので問題があった場合、最終的に頼りにするのはここで決まっているようです」
ぷーすけのことばに、ちいさくなって直実に抱きかかえられたちくわも
「……おれも、この医者のことは把握している」
うなずく。顔色が悪い。
ぷーすけは迷わずそのおんぼろアパートの一階奥に進むと、102号室……「野々村」と表札がある部屋の前に立ち、インタホンを押した。
どう見ても、ただのせまそうな家だけどな。
しばらくすると、ぶっきらぼうな感じの女の人の声で
「——どちらさまですか?」
返事があった。
「治療を願います。怪我をしています」
ぷーすけが言うと、女性はあっさりと
「そうですか。どうぞお入りください。カギは開いています」
扉を引くと、髪をポニーテールに留めた青白い顔の女性が看護師らしく立っていた。
「どうぞ、スリッパにお履き替えください。すぐお呼びしますので、そちらに座ってお待ちください」
彼女が指さす先には、ぺろんぺろんのクッションが置いてある丸椅子が4つ並んでいた。
どうやら、診療所であることは間違いないらしい。
「青柳さん、あれ」
直実が指さしたのは、待合室に置かれた水槽だ。中に魚が飼われているが、それが
「えっ?にらんでる?」
人間みたいな顔をしてこっちを睨みつけている。
「あれ、柄じゃないよね?しっかり人間の顔してるよね?」
うろたえる佐和子に、ぷーすけが
「人面魚でしょう?めずらしくもない」
……どうやら、本当にこの診療所はふつうではないらしいのはわかった。