15.もうひとりの妖精息子(4)
声がしたと思うと、からまったかたまりが一瞬にして燃え上がった火球となると、そこから出てきたのは、身に炎をまとった美しい息子だった。
ぷーすけは
「コチラの植物を使役したぐらいで、わたしを仕留められると思ったか?ばかばかしい……それよりも、よくもこのわたしに母上を突き飛ばさせるなどという不孝をさせたな。——申しわけありません、母上。とっさのことでして」
そんなのはいいよ!とにかく無事で良かった!
ほっとする佐和子に対して、
緑髪は地団駄ふんで
「くそっ!そんな火なんか風で吹き消してやる!」
手をふり風を送るが、ぷーすけが口から火を吐くと、その熱によって上にあおられる。
「そんな……ぼくの風が……くそっ、シモベたち!」
地面から出た植物たちをなんとかぷーすけに近づけようとするが、火をおそれる植物たちは近づくこともできない。
緑髪は愕然として
「そんな……生まれたてで、なぜそんなに強い?……そうか!拾い親の差か!?ちくしょうめ!」
歯ぎしるが、せんかたない。
「——あきらめろ。おまえの力ではわたしを傷つけることなどできない。素直に母上に命を差し出し、罪をあがなえ」
ぷーすけのことばに
(えっ、あたし?そんな!あたしのせいで殺すみたいな言い方しないでよ。あたしはこの子の命なんていらないよ)
佐和子はあわてて息子を止めようとするが、間に合わず
紅蓮の炎がふりおろされんとした、そのとき
「——やめてくれ!『ちくわ』を殺さないでくれ!」
そう言って、緑髪の妖精の前に身を投げ出したものがいる。
それは
「あれぇ?きみは……」
なんと、佐和子のクラスメートである平井直実だった。
「なんだ!?ナオザネ、出てくんなって言っただろ!ひっこんでろ、てめえ!」
緑髪はあわててその肩をつかむが、直実はその手をふりはらい
「いや、引っこまない!おれはおまえの父親だ!」
(えっ、父親?……ってことは、なに?平井くんがこの緑の子を拾ったの?)
おどろきにことばも出ない佐和子に向かって、直実は
「……たのむ青柳さん!きみがその火の妖精の拾い親なんだろう!?きみから言って、どうかこの子の命だけは助けてやってほしい」
地面に額を擦りつける。
「やめろ!ばかてめえ、土下座なんてすんな!」
抱き起こそうとする緑息子のことばも聞かず、ただただ同級生少女に懇願する。
「……さて。これはいかがしたものでしょう?母上」
その様子に
(——あれ?これじゃまるっきり、あたしのほうがひどいことしてる悪代官みたいになってない?)
少女は体裁悪く、まわりを見わたした。