妖精息子3の45
そんな母のことばに、ぷーすけは喜色満面で
「よろしいのですか!?それはつまり、母上はここでわたしと二人きりの生活をするということですよ。世界のあいだを頻繁にわたることはできません。母上には、人間としての暮らしを放棄していただかなければなりません」
「……しかたないでしょう。こどもをほっぽりだすわけにもいかないもの」
佐和子のことばに、
ぷーすけは法悦の表情で
「……ありがとうございます。わたしは母の愛にめぐまれたものです」
感動たっぷりに謝意を示すが、つづけて申し訳無げに
「……しかしその場合、母上にはその只人のままでいただくわけにまいりません。なにせ、この世界は不完全ですし、時間の経過も人間の世界と異なります」
「どうしたらいいの?」
覚悟を決めた少女は、どんなことでも受けいれるつもりだ。
そんな母の姿勢に、子は恐縮しながら、なにもない宙から(自らの力によって生み出したものだろう)液体が入ったコップを取り出した。
それを、母にうやうやしくも差し出すと
「どうぞ、これをお飲みください。母上に、人間をやめてこの世界のものになっていただく飲み物です」
「……ふうん」
少女は手に取る。
「ほんとうによろしいのですか?」
息子がおずおずとたずねると
「しかたないでしょう?親ならこのくらいのことするわよ」
そのことばに、
子は頭を深く下げて
「ありがとうございます……ほんとうに、わたくしはしあわせものでございます」
佐和子は液体を飲みほした。
「なんだかあまいわね、これ」
「ええ。母上のお好きな青りんご味にしました」
「そう……えっ?あれ?ぷーすけ、これ、ねむく……」
「ええ、ねむくなります。だいじょうぶですよ、母上……ほんとうに、ありがとうございました」
「えっ?」
少女がすうっと意識を失ったのを、息子は抱きささえる。
子は、母の顔をじっと見つめる。
そこに
「――ほんとうにいいのか?」
うしろの時計の中から声がかけられる。
扉が開くと、そこからあらわれたのは、モジャモジャとした髪型、ニキビ顔の少年だった。