妖精息子3の44
坊を見送ると、佐和子はぷーすけに
「ここは?いったいなんなの?」
さっそく問う。
「わたしの世界です」
「あなたの世界?って……あれ?たしか、あなたのもともとの世界って壊れたんじゃなかった?あたし……いや、あたしに似たものが飲みこんだはずじゃ……」
夢のような記憶をたどりながらたずねると、
子は
「そこまで把握なさっておられますか?さすが母上です。……ええ。たしかにわたしども******の世界は、種子から広がった混沌によって飲みこまれてしまいました」
「そのとき、あなたも飲まれたんじゃなかった?」
最後のほうの記憶はそうだ。
ぷーすけは
「そこが、母上のありがたい御恩寵です。あの母上のすがたをかたどった種子の運び手は、最後にわたしを守ってくれました。わたしを破壊から守り、このように残してくれたのです。かたじけなくもありがたい、親の御恩です」
頭を下げる。
「あたしがしたわけじゃないでしょう」
少女は照れくさく手をふると
「いいえ、母上がなさったも同じです。なにせ『あれ』は、母上そのままの情報を持っていたのですから」
(そうかなあ?……まあ、子のためにそれくらいはするかもね。いちおう親だから)
自分のコピーの行動に理解をしめす少女に対して、
息子は
「そして、こここそが混沌の飲みこみを逃れたわたしが受け持つ、ささやかな新世界です」
手を広げて示す。
「……それって、もしかしてあなたが王になったってこと?」
たずねると
「ええ。王であると同時に創造主です。残念ですが、そうなりました」
不本意げだが、首肯する。
「?よかったじゃない。即位おめでとう」
母の祝辞にも
「よくありません。おかげで一から世界を作り直さないといけなくなりました。手も離せない状態です」
それで、ここを離れることができないのか。
「たいへんそうね」
「ええ、とてもたいへんです」
「いつウチにもどれそう?」
気軽にたずねると、
子は沈んだ表情で
「……残念ながら、それが出来なくなりました。わたしは最早この世界と一体です。離れることが出来なくなりました」
そんな!あたし、わざわざあんたを迎えに来たのよ。
「もうしわけありません。たいへん心苦しいです。どうぞ、母上はそこからもとの世界にお戻りください」
背後を指し示すと、そこにあるのは
「――ああ、この時計ね。旅館にあったのと同じ」
大きな振り子時計。この中を通って、少女はわたってきたのだ。
ここをくぐれば、自分はもとの世界に帰ることができる。
しかし
「あなた、ひとりぼっちでこんなところにいつづけるの?」
「ええ。王ですからね。かたときも離れるわけにいきません」
「どうしても?」
「ええ」
「そう……」
少女は顔を少ししかめると
「しかたないわね……じゃあ、あたしもいっしょにいてあげるわよ」
ぶっきらぼうに言った。