妖精息子3の43
「ぷーすけ!」
「やあ、母上。いらしてくださいましたか?」
なにやら机に向かって作業をする、妖精息子のすがただった。
「このような座したままの不遜な態度でお迎えすることをお許しください。なにせ、今ちょっとした作業に手を取られていましてね」
鳥の背を下りて息子にかけよった少女は
「ぷーすけ、あなたこんなところでなにしてるの?あたし、あなたを探しにお医者さんに無理を言って界をわたらさせてもらったのよ……それでそのあと……あれ?それからあたし、どうなったんだろう?なんだかへんな感じ……あれ?あなた、もしかして『坊』?なんだかヘン……夢みたいで」
「ああ、さわこのデータがきみに還流してきたのかな?やっぱり、よく似たもののあいだには情報の共時性が起こるんだね」
言っている意味は分からないが、この人間の子どもの顔を持つカッコウのませた口ぶりを聞いていると、佐和子はうれしくなって彼を抱きしめてしまう。
「ぼっちゃま。無事でなにより」
「……うん、きみも元気でよかったよ」
それを見て、ぷーすけは不機嫌だ。だから母は
「はいはい、あなたもね。無事でなによりよ」
と、座したままの子を抱きしめる。
そんなことをしてもらったおぼえの無い息子は、感極まった悦びの表情で
「はっ、はい!母上のこのたびのご厚情には、わたくしも子としてたいへんな感激をおぼえております!まことにありがたいことでございます!
……本来ならば、わたし自らが世界と世界のはざまに放置されていた母上を探すべきですが、申しましたとおり、今わたしはよんどころない所用に手を取られて動けませんので、やむをえず彼にたのんだのです」
「ふふん、たいしたもんでしょ、ぼくも。すっかり立派になったよ」
カッコウ……坊は、胸を張る。
そのすがたに、佐和子も
「ほんとう。奥方がおられたら、喜んでおられるでしょう……」
なぜだか口をついて出た。涙も出そうだ。
坊は
「えへへ、ぼくはしめっぽいのは苦手だよ……じゃあ、ぼくは行くよ」
「えっ?行くって、どこへ?」
佐和子の問いに
「うん。きみは、ぼくを世話してくれた子のオリジナルだから探したけど。ほんとうは、ぼくはもう巣立ちのときだ。早く番いとなる子を見つけないとね。じゃあバイバイ」
あっさり言うと、またはたはたと虚空の彼方に飛んでいった。