妖精息子3の41
そのことばに
「なにをぬかす!すでに王の座にはオレがついている。この世界の秩序に混沌の入る余地など無い!」
空の王が吠えるが、
騎士はそれに対してそれこそカラカラと嘲笑して
「「座ノ方ハ、ソウ見做シテイナイ、ヨウダゾ。見テミロ、自分ノ身体ヲ」」
「なにを?……あっ!?」
見ると、空の王の巨大な(機械)体が下の方から、ぽろぽろと崩れていく。
ぷーすけ……火の王子は
「ああ。わたしはちゃんと王の権利を譲ると宣言したんですが、それだけではだめでしたか?ちゃんとわたしを倒さないといけなかったようですね。むずかしいものです」
たんたんと分析する。
「そんな!せっかくここまで来たのに!オレは王!オレは王!オレさまは王なんだ!」
金属の硬い体が、それこそ卵の殻が崩れるように粉微塵になって
「あっ、あっ、ああっ……あっしは、お……」
最期のことばも言い切らで、空の王……さわこにとってのカラカラさんは空しくなった。
それにともない、彼と一体化の道を選んだ機械生命群は、種ごとに滅んだ。
あっけない滅亡だった。
(――さあ、今だ。行くのだ)
そのとき、さわこはやっと理解した。今まで自分に語りかけてきた声は、ほかでもない自分自身(の一番奥にいるもの)だった。
混沌の種子をこの座に運ぶこと、そのためだけに自分は生み出されたのだ。奈落から落ちて体になにごとも無かったのも無理はない。種を運ぶものが、高いところから落ちたぐらいで壊れては困る。頑丈に決まっているのだ。
その他、青柳佐和子としての記憶や感情も、運ぶ務めを果たすための方便でしかないものだったのだ。
最優先本能にしたがって、少女の足は自然と王の座に進む。
そのとちゅう、思わずさわこは火の王子をふり返った。今なら、彼が自分に向ける不審な表情の意味がわかる。それは、けっして自分に向けられたものではなく、自分の顔を通して遠くにいる母のことを想う子のものだったのだ。
(そう……そういうことね)
王城で、そして奈落の崖そばで見たときに感じた、この王子を思う気持ちなど所詮、任務のために与えられたまがいもの。
それがはっきりわかった今
(あたしは、自分の本来の役目を果たさなければならない……)
この世界のうすっぺらな秩序を破壊して、ふたたび禍々(まがまが)しくも美しい混沌にもどすのだ。
さわこ……いや混沌の種子の運び手は、王の座に立つ。
火の王子はさえぎらない。
「「――オオ。ツイニ、コノ時ガ来タ」」
少女の体は崩れて、そのなかにある混沌の種が座に根付く……やいなや、そこから水晶宮そして世界のすべてを破壊しつくし無に還す、消去と混乱の奔流があふれでる。
そのあとに訪れるのは、おぞましくも活気あふれる無秩序が支配する混沌世界だ。
目の前にいた火の王子は、崩れいくさわこのすがたを見て悲しい表情になった。それはもちろん、模したものはいえ母のすがたが崩れることへの悲しみであり、さわこに向けられたものではない。
そして、その王子もまた暴威をふるう無の濁流に飲まれて崩れていく。冷ややかな視線をまがいものに注ぎながら……
(これでいいんだ。あたしはすべきことをした。ああ……与えられたあたしの個性も砕けて無に還っていく……そう。これでい……)
そのとき、ぷーすけが言った。
「……ははうぇ……」
!
すべてが、無に帰した。