妖精息子3の39
その変化の様子を、さわこはただながめていた。これで、この世界はもとどおりに安定するのか……。
『――そんなことをさせてはならない』
また声がした、と思ったとき
バリンッ!!
宮殿の水晶の天井を突き破って落ちてきたのは、組んずほぐれつ戦う黒鎧の騎士と
「ぷーすけ!」
火の王子のすがただった。
彼らは落下すると、互いにすばやく距離をとって
「「――邪魔ヲ、スルナ」」
「――やれやれ。なるべく宮殿から遠ざけようと思ったのだが、なかなか強引なものだ。押しが強くていけない」
にらみあう。
彼らを空の王子……いや、もはや王になったものは、その座から見下ろして
「おそかったな、汚れた混沌のものめ。この座にはすでにオレが着いた。オレさまが、この世界の新たな王……秩序だ」
威厳ある声で威圧する。
それに対して、黒鎧の騎士は
「「秩序ナド、ミトメナイ。ソノ座ニハ、ワレラノ種子ガ、根ヲ張ル」」
言うと、玉体を槍で刺し上げんとする。
しかし、王は
「――退れ!けがらわしきもの!王前である!」
腕より出したレーザーで、混沌の騎士の鎧を貫き、転がす。
そして
「王の与える秩序は、混沌に死を与える。いまわしき混沌の種を持つものをこの座に近づけてなるものか!この世界は、永遠にオレのものだ!」
呵々大笑する。
それに対して、混沌の騎士は穴の開いたところから身を崩しながら
「「……近ヅケナイ?何ヲ言ッテイル?オマエガ、種ヲ座ニ近ヅケテクレタ」」
くぐもった声で嗤う。
どういうこと?
「「――ワレハタダ、種子ガ着床スル『支援』ニ、派遣サレタモノ。ソシテ今、ソノ任務ハ完遂サレタ。無事ニ種子……新シキ混沌ノ母胎トナルモノガ、座ニ至ッタ……」」
その視線の先にいるのは、ほっそりとした少女だ。
「「ヨクヤッタ、種子ノ運手」」
うやうやしく頭を下げる騎士に
「なにを言っているの?」
とまどうばかりのさわこだったが、
空の王は目を見開いて
「そういうことか!?退れ、けがらわしきもの!」
少女に攻撃を加えようとするが、
それを防ぐものがいた。火の王子……ぷーすけだ。
「やめろ。そのものに危害を加えてはならない」
その態度に、さわこは喜んで
「さすが!やっぱりあたしのことをわかっていたのね?まったく、あたしのことを忘れちゃったのかと心配しちゃったじゃない」
息子を褒める。
「……その顔を見間違うことなどありえない」
そんな火の王子に、
空の王は
「なにをする!?今のこのものの言を聞いただろう!その娘こそが混沌の種子!われらが敵だ!」
訴えるが、
赤髪の王子は平然と
「そんなことは、わかっている」
言った。
――へっ?なにを言っているの?あたしは佐和子。あなたのたまごを拾って誕生を見とどけた……いちおうは養い親よ。
そう訴える少女を、
火の王子は憐憫のまなざしで
「それはちがう。おまえは、わたしの崇敬する母ではない」
首をふった。




